5月28日に起きた川崎殺傷事件は、日本中に衝撃を与えました。両手に包丁を持った男が、スクールバスを待っていた小学生たちに次々と襲いかかり、最後には自ら命を絶ったというこの事件は、テレビなどでも大きく報道され、さまざまな議論を呼び起こしました。

 そんな中、2人のお笑い芸人がそれぞれの番組で、この事件について話したことが話題になりました。爆笑問題太田光さんとダウンダウン松本人志さんです。

松本発言は「優生思想」なのか?

 太田さんは6月2日放送の「サンデージャポン」(TBS系)で、長年引きこもっていたという51歳の容疑者の立場に理解を示しました。太田さん自身も学生時代に、一人も友達がおらず、何にも感動できなくなってしまったことがあったとのこと。

 そんな時に美術館ピカソの絵を見て、救われた気分になったそうです。自分のことがどうでもいいと思っているような人も、きっかけさえあればすぐ変わることができる。太田さんはそのように熱く語ったのです。

 凶行を起こした容疑者の心にまで寄り添い、励ますように訴えかけるその姿は、多くの視聴者に強い印象を残しました。

 一方、これとは対照的だったのが、同日放送の「ワイドナショー」(フジテレビ系)での松本さんの発言です。松本さんは事件を受けて、こう述べました。

「うん、だからその、僕は人間が生まれてくる中でどうしても不良品っていうのは何万個に1個、絶対これはもう、僕はしょうがないと思うんですね。それを何十万個、何百万個に1つぐらいに減らすことはできるのかなっていう。みんなの努力で。まあまあ、正直、僕はこういう人たちは絶対いますから、絶対数。もう、その人たち同士でやり合ってほしいですけどね」

 凶悪犯罪者を“不良品”と呼び、一定の確率でそのような人が現れることは避けられない、という趣旨の発言をしたのです。太田さんの発言と比べると、事件を起こした容疑者を突き放しているようにも見えます。

 ネット上では、この発言を問題視する声が多く、出来の悪い人間は排除すべきだという「優生思想」に近い危険な考え方だと指摘する人もいました。

 確かに、松本さんの発言には、そのような誤解を招く不用意な部分も見受けられます。ただ、松本さんの言いたかったことをくみ取って解釈するなら、そこに「優生思想」のような考えはなかったのだろうと思います。

 具体的には、「人間が生まれてくる中で」という表現がちょっと不適当だったのではないでしょうか。これを文字通り受け取ると、「生まれながらにして出来損ないの人間というものが存在する」と言っているように感じられてしまうからです。

 ただ、松本さんは、本当はそんなことが言いたかったわけではないのだろうと思います。彼の発言の根底にあるのは、凶悪犯罪を起こした人に対する怒りです。そして、松本さんは、その怒りをぶつけるべき場所がないことも知っているのです。それが「何万個に1個の不良品」という言い方に表れています。

 この事件に限らず、何か犯罪が起こると、マスコミでは犯人が犯行に至った動機を解明しようと背景を探っていきます。そして、家庭環境が悪かったとか、貧乏だったとか、いじめに遭っていたとか、引きこもりだったとか、友達が少なかったとか、それらしき原因を見つけようとするのです。

 しかし、当たり前のことですが、犯人が引きこもりだったからといって、全ての引きこもりが同じような犯罪に走るわけではありません。マスコミが血眼になって探している「凶悪犯罪を起こしてしまう根本的な原因」などというものは、実は存在しないのです。

犯罪は人災であると同時に“天災”

 だから、犯罪というのは、人災であると同時に天災のような理不尽なものでもあるのです。何万人に1人の確率で、私たちの社会にはとんでもない犯罪者が出てきてしまう。そこには、いかなる特定の理由もない。だから、原理的には避けることができない。これは、確率統計的な真実です。

 そして、身もふたもない残酷な真理だからこそ、マスコミなどでは、このような主張が語られることはありません。犯罪の被害に遭った人に対して、「あなたは何の理由もなく、たまたま被害に遭ってしまったんですよ」というのは、真理ではあるかもしれませんが、道徳的に正しくないことだとされているからです。

 松本さんは、一定の確率で“不良品”が出てきてしまう、この社会の理不尽さを嘆いているのだと思います。そして、嘆くだけではなく、私たちにできることがあるとすれば、そのような犯罪者が出てくる確率を少しでも減らすことくらいだろうと言っているのです。これ自体はまっとうな主張であり、特にたたかれるようなことではないと筆者は思います。

「生まれながらにして出来損ないの人間がいる」という考え方は、明らかに今日の社会では許されません。“不良品”という言葉は、そのような連想を引き起こしやすく、誤解の余地のある言葉ではありますが、松本さんは「生まれながらの不良品が存在する」と言っているわけではなく、「凶悪な犯罪を起こしてしまった人に対して、『不良品』と呼びたくなってしまうくらい理不尽さと怒りを感じる」と言っているのだと思います。

 実際、番組内でも、松本さんのこの発言を受けてジャーナリストの堀潤さんが「計画的なテロなどと違って、突発的な凶悪犯罪を未然に防ぐのは難しい」という話をしていました。「一定の確率で理不尽な凶悪犯罪が起こってしまう」という松本さんの発言の趣旨を理解した上での反応だと思われます。

 ちなみに、筆者自身は、何が何でも松本さんのひいきをしたいわけではありません。松本さんが過去に言っていたことで違和感を持ったり、自分の考えとは違うと思ったりしたこともあります。ただ、今回の件に関しては、松本さんの言いたいことが十分にくみ取られていないと感じただけです。

 太田光松本人志という、トップクラスの芸人が自分の言葉で世相を語る「サンデージャポン」「ワイドナショー」は、それぞれに魅力のある番組だと思います。

お笑い評論家 ラリー遠田

松本人志さん(2017年3月、時事)