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 ケイトリン・リトルは、アメリカ・ノースカロライナ州グリーンズボロにあるサウスイースト・ギルフォード高校2年だ。

 一年半前、クロスカントリーの練習中の事故で脳震盪を起こし、その後遺症で特殊な記憶障害に苦しんでいる。

 毎日夜寝ると、ケイトリンの新しい記憶はすべて消えてしまい、朝、目覚めるといつも今日は事故があった2017年の10月だと思ってしまうのだという。

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Caitlin Can't Remember episode 1: Greensboro teen has anterograde amnesia

映画「50回目のファースト・キス」の主人公と同様の記憶障害

 ケイトリンのこのケースは、ドリュー・バリモア主演の映画『50回目のファースト・キス』を思い出させる(なおこの映画は2018年に日本でリメイク作品が公開されている)

 この映画の主人公も、悲惨な自動車事故の後遺症で、事故以降の新たな記憶を保つことができない。彼女にとっては、朝、目覚めるといつも事故の日なのだ。

 2004年にこの映画が封切られたとき、バリモアが苦しんでいたのは、ゴルトベルグ症候群という架空の健忘症という設定で、ある臨床神経心理学者は、これは神経学や精神医学で知られているどんな症状とも関係はないと主張していた。

 しかし、それ以降、短期記憶がリセットされてしまう症例が実際にいくつか報告され、今では、この架空のゴルトベルグ症候群は、医学的にきちんと認識された前向性健忘症という疾患として周知されている。


Caitlin Can't Remember episode 2: Greensboro teen with anterograde amnesia - how does she do it?

朝目覚めると、事故を起こした日の記憶に戻ってしまう

 当時16歳だったケイトリンが高校のクロカンの練習中に脳震盪を起こしてから17ヶ月がたったが、彼女にとってはそれは文字通り昨日のことなのだ。

 2017年10月12日、チームメートのひとりがよろめいたはずみでたまたまぶつかってきて、ケイトリンは転んで頭を打った。

 当時、コーチや神経科医は、ひどい脳震盪だが、数週間で解消すると考えた。しかし、時間が過ぎるとともに、ケイトリンは通常の経過とは違う症状を見せ始めた。毎日、両親は彼女を起こし、今日が何日なのかを伝えて、2年前に頭を打ったことを説明しなくてはならなくなった。

わたしはいつも怖れています。あの子がベッドから起きてきて、"それは違う"とか"それはありえない"と言われるのではないかと。

どうして、あの子に嘘をつけるでしょう? だから毎朝、今日は何日なのか、あの子に伝えるときに本当にためらいます。でも、それがわたしの務めですから、あの子に伝えなくてはならない


ケイトリンの父親は語った。


‘Caitlin Can’t Remember’ – episode 3: Getting through school with anterograde amnesia

記憶障害と戦う少女とそれを支える大人たち

 幸いなことに、ケイトリンは自分の状態について知った後、自分の身に何が起こっているかを理解することができた。

 しかし、彼女にしてみれば、当然のことながら驚愕以外のなにものでもなく"どうしてそうなるの?"という疑問ばかりだった。

 父親は娘に、事故以来起こったことについて書き留めた日誌を読ませ、疑問があれば、パパのところに訊きに来なさいと言っている。

 ケイトリンの記憶障害は、前向性健忘症の一種だと思われるが、、学校生活にも支障をきたしている。毎日学んだことを記憶できないからだ。

 自分の先生の名前も忘れてしまうため、いちいち書き留めておかなくてはならない。彼女の特殊教育の先生、トレイシー・ヘルムスは、毎朝、ケイトリンは初対面のようにふるまうという。

わたしが教室に入っていって、ケイトリンと会っても、彼女はわたしが誰だかわからない。クラスで自分の席がわからないし、担任が誰だかもわからない。彼女にとって、毎日は新鮮で初めての体験なのです。忘れてしまうので、すべて初めて目にするのですから


'Caitlin Can’t Remember' – episode 4: Devastating conclusion for teen with anterograde amnesia

難しい治療と困難な日常

 多くの医師を訪ねたが、誰もケイトリンの症状を改善することはできなかった。ケイトリンの現在の治療には一日1000ドルかかるといわれているが、両親の貯金も急速に底をつきつつある。

 そんなとき、MyFox8のドキュメンタリーシリーズで、「ケイトリンは記憶できない」という番組が放映されて、彼女の症状が取り上げられ、それ以降、クラウドファンドのGoFundMeを通して支援を受けている。

 ケイトリンの家族は、いつか娘の脳のスイッチが元に戻って、また新たな記憶を保つことができるようになることを願っているが、当分は彼女はこの珍しい健忘症とつきあっていく術を学ばなくてはならない。

わたしはとてもまめにやっていかなくてはならないわ。あちこちにたくさんのポストイットが貼ってあるの。

そこには"さあ、これをやろう"とか、"これは新しいこと"とか"わたしを助けてくれるもの"とか、書いてある。これらがなかったらどんなことになるか、すぐに想像はつくわね


ケイトリンは言う。

References:Rare Condition Causes Teen's Short Term Memory to Reset Every Day/ written by konohazuku / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52274801.html
 

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