6月最初の日に、Re:AcT所属のバーチャルアーティスト・花鋏キョウのVRライブ「花鋏キョウ VR LIVE – Sprout -」がclusterにて開催されました。

VTuber業界全体で見ても指折りの歌声を持つ彼女。先日、グループ内初となる3D化も果たし、さらにはオリジナルソング「蒼に躊躇う」もリリースするなど、直近の活躍がめざましい一人でもあるだけに、今回のライブには注目が集まっていたように思います。

そんな、自身初となる花鋏キョウのVRライブへ、わたくし浅田カズラもお邪魔させていただきました。本記事にて、その様子をレポートさせていただきます。

雨の滴るライブハウスへ

今回の会場はライブハウス。入口では静かに雨が降っていて、その静けさと寂しさが絶妙な雰囲気を生み出していました。入場の段階でライブコンセプトが創り出せるのはやはりVRライブの強みですね。

中に入ると「はなばさみアート」が一面に張られたコーナーが。

ステージはシンプルなライブハウスでした。ギミックや装飾は最小限。そのシンプルさから「歌で魅せる」という意気込みがにじみ出ていたように思います。

そして、キョウさん自身によるアナウンスの後、ライブは定刻通りに開始しました。

前半戦:「シャルル」「名前のない怪物」

満を持してステージ上に登場した花鋏キョウさん。ゆったりと構える様は、これが初のVRライブで、しかも初の3Dモデルの運用とは思えないほど堂々としていました。

開幕の選曲はシャルル。説明不要の名曲です。これまでいろんなVTuberさんの「シャルル」を聴いてきたのですが、本当に透き通るような歌声の、唯一無二の「シャルル」。切なさはそのままに、憑き物が落ちたように爽やかに色づいていました。この曲をここまでクリアに表現できるVTuber、他に知りません。本当に良い歌い方なんです。

そして2曲目はEGOIST名前のない怪物。ここから花鋏キョウの歌声にさらに引き込まれていきました。ハイテンポかつ高低も激しいこの曲を生で歌えるのはもはや当たり前なんですよ。なによりすごかったのが歌声に込められた強さと情感が、まさにEGOISTのそれだったこと。儚いけれども力強い、あの空気感をここまで精緻に歌い上げている。だけども花鋏キョウの歌声が消えることはない。ここまで表現できるのかと、本当に打ちのめされました。

まず最初に2曲。その10分足らずの時間で、完全に花鋏キョウというアーティストの虜になっていました。

幕間①:素顔はあどけない女の子

前半戦が終了すると、ステージがにわかに明るくなり、改めて今回の主役・花鋏キョウさんがあいさつを行いました。

参加者からのVギフトの雪崩や、コメントの流れに驚きつつも、笑顔で「ありがとう~!」と手を振る姿は、先ほどまでと打って変わってあどけない17歳。会場の細かな出来栄えにもワクワクを隠せない様子で、嬉しそうに話していた姿が印象的でした。

こうした普段の、背伸びをしすぎない飾らない様子も魅力のひとつとして映りました。

後半戦:「ゴーストルール」「Departures 〜あなたにおくるアイの歌〜」

そして軽くトークを終えたところで、次なる2曲の後半戦へ。ここからは「いままでカバーを披露したことがない曲」をセレクトし、来場者を大いに沸かせました。

3曲目に選ばれたのは、圧倒的な疾走感が持ち味のゴーストルール。殊に光ったのは彼女の音域の広さ。低音も高音もどちらも非常に安定していて、その状態でこのハイテンポな一曲をこなしている姿は本当に圧巻でした。サビ部分の声の伸びも力強く、技量と熱量の両方で魅せられました。

そして4曲目は、再びEGOISTからDepartures 〜あなたにおくるアイの歌〜」。切ない純情がにじみでるラブソングには、透き通るような声にたっぷりの情感がこめられていて、UIをさわる手も止まり、ただただ聞き入ってしまいました。どこまでも広がっていくような高音が本当に美しい……クリアな声が七色に色づくさまを目の当たりにしました。

幕間②:ステージから降りたりマシュマロを読んだり

思わずVIVEコントローラーで拍手してしまうほどにすばらしい4曲が終わると、ガラッと雰囲気が変わって来場者とのコミュニケーションパートに移行しました。

ここでなんと、キョウさんがステージ上から観客席へ下りてきました。完全に不意打ちでドキッとしましたよね。

楽しそうに観客に囲まれる花鋏キョウ。見事に埋もれていました。

自身もclusterのカメラを取り出して記念撮影。一ユーザーとしても楽しんでいる姿がそこにありました。

これ、リアルのライブだったらかなり危険だと思います。囲まれたらなにが起こるかわかりませんからね。身体への危険を極力排したVRライブだからこそできる、ファンからアーティストのみならず、アーティストからファンへの距離を縮めることができる試みだと感じましたし、「仮想空間のイベントの強み」が凝集された一幕でした。

ステージ上に戻ると、事前募集していたマシュマロを読み上げるコーナーも開かれました。観客も(仮想的に)その場にいる状態で行うマシュマロ返し、なんかわくわくしましたね。イベントのコーナーとしての有用性も肌で感じられました。

そんなマシュマロの中には、自身初のオリジナルシングルとなった「蒼に躊躇う」についての質問も。「収録で苦労したことは?」という問いに対して、「オリジナルの曲は正解を自分で見つけないといけない。それが一番大変でした」と語る姿は表現者としてとても真摯で、花鋏キョウというアーティストの歌に対するストイックな姿勢が鮮明に現れていました。

そんな、様々な想いがこめられた最初のオリジナルソングが、今回のライブのラストソングになりました。

「蒼に躊躇う」

透明感と力強さが共存する、花鋏キョウの歌声の真骨頂が惜しみなく響き渡る一曲。ライブという形で聴いてみて、あらためてその「かっこよさと美しさ」を噛み締めた次第です。
「蒼に躊躇う」の「蒼」とは、イメージカラーにこの色を冠する彼女自身も指すのだそうです。新しいことに戸惑いながらも挑む。その背中を押せたらいいな、と語っていたのが印象的です。

この「かっこよさと美しさ」こそ、なにかに挑むための姿勢なのかもしれません。気丈に、だけども華やかに最初のVRライブを駆けていった彼女の姿を見ていると、そんなことを思います。花鋏キョウというアーティストの大きな一歩は、たしかにそこで蒼く輝いていました。

お見送りまでがライブでした

もはやなにも言うことがないほど満ちたりて、「もう終わりか……」と少しさみしさもおぼえていたところ、キョウさんがケロッとした雰囲気でステージ上に登場。そして、「では、お見送りさせていただきますね!」と、再びステージから舞い降りてきました。

入り口の受付がこういう活用をされるとは。本当のライブでもありそうですよね、こんな光景。

ライブハウスの外まで出てきて見送る姿は、彼女自身どこか名残惜しそうでした。入り口に飾られたフラスタの名前を嬉しそうに読み上げると、キョウさんは「STAFF ONLY」の向こう側へ消えていったのでした。

「お見送り!?こんな素晴らしい歌を聞かせてもらったのに、お見送りまでしてくれるの!?」と、このフレンドリーな対応を前にして、最後まで心をガッシリとつかみこまれました。いやぁ、本当にいい人だ。

新世代は確実に咲き始めている

花鋏キョウも所属する、バーチャルタレント事務所・Re:AcTは、いままさに急成長の真っただ中。様々なイベントへの出演はもちろん、4月からは新プロジェクト「Re:A projecT」が始動し、ストーリー仕立てのコンテンツと連動してオリジナル楽曲の展開を進めるなど、活躍の幅は日々広がっています。

業界内では後発寄りながらも、着実に前へ進んでいる同グループに、同じくバーチャルイベントスペースとして成長を続けるclusterも注目しています。Re:AcTの運営会社である株式会社mikaiに対し、クラスター株式会社は出資を行い、Re:AcTの多種多様なタレントへ活動
の場を継続的に提供したいとプレスリリースにて表明しているのです。

優れた才能を持ちながらも、デビュー時期や運の問題から、なかなか日の目を見ないVTuber・バーチャルタレントの数は少なくありません。そうしたまだ見ぬ新しい世代に場と機会を提供することは、業界全体にとってもプラスをもたらすはずです。その意味で、clusterとRe:AcTが肩を組んだことは、とても大きな意味を持っています。

その最初の事例としても、「花鋏キョウ VR LIVE – Sprout -」は大成功といってよいでしょう。新たなバーチャルの花は、確実に咲き始めています。