日曜の夕方に楽しみにしているラジオ番組がある。“神田神保町で働く、ごく平均的なサラリーマン”を主人公に会社や家庭での様子を描いたラジオドラマNISSAN あ、安部礼司 ~ BEYOND THE AVERAGE ~』がそれ。実はそれぞれのキャラクターを演じる声優たちの中には、舞台俳優も多数出演している。僕のお気に入りは、安部礼司の妻・安部優ちゃん。時にはカリカリもするが、さりげなく旦那のお尻を叩く、ふんわりとした優しさにはキュンキュンしてしまう。その声を担当しているのが劇団青年座出身の女優、吹き替えも多いがテレビドラマや舞台でも活躍するもたい陽子だ。その彼女が、「もたい村」と銘打って初めてのプロデュース公演に挑戦する。その真意やいかに。

これ一文字で「もたい」と読む。パソコンを叩いても出てこない。勉強になる。とても珍しい感じなのだ。これで「もたい組」のことは、忘れられないね!

やったことがないプロデュースに挑む

――なぜ新たにプロデュース公演をやろうと思ったのですか?

もたい 青年座で初舞台を踏んだのが2000年で、まもなく20周年なんです。年齢的には40歳になります。20周年だし、小さなライブでもなんでもよかったのですが、なんかしたいなと思ったんです。以前、岡まゆみさんとお話しさせていただいたことがあって、岡さんは40周年の時にCDを出されたんですね。今までやってこなかったことをやろうと思ったとおっしゃっていました。それが岡さんにとって歌だったんですって。もちろん劇団四季時代には歌ったりされていますけど。なるほど、じゃあ私の場合は何をやって来ていないんだろうと思ったときに「企画だ!」と思ったんです。今まで青年座をはじめいろんなお芝居に出させていただいてるんですけど、企画をする大変さがわかってもいいお年頃なんじゃないかなと。じゃあ1回やってみようかなって。だって自分でやるなら、やりたいことができるじゃないですか。だから。

――國吉咲貴さんはどんな作家さんですか?

もたい 國吉さんは、今回の公演に力を貸してくれている菊池美里さんという女優さんがくによし組の『ベチャロンドン』というお芝居に出ていて、それを観に行ったら面白かったんですよ。へえ、こんなお芝居を描く劇作家さんがいるんだと。その後も何本か観たんですけど、『チキン南蛮の夜』という作品がすごく面白くて、ぼんやり主催公演のことを考えていたものですから、菊池さんに「國吉さんとお芝居つくりたいなあ」と言ったらその場で連絡を取ってくれて、動き始めたというわけです。

――確かに主催公演ならやりたいことができる。じゃあ、もたいさんは何がやりたかったんですか? 自分の人生を舞台化するとか?

もたい そんな物語になるような人生は歩んでいません(笑)。主役をやりたいなと思ったんです。もちろん今までも物語の真ん中の役を書いていただいたこともあるんですけど、いわゆる「シンデレラ」のシンデレラみたいなものはないな、みたいな。それで打合せのときに、私は「白雪姫」をベースに以前考えていたことを話ましたし、國吉さんは國吉さんで、演劇集団円で円・こどもステージ『はだかナおうさま』を描かれていたりして、おとぎ話モチーフにしようかという話はすぐにまとまりました。そこで「主役をやりたいんです」と話したら、主役ができない主役の物語を書いてくださったんです。あらすじが上がってきたときは、こうきたかと嬉しかったですね。「主役をやりたい!」「 啖呵を切りたい!」 などなど私がいろいろわーっと挙げたことも無理なく盛り込んでださっていて、すごいなって思いました。

國吉作品は、秘めた毒がむき出しになる瞬間が魅力的

――『タイトルロール・ワズ』の「ワズ」は?

もたい 「もはや主役じゃない!」 という意味ですね。いやぁ面白いなあって思いましたよ。第一稿から第二稿になったときに、ググッと面白さがアップしたんです。國吉さんって毒気のある作家さんだと思うんです。それが第一稿から第二稿でグッと濃くなった。毒って誰もが持っているけど、隠して生きていますよね。國吉さんの描かれるお芝居は、秘めた毒がむき出しになる瞬間があって、私はそこが魅力的だと思うんですよ。今まで観た作品は、主役の周りの登場人物が凶器として毒を持っていることが多かったんですよね。その毒が出てきたから、「よし!」と思いましたね。

――現実っぽいけど、ファンタジーっぽくもあるんですよね。

もたい でしょう。パラレルワールド! 今ここいる世界とは違う、おとぎ話の世界の人たちの話。でもおとぎ話の中に住んでいるわけでもなく、我々が生きている世界とちょっとだけ次元が違うんですよ。

――もたいさんの役を紹介してください。

もたい まったくうまくいかない人。まあ主役をやりたいのに、現状のままでは到底できない。素直になれないというか不器用な人なんでしょうね。あそこまでわがままになれる人は今までの役者生活の中でもお目にかかってないかな。やっぱり人はだれしも人に気を使うし、無闇やたらに怒りを振りまいたりしないじゃないですか。そういうことを忘れちゃったのかな、もともとは大女優だったという人なので。自分自身の葛藤を爆発させて、周囲に当たり散らしてね。その葛藤の描き方に関しては、せいぜい苦しみたいなって思っています。

――“主役”がこのお芝居の一つの要素ではありますけど、改めて主役についてどう思います?

もたい 周りが主役にしてくれるんだなって思います。主催者の業務も含めて、最近それをひしひし感じているところです。やっぱり得意分野とか、できるできないということはたくさんあって、音響照明などなどスタッフの皆さんにお願いしてやってくださっている。一個一個、ちょっとずつ固まっていくことで周りが私の主催公演を形にしてくれている。もちろんご連絡したりお願いしたりするのは私の仕事なんですけど、それにみんなが応えてくださるから、もたい村の村長が村長でいられる。それならば支えられているぶん、しっかり立たなきゃいけないなって思いますね。

――キャスティングとかスタッフさんはどのように決めたんですか?

もたい 菊ちゃんと相談して、一緒にやりたい方と作品としてやりたいこととのバランスで考えました。そして回替わりゲストがいらして、出演者5人のうち女性は私たち二人だけなので、ゲストの方に華を添えていただこうとお願いしました。私の役と対極にいる、主役ができている役どころを演じてもらうのですが、皆さん全然違うタイプなので楽しみです。そうそう、一緒に芝居をやってみたいけれど、このままでは接点が生まれない人を誘ってみることができる、まあ実現しないこともあるけれど、主催をやってみてよかったことはそこですよね。特に増子倭文江さんは劇団時代の大好きな先輩なんですけど、ダメ元で電話したら「いいよ」って。世田谷住宅街を歩いていたときだったんですけど、電話を切った瞬間に思わず「やった!」って叫んでしまいました。

――お芝居の制作部分も全部やられているんですよね? それはいかがですか?

もたい 取材依頼や折り込みのお願いとか、初めてやることばかりです。いつまでにどのスタッフミーティングをするだとか、その前に皆さんのスケジュールを調整しなければならないとか、戯曲のテキレジをまとめて皆さんに送ったりとか……。でもね、これが終わったら苦労してもまたやりたくなるのかなあと思いますね。まだまだ一緒にやりたい人たちもいるし、東京以外でも公演してみたいから。もちろんまずは『タイトルロール・ワズ』を成功させてからですけど。このお芝居を通して自分が成長できるといいですね。

取材・文:いまいこういち

もたい陽子