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 天女の羽衣(てんにょのはごろも)という言葉があるが、ムラサキダコのマント状の皮膜は、まさに羽衣を彷彿とさせる美しさだ。そのために、ハゴロモタコと呼ばれることもある。

 昔の人が聖獣とか神の使いとか、UMA的な何かに見間違ってしまってもしょうがないのかもしれないくらいにムラサキダコのメスが泳ぐ姿は巨大で優雅だ。

 ここでは美しいムラサキダコのメスが優雅に泳ぐ映像や、ムラサキダコに関する興味深い事実を見ていこう。

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Blanket octopus

羽衣を広げて外敵を威嚇し、危機が迫ると自ら引きちぎる

 この優雅な羽衣は、タコならではの長い腕の間に張られた皮膜だ。ムラサキダコは危険を察知するとこれを広げて近寄ろうとする捕食者などの外敵を威嚇する。

 もし相手が怯まなければ、皮膜をその口に押し込んで引きちぎって逃げてしまう。トカゲの尻尾切りのように、捨て駒として使うのだ。

 こうした不思議な防御戦略を用いるのも、彼らがほかのタコのように海底で過ごしたりはしないことと関係しているのだろう。

 海底ならば岩の裂け目などに滑り込んで敵をやり過ごすようなこともできようが、優雅なムラサキダコはそんな泥にまみれるようなことはしない。

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メスの体重はオスの4万倍!?

 ムラサキダコの特徴で一番奇妙なのはその羽衣ではない。

 本当に奇妙なのは、メスが全長2メートル近くにもなる一方で、オスは見つけるのも難しいくらいちっちゃいということ。オスはなんと3センチにも満たない。体重差にしてみると1万倍から4万倍もの開きがあるそうだ。

 なんでもちっちゃなオスはメスの瞳孔の中にうまい具合に収まるらしい。メスにしてみたら、目に入れても痛くないほど可愛いってことなんだろうか?

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小さくてもオスは策士。猛毒のムチを拝借し敵を撃退


 そんなオスであるが、小さくても強い理由がある。

 ムラサキダコはあの猛毒で知られるカツオノエボシの毒に対して耐性がある。そこでオスはカツオノエボシの触手を拝借して、敵に向かってブンブン振り回すのだ。

 人間だって死ぬことがある猛毒を使われては、さしもの捕食者も退散するしかないだろう。小さくてもオスはなかなかの策士なのだ。

 ちなみにメスの子供もこの戦術を使うが、大人になるとやらなくなってしまう。メスくらいの大きさにもなると、敵となる相手もかなり大きくなるわけで、毒のムチがあまり効果的でなくなってしまうのだ。大顎を持つサメにしてみれば、多少ピリッとしたところでそれが? って感じだろうから仕方ない。

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オスが小さい理由


 ところで、オスはなぜこんなにも小さいのだろうか? オスがメスの目の中に入ることを発見した研究者の考えでは、大きくなる明確な必要性がなかったからだという。

 メスの場合、体を大きくする明確なメリットがある。体が大きい方が卵や子供をたくさん産むことができ、それだけ遺伝子を後世に伝えやすくなる。自然界で一般にメスの方が体が大きいのはこのためだ。

 ところがオスが遺伝子を後世に伝える手段は極小の精子だ。そのため、あえて体を大きくする必要がないのだ。


Blanket Octopus - Our Strange World

自然界の男女格差「性的二形」

 こうした性別による体の差異を「性的二形」という。

 たとえば極楽鳥の名で知られるフウチョウのオスは、豪華な飾りで知られているが、メスはかなり地味だ。しかし体の大きさで言えばメスの方が大きい。メスは卵を作り出すためにそれだけエネルギーを必要とするからだ。

 一方、小さな精子を相手に与えれば済むオスは、むしろメスの獲得競争に血道をあげる。そのためにメスとは逆の進化傾向になる。ただし、この場合、オスも体が大きい方がメス獲得に有利になることもある。人間などはそうなっているようだ。

 ムラサキダコのような極端なまでの性的二形は、海の中ではわりと一般的で、たとえば深海のアンコウもオスとメスでは体の大きさがやたらと違う。

 そして、ちっぽけなオスは顔をメスの体に融合させ、メスの求めに応じて精子を放出するという具合に、ずっとコキ使われる。

 彼らの生息環境ではメスを発見することが非常に難しいので、オスは交尾以外の能力をほとんど進化させなかった。その結果として、体はやたらとちっちゃいのだ。

・メスとオスの大きさのクセがすごい!世界初、チョウチンアンコウの交尾の瞬間をとらえた映像 : カラパイア


First footage of deep-sea anglerfish pair

ムラサキダコのオスの悲しい末路

 ムラサキダコのオスもきっと普段は孤独なまま海を漂っているのだろう。だが運よくメスに巡り会えたら、特別な思い出を残す――足だ。そこに精子のオマケをつけて切り離すと、メスの外套腔へ忍び込ませ、自分はさっと逃げてしまう。

 なおこの時点で受精は済んでいない。メスは自分の卵を受精させたいと思ったときに、体内のオスの足を取り出して、精子をふりかけのようにまぶす。

 ムラサキダコのメスは優雅な羽衣で美しさを競い、ときに複数のオスから精子のプレゼントを受け取る奔放な存在だ。

 だが、悲しいかな、オスは目的を遂げると死んでしまうのだ。

References:theethogram / deepseanewsなど/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52275264.html
 

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