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 殺人アリの異名を持つアカヒアリの同属近縁種であるアカカミアリ(学名 Solenopsis geminata)は、アカヒアリ同様アグレッシブで、攻撃を受けたとみなすと噛み付いたり、腹部の針で刺したりしてくる。

 アカカミアリもアカヒアリ同様、貿易の拡大によって世界各地で発見されており、侵略的な外来種として問題になっている(日本でも東京港神戸港で発見された)。

 アカカミアリが新しい土地に侵入したとき、巣が限られているために近親交配をせざるを得ない。すると、子供に遺伝的な問題が生じやすくなり、彼らの生存を脅かす結果となる。

 ではどうするのか?最新の研究によると、アカカミアリは共食いをすることで、遺伝的多様性の乏しさという問題を乗り越えようとするのだそうだ。

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やっかいものの二倍体のオス

 アカカミアリがその勢力を拡大するには、新しく巣を作らねばならない。そのために、女王アリは交尾を済ますと新天地を求めて空へ飛び立っていく。

 それは危険な旅路だ。捕食者を避けつつ、産卵に適した場所を見つけねばならない。そして、速やかに娘(=働きアリ)を産むことができなければ、エサが手に入らず、飢え死にするしかない。

 女王アリは2種類の卵を産む。受精卵と未受精卵で、前者からは働きアリとなるメスが、後者からは基本的に交尾のための存在でしかないオスが生まれる。

 ゆえにメスには各遺伝子のコピーが2つあり(二倍体)、オスには1つしかない(単数体)。

 ところが、女王アリと交尾相手の血縁関係が近いと、アリの性決定メカニズムの欠陥のせいで、受精卵の半数が働きアリではなく二倍体のオスに発達してしまう。

 先述したとおり、オスが担う役割は女王アリとの交尾だけ――エサを集めるようなことはなく、交尾をすませると死んでしまう。生活能力ゼロである。

 それなのに困ったことに二倍体のオスは、不妊(条件特異的変異の一つで、オス個体が特異的に生殖能力を失う変異)であることが多く、本来の存在意義すら果たせない始末。ついでに、その幼虫は働きアリのものよりも大きく、大飯食らい。完全なる厄介者だ。

 だから巣を築こうと頑張っている女王アリは、エサを集めず、子供も作れないオスを産んでもちっとも得しないし、それどころか体は大きいくせに役に立たない奴にエサを与えては、貴重な資源を無駄にすることになってしまう。

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cturtletrax/iStock

働かざる者食い物になる。捨てられた挙句エサとなるオス


 オーストラリアでも、中南米原産のアカカミアリなどのヒアリの侵入が問題となっており、その駆除を進め地元の生態系を守るために、彼らの生態調査が行われている。

 その一環として、オーストラリアジェームズクック大学の研究チームは、ダーウィンに定着したアカカミアリの巣を調査。10匹中8匹は二倍体のオスであることが判明した。

 研究チームはさらに交尾したばかりの女王アリ1187匹を集め、単独あるいは他の女王アリと一緒に巣を作らせてみた。

 その結果、二倍体のオスが生まれた巣の34パーセントで、女王アリが二倍体のオスの幼虫をゴミ捨て場に置いて、働きアリの幼虫と隔離するところが観察された。

 アリが死んだ仲間の死骸を他の仲間から遠ざけておくのはよくあることだ。しかしアカカミアリの捨てられた幼虫を顕微鏡で覗き込んでみると、なんとまだ生きていたのである。

 しかも女王アリは自分の息子たちを捨てただけでなく、どうやら食っているらしかった。観察が開始されてから12日以内に、二倍体のオスの幼虫109匹のうち4分の3が巣から姿を消していたのだ。

 その時点で成虫だったのは女王アリしかいない。ということは、女王アリが二倍体のオスを食べたか、働きアリの幼虫にエサとして与えたかのどちらかだということだ。

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HonBK1988/iStock

共食いによって無駄を減らし、女王アリや働きアリに栄養を行き渡らせる


 こうした共食いによって、巣に存在する栄養を女王アリ自身か、より生産的な仲間に再度振り分けることが可能になる。

 二倍体のオスの幼虫は、まったくの役立たずだというのに、働きアリの幼虫よりも多くの栄養を必要とする。

 そのために実験前の予想では、二倍体のオスの幼虫が生まれた巣では、そうでない巣に比べて、女王アリの体重が軽いはずだと推測された。

 ところがそうではなかったのだ。そして、おそらくその原因は、女王アリが自分の子供たちを食べているからなのだ。

 なお女王アリ同士で協力して巣を作らせたケースでは、働きアリが多く生まれることがわかった。

 ならば不妊化したオスが生まれたとしても、巣のメンバーが生き延びる可能性は高まるはずだ。

 それなのに、6パーセントのみであるが、協力関係が破綻した巣もあった。そこでは片方の女王アリが殺されバラバラにされてしまっていた。

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共食いや女王アリ同士が協力する理由


 不妊化したオスを食うことと女王アリ同士で協力して子育てをすることは、近親交配を避けるための行動メカニズムだと考えられる。

 しかし3つ目の可能性として、女王アリに出来るだけ多くのオスと交尾するチャンスを与えるという意味もあるかもしれない。

 それは自分とは遺伝的に異なるオスと交尾できる確率を上げるために、二倍体のオスが生じる可能性を低めることになるだろう。

 女王アリが交尾するのは、巣から飛び立つ直前だけだ。そのとき「受精嚢」という器官にオスの精子を蓄えている。

 そこで女王アリ40匹の受精嚢から集めた精子を遺伝子解析した。が、複数のオスと交尾したことを示す証拠は得られず、3つ目の仮説についてははっきりしないままだ。

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オーストラリアに侵入したヒアリによる被害


 現在オーストラリアのアシュモア・リーフ海上公園にはアカカミアリが定着してしまった。

 ここはウミガメやウミドリの重要な産卵場所であり、生まれたてのカメやヒナがアリに攻撃されるという憂慮すべき事態が生じている。

 またノーザンテリトリークイーンズランド州、西オーストラリア州にも彼らが繁殖しやすい環境があり、そこにある生態系だけでなく、住人の生活をも脅かしている。

 過去10年間で、アカカミアリ対策として約311億円が費やされてきたが、駆除には成功しておらず、人間・作物・家畜等への被害で年間約1240億円もの損害が生じていると試算されている。

 一度定着したヒアリを根絶するのは容易ではない。水際で食い止めることが大切であるとよくわかる事例だ。

 この研究は『Scientific Reports』に掲載された。

References:Cannibalism helps fire ants invade new territory/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52274702.html
 

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