カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.36 鎌倉紅谷「クルミッ子」】




クルミッ子」というお菓子をご存じだろうか。鎌倉の「鎌倉紅谷」が作る今人気の銘菓だという。


 自家製のキャラメルクルミをぎっしりと詰め込み、さらにそれをバター生地でサンドした代物らしい。


 如何(いか)にも美味そうだと思う。
 しかし、若干(じゃっかん)胃の年式が古いものからすれば過積載すぎて「誰か降りてくれ」というブザーが鳴らぬでもない。


 しかし、結論から言うと、このクルミッ子、全く「こってりし過ぎ」ということはない。
 特に見た瞬間「甘そう」と思うのだが、正直甘さに関しては「控えめ」と言っても良い。


◆「クルミッ子」はもはや「クルミ」なのである
 なぜなら「クルミをぎっしり」の「ぎっしり」が冗談じゃなさすぎて、キャラメル部分はもはや「つなぎ」ぐらいの役割であり、バター生地も薄い。つまり「クルミッ子」はもはや「クルミ」なのである。


 クルミが完全に主役であり、それを若干のキャラメル香ばしいバター生地が引き立てている状態なので、全くクドくないのだ。ここでキャラメルバター生地も「俺も!俺も!」と言い出したら、この菓子は重量オーバーで退場になっていたと思う。



(画像:鎌倉紅谷 公式サイトより)



 そのものに濃い味があるわけではないクルミを甘いキャラメルが補い、さらにバター生地が食感と香ばしさを添え、非常にバランスの良い、食べるものを選ばない銘菓になっている、全国で大人気だというのも頷(うなず)ける。


 しかもクルミナッツ類でオメガ3脂肪酸を最も多く含んでいる。
 それが何に良いのか見当もつかないが「オメガ」というからには強いに違いない。他にもクルミはいろいろ含んでいる栄養価の高い食べ物だ。


 よって、クルミっ子は胃にクるどころか、一周回って健康に良い「ヘルシー菓子」のカテゴリに入れても良いのではないだろうか。


◆職人の手による手作り「体力的にキツい」が「でもやる」精神
 そんな売り切れもある人気商品にも関わらず、クルミッ子は未だに職人の手による手作りだという。正直「体力的にキツい」らしいのだが、それでも日本中で人気なのが嬉しくてたまらないので、「でもやる」という精神で手作りを続けているそうだ。


 目先の利益ではなく、まずは純粋に人を喜ばせたいと思う心が後々利益を生む、という好例である。


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 しかし、それは作り手が言うことであり、作らせる側が「後であなたの利益になりますから今はタダで」というと、ツイッターが炎上するので言ってはいけない。


 これだけではただの良い話なので、もう一つ「クルミッ子検定」という記事(あなたは「クルミッ子検定」何級? 鎌倉紅谷の社長においしさの秘密を聞いてきた/Rettyグルメニュースより提供)がなかなかキレていたので紹介したい。


クルミッ子のローマ字表記の理由のコクが深い


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クルミッ子検定」とは、クルミッ子ファンという意味での「クルミっ子」たちへの挑戦状、というわけではなく、クルミッ子に関する社長へのQ&A集であり、この知識さえあれば、あなたもクルミッ子マスター、どこに出しても恥ずかしくないクルミっ子というわけである。


 紛(まぎ)らわしいので先に進むが、まず1題目が「クルミッ子の正しい表記は?」だ。
 さすが「検定」というだけあって「そこから?」という意外性がある。


 まず答えから言うと「Kurumicco」だ。商品を若干ひねったローマ字表記にすることは珍しくないのだが、この表記になった理由のコクが深い。


◆「Kurumicco」決定話がエピソードとして完成されすぎている


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 数年前、1人の「クルミっ子」から自身のアカウントに「クルミッ子」という文字を入れていいかというメッセージがきたそうだ。
 パクり無断転載が横行する世の中に置いて、わざわざ個人アカウントクルミッ子と入れて良いかと公式に許可を仰ぐ姿勢、まさにクルミっ子の鑑だ。


 そのクルミッ子が入れようとした文字が「Kurumicco」だったという。


 それを見た社長が「それいただき」と思ったため、クルミッ子の表記は「Kurumicco」になったそうだ。


 同人で流行った要素を公式が取り入れる、という最近のアニメ界隈などで見られる現象がまさかクルミッ子でも起こっていたとは思わなかった。
 ちなみに、そのクルミっ子は今では鎌倉紅谷のスタッフになっているという。逸話として完成されすぎている。


◆第二問:パッケージにいるリスの名前は?


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 第二問目は、クルミッ子のパッケージにいるリスの名前は?という問題だ。


 答えは「リスくん」である。
 第一問目が全く予想もつかない展開だったのに対し、このドストレートさ、さっきからクルミッ子検定に翻弄されっぱなしだ。


 このリスくんは、クルミッ子のアレンジ商品が楽しめるカフェの「隠れキャラ」としてカフェ内やラテアートにこっそりいるらしいのだが、「残像のようなリスくん」や「おぼろげに浮かぶリスくん」が確認でき、「リスくんとは概念なのか」と思わせてくれる哲学的なキャラクターだ。


◆「全部真面目にやっている」という点が面白い
 その後も若干様子がおかしいQ&Aが続き、何と9問目に「クルミッ子誕生のきっかけ」が出てくる。表記が1番に出て来て、9番に誕生秘話が来ると言うひっかけ問題だ。


 ちなみにクルミッ子が生まれたのは他製品のあまりを無駄にしたくないという「エコロジー精神」から生まれている。


 このように随所が面白いクルミッ子検定なのだが、一番面白いのは「全部真面目にやっている」という点だ。一切ふざけていない結果、半端なふざけより面白くなっているのである。


 真面目にやることが如何に大切か、クルミッ子は改めて教えてくれた。


<文・イラストカレー沢薫 ※当記事は「Rettyグルメニュース」による引用許可を得て制作しております>


カレー沢薫】かれーざわ・かおる
1982年生まれ。漫画家コラムニスト2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』、コラム集に『負ける技術』『ブスの本懐』『やらない理由』などがある