凶悪犯罪を起こした青少年が「ゲーム好き」だと、ゲームと犯罪が結び付けられる風潮があります。報道でも「ゲームに熱中しすぎて、現実と仮想の境目が分からなくなったからだ」という意見がまことしやかに語られることがありますが、果たして、ゲームと青少年の犯罪には、何らかの関係性があるのでしょうか。青少年のインターネット利用に詳しい、作家・ジャーナリストの石川結貴さんに聞きました。

分かりやすさを求めるマスコミ

Q.無差別殺人など青少年が関わる凶悪犯罪が起き、加害者がゲーム好きだと、それが事件の要因であるかのように報道されることがあります。ゲーム好きであることと犯罪に因果関係はあるのですか。

石川さん「私の知る範囲では、因果関係を証明した科学的データはありません。最近、世界保健機関(WHO)がゲーム依存症を疾患であると認定しましたが、ゲーム依存症には、自分をコントロールできない、焦燥感、衝動性が高まる、という症状もあります。焦燥感や衝動性が高まったことが外に向くと、暴力に発展する可能性はゼロではありません。ただ、それを『ゲームが原因』とするのは言い過ぎだと思います。

一方で、全く関係ないのかというとそうとも言い切れず、難しいところです。犯罪にどのようにつながるのかは、センシティブな問題です」

Q.直接の因果関係が立証できていないにもかかわらず、なぜマスコミなどは「関係がある」としがちなのでしょうか。

石川さん「分かりやすさを求めるからだと思います。激しい暴力行為や大量殺人、戦争などをテーマにするゲームがあり、『そうした描写に触れた影響で凶悪犯罪を起したのではないか』という筋道は、人を納得させるストーリーになりやすいからです。『ゲーム好き=犯罪』という偏見が、独り歩きしている面もあります。

5月に起きた川崎殺傷事件のように、理解不能な事件が起きれば、多くの人が『どうしてこんなことが起きたのだろう』『どうしてこんな人間が生まれたのだろう』と思うのではないでしょうか。しかし、あの事件のように加害者が自殺すると、本人の口からその理由や背景が語られません。その他の理解不能な事件でも、警察の取り調べや裁判で、事細かに理由や背景を断定するのは難しいものです。

それでも、何かしらの形で事件が起きた理由や背景を伝えなければならないと考えるマスコミは、原因が見つけやすい材料を伝えようとします。分かりやすく『ゲームに夢中だった』と言うと、何となく『ああ、だからね』と納得させられる空気感があるので、そのような報道になるのではないでしょうか」

Q.こうした伝え方は、世間の見方をミスリードしているのではないですか。

石川さん「『自宅でゲームをしていた』という事実を伝えただけともいえるので、全てがミスリードとはいえません。しかし、明らかに、ゲームに因果関係があると決めつけたような報道がなされたり、根拠があるかのごとくコメントをするコメンテーターもいたりします。これらは、とても問題だと思います。

ゲームといっても、昔のファミリーコンピュータと今のオンラインゲームとは明らかに違います。ゲームの内容自体も、ファミリー向けの楽しいゲーム、子どもの発育に役立つ知育ゲームや高齢者向けの脳トレゲームもあるのです。そうしたゲームごとの特徴を全く考慮せず、ただ『ゲームが悪い』と言うのはどうなのでしょうか。『ゲーム』という一つの単語で語ろうとすることが、とても問題だと思います」

ゲームに責任転嫁しない

Q.ゲーム依存が犯罪と結び付けられる風潮は、ゲーム好きの青少年に何らかの影響を与える可能性はありますか。

石川さん「ゲーム好きの青少年の周りにいる大人が、ゲームが犯罪に関係していると思うことで、ゲームをすることを非難したり、禁止しようとしたり、ゲーム機を取り上げようとしたりする、こうした動きが十分あり得ると思います。

しかし、ゲームを楽しんでいる、あるいは、多少なりとも依存状態になりつつある青少年が、周囲の大人からゲームをすることを非難されたり、禁止されたりするということは、逆に彼らを追い詰める結果になります。そして、そのことが暴力という形で大人に向けられる可能性があります」

Q.ゲーム依存が進んでいる青少年は、特に影響が大きそうですね。

石川さん「ゲーム依存が進んでいる青少年は、ゲームを無理やりやめさせたことが原因で、親に暴言を吐く、暴力行為に走るということがあります。そうなると、親は『無理にやめさせたことで暴力的になった』と考えるのではなく、『ほら、やっぱりあんなゲームをやっていたから暴力的になった』と解釈することが多いです。この両者の考え方の違いは、大きな問題です。

ゲームに夢中になっている青少年が、何かしら家庭の中で暴力的になったり、暴れたりしたとして、このままだと外に出て犯罪を起しそうだとなった場合、ゲームそのものが悪いのではありません。

もしかしたら、その背景に一方的な偏見の目、親や大人の無理解もあるかもしれません。自分の価値観だけですべてを判断するのではなく、別の視点を持つこと、何より当の青少年とゲームについてよく話し合ってほしいです。大切なのは、彼らがなぜゲームに居場所を求めるのか、その理由や気持ちを丁寧に聞き出すこと。ゲームに責任転嫁せず、子どもの状況に寄り添っていく姿勢を持ってほしいです」

オトナンサー編集部

青少年犯罪とゲームの関係性は?(写真はイメージ)