◆日露の映画交流が復活。アムール州で「日本シネマデイズ

ロシア映画祭2018年ロシア映画団も、日本観光を満喫。左端がリーザ・アルザマーサさん、左から2人目が「アムールの秋映画祭」代表のセルゲイ・ノヴォジーロフさん

 丸山穂高議員の「北方領土を返してもらうには、戦争をしないとどうしようもなくないか」という発言が国内外に波紋を広げている。ロシアの上院委員長も「最低だ」と批判、日本の野党6党からは辞任勧告、自公からは譴責(けんせき)決議案が出ている。このことに筆者は頭を抱えている。

 筆者が代表する一般社団法人ユーラシア国際映画祭は、今年9月に開催されるロシアアムール州政府主催の映画祭で、7本の日本映画を紹介する「日本シネマデイズ」を企画していて、今まさにロシア側と諸条件についての交渉をしている最中だからだ。議員のうかつな発言が、日露映画交流に悪影響を及ぼしませんように……。信頼を壊すのは一瞬だが、友情を積み上げていくのには根気がいるのだ。

 17年間続き、地元の俳優・監督・市民4万人を集める「アムールの秋映画祭」で、日本映画がまとめて紹介されるのは初めてのこと。黒澤明監督が日露合同映画『デルス・ウザーラ』を作った1975年以降、近年まで日露の映画交流は非常に少なかった。「日本シネマデイズ」は、40年止まっていた日露文化交流の時計を再起動する貴重な一歩だ。

ロシアの「アムールの秋映画祭」を描いた映画『叙情』(ニコライ・ブルラク監督)場面から(リーザ・アルザマーサさん出演作)

 今回の映画祭開催のきっかけは、2017年2018年と、ロシア文化省主催のロシア映画祭in東京を企画・サポートしたこと。ロシアの映画団を、ボランティアで関わってくれた多くの皆さんとともにもてなした。

 映画祭の会場をすべて満席にし、大和流家元・須永有輝子先生のお茶会を開催し、一般社団法人日本リ・ファッション協会の協力で着物の着つけを行なった。ロシア女優リーザ・アルザマーサさんInstagramに着物姿を投稿すると、数十秒で何千件もの「いいね!」がついた。

 今回の「日本シネマデイズ」は、そんな多くの方々の努力と優しさのおかげで実現する。丸山議員に言いたい。「最近の日露は“戦争”どころか、旅行やビジネスの面でかつてないほど仲良しですよ!」と。

◆訪日ロシア人の数は、過去最高数を記録。ベトナムに次いで2位の伸び率

ロシア映画祭in東京2018年の開幕前に、意気投合する日露映画関係者。司会は堀潤さん

 2017年1月に訪日ビザ要件が緩和されたのを受けて、訪日ロシア人は2016年の5万4000人から2018年には9万5000人へと大幅に増加し、過去最高となった。800万人を超える訪日中国人などに比べるとまだまだ少ないが、その成長率は目ざましい。2018年、訪日ロシア旅行客は前年から22%増で、伸び率はベトナムについで2位だ。

 ロシア中央アジアに詳しい旅行代理店JICの伏田昌義代表取締役社長は、ロシアと日本の観光の変化についてこう分析する。

「現状では、日本からロシアへ約10万人、ロシアから日本へも約10万人と、双方向で約20万人の観光交流となっていますが、これを2023年までの5年間で日露双方向40万人に倍増させようという野心的な交流プログラムが、2018年の安倍・プーチン首脳会談で合意されました。日露観光交流は今後ますます拡大するだろうと期待しています」

 ロシア人が好む日本の観光地については「基本的に、ロシア人観光客は初めて訪日する人が多いため、ゴールデンルート(=東京、箱根、京都、奈良)を訪れる人が大半です。しかし最近は、金沢-白川郷飛騨高山-長野、高野山-熊野古道、別府-阿蘇山-高千穂-鹿児島、岡山-倉敷-直島、屋久島-沖縄といったところに足を延ばす観光客も増えてきています。ロシア人観光客が大好きなのは、日本の伝統文化、日本料理、それに温泉です」

 ちなみに日本人観光客には、ボリショイ劇場やエルミタージュ美術館など、ロシア文化をめぐるツアーが人気とのこと。

「日本に近い極東のシベリア、ウラジオトク、ハバロフスク、バイカル湖のあるイルクーツク、あとシベリア鉄道も人気があります」(伏田)

 アジア各国への輸出の競争率が高くなる中、隣国ながら参入が少ない日露でのビジネスも好調だ。JETROの実態調査(2018年)によると、ロシアに進出している日系企業の業績は78%が黒字収支(赤字は過去最低)。アジアの工場で生産したものをロシアで販売するような、“メイド・イン・ジャパン”ならぬ“メイド・バイ・ジャパン”にも注目が集まる。

◆着実に積み上がる、日露の文化交流

「日本シネマデイズ」参加作品映画『ひとりじゃない』(鐘江稔監督)より。被災地の思いをロシアに届ける

 日露の映画やテレビドラマでも交流を深めている。2018年には、ロシアの人気俳優アレクサンドル・ドモカロフ氏主演のテレビドラマシリーズスパイ・ゾルゲ』が日本で放送された。またアレクサンドル・ドモガロフ氏が出演する、愛媛県松山市にあったソ連兵捕虜施設を舞台にした日露合同制作作品『ソローキンが見た桜』(井上雅貴監督)がモスクワ映画祭で招待上映された。

 冒頭に伝えたロシアの「アムールの秋映画祭」の「日本シネマデイズ」でも、日本映画が上映される。上映作の一つが、宮城県豊里町で東日本大震災の被災によって家族を失った高齢者が、孤独と向き合いながら生きる姿を描いたドラマ作品『ひとりじゃない』(鐘江稔監督)だ。

 鐘江監督は「日本では一人暮らしの人や、孤独死の数も増えています。被災地で家族を失った人がどんなに寂しい思いをしているかを伝え、人との素晴らしい出会いがあれば、明るい希望につながることをロシア・世界に伝えたい」と抱負を語った。

 今年は9月20日にラクビーW杯の日本×ロシア戦が味の素スタジアムで開催され、東京のほか熊谷、神戸、小笠山(静岡県袋井市)でロシア戦の試合も行われる。これらの地域ではロシア映画『叙情』の上映も企画されている。

 日露の民間交流が着実に積み上がっている中、政治がそうした友好に水を差すことがないように願いたいものだ。

<文/増山麗奈(一般社団法人ユーラシア国際映画祭代表)>

ロシア映画祭2018年のロシア映画団も、日本観光を満喫。左端がリーザ・アルザマーサさん、左から2人目が「アムールの秋映画祭」代表のセルゲイ・ノヴォジーロフさん