アニメを観ていると、エンディングにスタッフロールが流れてくる。監督や原作者、脚本、シリーズ構成……と、観ているだけで様々な役職の人間が関わって作品が作られていることを実感できる。

 しかし、先に挙げた監督や脚本などは良いとして、「原画」や「動画」「撮影」といった役職にあたる人物が、どんな仕事をしているか存知だろうか。なんとなくキャストだけを流し見して、サラッとスルーしてしまってはいないだろうか。

 それは余りにモッタイナイ! スタッフの名前自体を覚えていなくとも、それぞれの役割が作品に対してどのように関わっているかを知るだけで、アニメ鑑賞の楽しみは大きく広がるのだから! ……というわけで今回は、何となく流し見してしまいがちな「スタッフロールに登場する役職」についてのコラムをお届けする。

<フォト>「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」場面写真

 スタッフロールの中で、(キャストを除き)最も多くのスタッフ名が表示されるのは“動画”および“原画”だろう(例外あり)。ということで、まずはこの2つについてご説明しよう。

 原画と動画は、双方ともにアニメの画面に表示される絵を描く役割を担っている。メディアで「アニメーター」と呼ばれるのは、大概の場合はこの役職にあたる人物だ。「じゃあやることは同じなのかな?」と思ってしまうかもしれないが、そうではない。

 アニメを制作する際は、監督が作品の方向性を決定し、最初に作品の設計図にあたる「絵コンテ」を制作する。それに沿って、要所要所の絵を描くのが“原画”、原画同士の間をつなぐ絵を用意するのが“動画”となるのだ。

 例えば「椅子から立ち上がる」というアニメーションを作る際は、原画担当が「椅子に座っている絵」「中腰の絵」「立ち上がっている絵」の3種類を描き、動画担当はその間を埋めるように絵を描く。これらを組み合わせることで、ひとつの動き(アニメーション)が完成するというわけだ。

 現在名を広く知られているアニメ監督の多くは、動画担当からアニメーターとして業界にデビューし、原画担当を経て現在の地位に就いている。脚本家や、監督などの華やかな活躍の影で、力強く作品を支えているのは、他でもない“原画”と“動画”に名前を連ねているスタッフたちなのである。

 続いては、意外に多くの役割がある“仕上げ”という役割をクローズアップしてみよう。仕上げ、という曖昧な表現だと分かりにくいかもしれないが、要するに絵に彩色する工程を指している。原画や動画が完成させた一連の絵をスキャンし、コンピューター上で指定に従った彩色を行うのだ。

 彩色する色の指定も仕上げ工程の中で行っている。多くの場合、色の指定を行うのは“色彩設計”と呼ばれる役職のスタッフでだが、各話エンディングロールの中では“色指定”としてクレジットされることも。

 これは余談だが、1990年代以前までは背景が透明な「セル」と呼ばれる画材に、直接絵を描くのが基本的な手法だった。現在はコンピューター上で行われている仕上げ(彩色)などの工程も、絵の具などを使って1枚1枚行われていたため、少し古いアニメでは「仕上げ」に多くの名前が連なっている。

 その他にも、各種役職の名前が登場する順序など、時代を遡るとスタッフロールの姿が少しづつ変化しているのが分かるはずだ。興味がある人は、そういった方向に目を向けてみても面白いかもしれない。

 仕上げ工程が完了した絵と、背景スタジオからアップされた背景が揃ったら、次に取り掛かるのは“撮影”だ。こちらでは、これまでに用意されたイラストや背景を組み合わせ、ひとつの絵に落としこむ作業が行われる。

 また、爆風の中に生じる「火花」や「チリ」、水中の「ぼやけ」といった演出効果(エフェクト)も、この作業を行う中で加えられる。演出で作品の雰囲気が大きく変化するため、職人芸が光る工程と言われており、コアなファンには注目される役職だ。

 セルアニメーション時代と現代で手法が大幅に変わっている工程のひとつであり、実際に見比べるとその違いが良く分かる。昨今では、旧来の手法と、デジタル時代の手法をそれぞれ使用している「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」と「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」が分かりやすい例だ。両作品を観る機会があれば確認してみよう。


 ここで紹介したのは、数多くアニメ作品に関わる役職のうち、最も代表的なものでしかない。実際には、3D映像を扱う専門のスタッフや、映像編集スタッフ、音響に関わるスタッフなど、両手では収まり切らないほどの役職が存在する。それぞれの役割に深いノウハウとこだわりがあって、ようやくひとつのアニメーションが完成するのだ。

 何かしらのアニメーション作品を好きになり、ひと通り作品を見終えたら、次に「どうやってこの作品が作られたのだろう」という事柄を考えてみよう。その後に同じ作品をもう一度見直すと、また違った世界を見られるかもしれない。(文:蒼之スギウラ)

 「天元突破グレンラガンCOMPLETE Blu‐ray BOXは、2013年6月26日(水)発売 

「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」 「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」 (C)GAINAX・中島かずき/劇場版グレンラガン製作委員会