Point
■一夫一妻制の種の魚が、特定のパートナーと別れて悲しむ気持ちを持っていることが明らかとなった
■人間に特有と思われがちなこの感情だが、その究極的な理由は「子孫繁栄」であり、他の動物にそうした気持ちがあってもおかしくはない
■魚の感情については、人間に使われるテストを上手に応用することで読み取りを試みた
大事な恋人との別れは、非常にツライ。多くの読者には相手がいない辛さのほうが身近かもしれないが、今回は別の話だ。
フランスのブルゴーニュ大学の研究者らがおこなった新たな研究によると、「魚」も恋人と分かれた時の切ない感情を持っているという。
「会いたくて会いたくて震え」ているかはわからないが、「悲しい」と思っているのは確かのようだ。
Pair-bonding influences affective state in a monogamous fish species
https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rspb.2019.0760
愛する人との別れはなぜ「悲しい」のか?
「Amatitlania siquia」と呼ばれる種は一夫一妻制で、特定のパートナーと長く連れ添い、同じ場所に住んで一緒に子どもを育てる。
こうした特性から、「魚もパートナーと離れたらネガティブな感情が生まれるのか」を測るにはうってけの対象なのだ。
そもそも人間が、特定のパートナーに対して愛情を持ち、感情的に依存してしまうのは、そうすることで関係性を安定させて諍いを少なくすることで、子どもを育てやすい環境を作り上げることが主な理由であると考えられている。
つまり子孫繁栄が究極の目的であるならば、そうした感情を他の動物も持っていると考えるほうが自然なのだ。しかし問題は「どのようにして魚の感情を読み取るのか?」ということだ。
悲しみも含めて、愛
研究者らは、人間の感情を読み取る際に用いられる「judgement bias test(判断バイアステスト)」を魚に応用させることを試みた。
魚の前には箱が置かれ、箱には黒か白のフタが覆いかぶさっている。黒の下にはおいしいエサが隠されており、白の下は空っぽだ。魚がフタをはがし、エサを見つけたり見つけなかったりすると、魚は色を覚えるようになる。そうして魚が色を見分けられるようになった後に「グレー」のフタを置き、魚の行動を観察する。
実験の1部が動画になっているので確認すると分かりやすいだろう。
この実験で注目するのは、魚がグレーのフタを開けるスピードだ。 研究者らはそこから魚の感情を読み取ろうとしており、楽天的な個体ほど素早くフタを開けることが考えられるとのことだ。
逆に、悲観的な個体はフタを開けるスピードが遅くなる。これはちょうど、同じ量の水であっても「グラスに水が半分“しか”入っていない」「グラスに水が半分“も”入っている」といった受け取り方が心模様によって変化することと似ている。
実験の結果、パートナーを失った多くの魚のフタを開けるスピードが遅かったことが分かり、これにより彼らが「悲しみ」を感じていることが推測された。
つまり、長年連れ添った相方が突然隣からいなくなるあの喪失感を味わっているのは、人間だけではなかったのだ。
研究者らは、次はそうした感情がどのくらいの期間続くのかなどについての研究を進めていく予定だ。悲しみはネガティブな感情であり、誰もが避けて通りたいものだが、その気持ちが愛情を深めているともいえる。
そう捉えれば、「別れの悲しみ」まで含めて「愛」といえるのかもしれない。
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