Credit:Uy Lab

Point
ガラパゴス諸島の北に棲むフィンチは、普段は植物の種や蜜、昆虫を食べていたが、食料難から血を飲む習性を持つようになった

■この吸血フィンチの糞を調査したところ、鉄とナトリウムを処理する吸血菌とでも呼ぶべき腸内細菌が見つかった

■類似した腸内細菌は、中南米のチスイコウモリからも見つかっており、これは吸血という特殊な習性を持つ動物の非常に興味深い共通点だ

吸血鬼というと主にファンタジーの世界に登場する架空の化物を想像するが、現実世界にも吸血性の種がいくつか存在する。

特殊な進化を遂げた生き物の多いガラパゴス諸島に、そんな吸血種の1種である吸血フィンチが生息している。

ハシボソガラパゴスフィンチは、別のもっと大きな鳥の背に乗り、羽の付け根を鋭いくちばしでつついて出血させその血を飲む

なぜ彼らは血を吸うのだろうか? そんな吸血鳥のガラパゴスフィンチの腸内細菌を調べた結果、中南米に生息する吸血コウモリと類似した細菌の存在が確認できたという。

吸血という特殊な食性の原因には、腸内細菌の存在が関係している可能性が高いようだ。

この研究はカリフォルニア大学サンディエゴ校の生物学研究チームより発表され、the Royal Societyに6月3日付けで掲載されている。

Is there convergence of gut microbes in blood-feeding vertebrates?
https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rstb.2018.0249

非常に珍しい吸血鳥


ハシボソガラパゴスフィンチはもともと植物の種や蜜、昆虫を食する種だったが、乾燥により食べ物が減ると吸血行動をとる。

ファンタジーなら吸血は生命エネルギーを吸い取っているとか都合よく解釈することが可能だが、現実の世界では血液はあまり質の良い食事とは言えない

なぜなら、血液は塩分や鉄分が高く、またビタミンB群が不足しているためだ。

蚊が血を吸うのは、産卵のためにタンパク質を求めているからで、雌しか吸血を行わない。血液は常食するような餌ではないということだ。

では、数少ない吸血性の動物は、そんな血液をどのようにして体内で安全な餌として処理しているのだろうか?

吸血鳥と吸血コウモリの共通点

Desmo-boden

吸血が必ずしも良い食事とは言えないため、この世界では吸血を行う動物は限られている。

吸血フィンチの他に吸血する動物といえば、中南米に生息するチスイコウモリが有名だ。

鳥とコウモリでは生物としての分類も異なるが、なぜこの二種は吸血という共通した食事を摂るのだろうか?

この事に疑問を抱いた研究者は、両者について共通点が無いか調査を行い、腸内にナトリウムと鉄を処理する同じような作用の細菌群が存在していることを発見した。

なんと現実の吸血鬼たちは、真祖だ眷属だという高貴な繋がりではなく、ビフィズス菌ならぬ吸血菌とでも呼ぶべきお腹の調子を整える腸内細菌の働きによって吸血行動していたことになるのだ。

まったく異なる土地で、別々に進化を遂げていた生き物にこうした共通点があるというのはとても興味深い発見だ。

こうした特殊な行動をとる生物の共通点を探ることは、特殊な変化を遂げた動物の起源や理由を解明する糸口に繋がる可能性がある。

食性を決める腸内細菌

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最近の多くの研究で、生き物の食べ物を決めるのに腸内細菌が大きく作用していることが示唆されている。

以前学術論文誌Scienceが“10年間の科学の10大成果”として上げた研究の中には腸内細菌相に関する研究が含まれていた。

Natureに報告されたある研究では、太っている人の腸内細菌を無菌状態で育てたマウスへ移植すると、そのマウスが肥満になったという結果が報告されている。これは食事の摂り方が腸内細菌を変化させ、またその差が個人の体型へ影響していることを示している。

また、海藻類は通常人間には分解できないが、日本人は独自に持つ腸内細菌によって処理可能であることがフランス人研究者により報告されている。こうした民族的な食性の違いについても腸内細菌が影響しているのだ。

吸血フィンチについても吸血行動を始めたのは、1982年頃、島がエルニーニョによる食糧難に見舞われた時期と言われている。かなり最近の出来事で、これは遺伝子の変化によるゆるやかな進化とは別の理由で起こっている。

吸血という、あまり好ましいとは言えない食事を吸血生物が安全に行える理由は、この特殊な腸内細菌の存在にあるようだ。

最近は動画でタガメを食べるのが流行っていたり、他の民族では食べる人がいるんだから平気だろうと異食、ゲテモノ食いへ走る人たちがいるが、科学的見地から言えば、同じ人間が食べているものでも、腸内細菌の環境が異なっている場合、体内でうまく処理できない可能性がある。

吸血フィンチは同じ種でも地域が異なると吸血はしなくなる。彼らもやはりゲテモノを食べているように仲間からは見られているのかもしれない。

普段食べないものを食べるときには、10兆近い自分の腸内細菌に変な負担をかけないかよく考えた方が良さそうだ。

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reference:NewYorkTimes, 日経サイエンス/ written by KAIN
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