― 連載「倉山満の言論ストロンスタイル」―

◆安倍政権の6年間で、一体何の成果が?

 アメリカドナルド・トランプ大統領が帰国した。令和初の国賓である。安倍首相は接待に大わらわだったが、評価は「まあ、こんなもんだろう」としか言いようがない。「アメリカ幕府の外様大名」としては上首尾だったのではないか。

 これで「北朝鮮拉致被害者を取り返せた」ならば成功だったと言えようが、去年もそんな話をしたような気がする。長期政権を樹立する総理大臣に対する国民の採るべき態度は、ただ一つ。結果を出すまで甘やかすな! しかない。

 この期に及んで安倍応援団は「安倍首相を信じられないのか」などと居直るが、6年も政権を独占していて、「民主党よりマシ」以外に何の成果も出していない総理大臣を批判するなとは、何様のつもりか。

 こういう取り巻きが跋扈するだけでも、安倍晋三さんの存在そのものが日本国にとって害になっていると評さざるを得ない。6年前は本気で安倍さんには日本救国をお願いしただけに、心の底から残念に思う。

トランプ大統領ツイートelections」への憶測

 さて、トランプ大統領ツイッターが話題になっている。貿易問題の処理は、選挙(elections)の後だとつぶやいたのだ。複数形になっているので、安倍首相が衆参同日選挙の意向をトランプ大統領に伝えたのだとの憶測が流れている。ありそうなことだ。

 ここで「衆参同日選挙はあるのか、無いのか」などと予想するのは、素人言論人の所業だ。安倍政治は、竹下登院政時代とまったく違った意味で、予想するのに意味がない。

 平成一桁年代(1990年代)、竹下登は内閣総辞職後も、自分の傀儡を次々と首相に据えた。宇野宗佑海部俊樹宮澤喜一村山富市橋本龍太郎小渕恵三自民党が野党に転落していた10ヶ月を除き、「竹下さんがウンと言えば、すべて決まり」の時代だった。本当に竹下が「次の首相は誰それ」と言えば終わり、他もすべて決まりだった。

 竹下は政官財の各界に巨大な派閥を張り巡らした超権力者だったが、政治的技量も優れていた。人心を読み、流れを作り、落としどころを見極めて落とす。奇策と言えば、自民党に政権を取り戻すために社会党村山富市委員長を首班に担いだことくらいか。それ以外は、常に常識的な結論に落ち着いた。

 だから、予想に何の意味もなかった。将棋に例えると、竹下は名人が格下の相手を追い詰めるように、選択肢を奪い、自らの意思を強要した。

安倍首相に増税延期の信を問う資格はない

 それに対し安倍政治は、まったく違った意味で予想に意味がない。これまた将棋に例えると、与党も野党もヘボ将棋なので、定跡が通じないのだ。野球に例えると、「投げそこないを打ちそこなって、エラーと暴投と暴走が重なって、サードゴロがランニングホームラン」のような政治を、何回見せられてきたことか。

 とは言うものの、この夏の参議院選挙は日本の運命を決める選挙である。しかも衆議院と同日選挙となると、一気に政権交代もありうる。自分の運命がどうなるのかは、考えておく必要がある。

 もし衆議院を解散、同日選挙を断行するとしたら大義は何であろうか。誰もが思いつくのは消費増税だろう。

 口の悪い人は言う。「いっそ、消費増税10%と憲法9条改正の信を問う選挙にしてみてはどうか。相手が今の野党なら勝てるのではないか」と。ただ、さすがに選挙直前になると野党連合が成立するだろうから、そう簡単な話ではないだろう。普通は、増税と改憲を掲げての選挙など、与党が反対する。

 では、安倍首相が3度目の増税延期を掲げて総選挙を行う場合はどうだろう? それ自体が人をバカにした話である。経済的理由と政治的理由がある。一つは、安倍首相が2年前から「増税をやり抜く」と言い続けてきたことで、景気は停滞しているのだ。当たり前だ。たとえ今は景気が良くても、将来は増税して景気が悪くなるとわかっていて投資するバカはいない。

 人不足で苦労しても、雇えない。これを経済学の用語を使って言うと、「アベノミクスの中核であるインフレターゲットの効果を、増税の公約が破壊しているので、景気回復は減速している」となる。となると、もう一つの政治的理由は明らかだろう。「ここまで増税を言っておいて、土壇場になってひっくり返すくらいなら最初から言うな」である。これを許しては、政治家の公約に意味がなくなる。

 はっきり言う。安倍首相に増税延期の信を問う資格はない。増税できなければ、内閣総辞職して下野すべきだ。

 もちろん、私はデフレ期の消費増税には反対し続けてきた。増税をして欲しいわけではない。安倍首相の手による増税延期は政治も経済も壊すので、反対だと述べているだけだ。

◆「アメリカ幕府の外様大名」は、中国の手下よりマシ

 では、安倍首相外の人の手による増税延期、衆参同日選挙に関してはどうか。反対はしない。

 後継首相の候補者は、菅義偉官房長官をおいて他にあるまい。6年の安倍政権を切り盛りしてきた力量は誰もが知っている。最近は「令和おじさん」として知名度は上がった。また連休明けには、官房長官としては異例の訪米をした。江戸時代なら次期大名家当主が将軍様に「お目見え」をしたものだが、似たようなものか。

 ここで「どうなるか?」ではなく、「どうするか?」で考えてみよう。

 安倍首相が増税の不可を宣言する。そして、総辞職。電撃的に自民党総裁選を行い、一気に菅内閣を樹立。人心一新、増税の単なる延期ではなく景気回復までの凍結を公約に総選挙を断行する。そうすれば大勝もありうるだろう。ここまでやるシナリオなら支持できる。

 だが、単なる延期程度なら意味がない理由は既に述べた。景気回復など軽くやってもらう政治でなければ困るのだ。そして、仮に「菅内閣大勝シナリオ」に飛び込んだとしても、先は明るくなさそうだ。

 菅氏は安全保障には暗く、2015年安保法制騒動では辻元清美代議士に一撃で論破された過去もある。

 何より、一連の譲位の過程で責任者でもあった。その間、何が起きたか。「上皇后」の新儀、元号の事前公表、「令和」のキラキラネーム。そして、「天皇ロボット説」を以前よりも強固にされた。これで、女系は論外として、女帝や女性宮家をやられては、たまったものではない。

 それでも「アメリカ幕府の外様大名」は、中国の手下よりマシか……。

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数

菅義偉官房長官は5月17日の記者会見で、不信任決議案が解散の大義になるかを問われ、「当然なる」と明言。首相の専権事項への踏み込んだ発言となった(写真/時事通信社)