NHKでは「侍と描写された!」などと報じられた地元メディア『Sazandegi』の表紙だが、実際はキャプテン・アメリカ風に揶揄されただけである

 6月13日、日本の安倍晋三首相はイランの最高指導者ハメネイ師と会談を持った。事実上の「トランプ大統領の特使」としての役割である。トランプが「令和」初の国賓として訪日したのは、そのための下準備もあってのことだろう。

◆「トランプの特使」役を全うできなかった安倍
 しかし、安倍首相は「トランプの特使」としての役割を全うできたかと言えば、結果は明らかだ。

 日本国内での日本語による報道ではあたかも何か成果があったかのように報じられているが、現地メディアスペイン語メディアとはまるで正反対の様相なのだ。(参照:「El Pais」、「HispanTV」)

 安倍首相と会談した最高指導者ハメネイ師は、「トランプメッセージを交換するに値する人物だとは思われない」「彼への返事はない。回答しない」と述べて、安倍首相トランプに依頼された米国との関係修復のための特使としての務めを一蹴した。

 更に、同師は「米国がイランと誠実な交渉に関心があるとは思えない。トランプのような人物からそれを望んで来ることはないからである。米国の官僚の間には誠実さというのは頻繁に見れらるものではない」と確言した。

 一方のトランプは、訪日中に安倍首相イランへのメッセージをことづけておきながら、帰国するや新たにイランの石油化学産業に制裁を科した。このこともあり、ハメネイ師は、「そのような人物が本当に交渉を望んでいるのだろうかと疑いたくなる証拠である」とも付言した。

 更に安倍首相を前に「イスラム共和国は米国を信頼しない。包括的共同行動計画(PIAC)の交渉から得た苦い経験は二度と繰り返すことはない。プレッシャーのもとでは自由で見識ある如何なる国家も交渉に応じることはない」とも述べた。

トランプメッセージを伝えるも一蹴
 また、「核兵器には反対する。そのような兵器を製造することは我々の宗教令がそれを禁じている」「しかし、一旦核兵器を製造するようになると米国はそれに反対しても何もできなくなる、そしてそれが禁止されても我々にとって障害にはならない」と述べてイランの断固たる姿勢を安倍首相の前に披露した。(参照:「El Pais」、「HispanTV」)

 一方、安倍首相は米国はイランの政治体制を変えようとする意向のないことをトランプ大統領メッセージとしてハメネイ師に伝えた。しかし、同師はそのような米国の意向は「偽りだ」と指摘した。そして、「仮にそれをやったとしても、達成できないだろう。この40年米国政府はイスラム共和国を打倒しようと試みたが失敗に終わっている」と断言した。(参照:「HispanTV」)

 こうした安倍首相とハメネイ師との会談の内容は即座に英語に訳されてネットで報道された。それは米国の関係修復へのイラン側からの意向がないことを関係各国に出来るだけ早く伝えるためであろうと受け取られている。

 また、安倍首相はロウハニ大統領に大阪で開催されるG-20への出席を招聘したという。ハメネイ師が米国との関係修復への意向はないことから、イランの専門家の間ではロウハニ大統領の出席には懐疑的な見方をしているそうだ。

◆安倍以外に頼めなかったトランプ
 まったく役に立てなかった安倍首相だが、果たしてトランプは何故安倍首相に米国がイランと関係修復したいという意向を伝える役割を託したのか?

 それは、現在のトランプ大統領には安倍首相以外にそれを頼める人物はいないということだ。

 最近のトランプボルト大統領補佐官とポンペオ国務長官の強硬外交への疑問を持つようになっている。またトランプ欧州連合(EU)を貿易面と防衛面で敵であるかのように見なす外交を展開して来た。よって、EUで頼める人物はいない。勿論、ロシアと中国にイランとの関係修復を依頼することなど絶対にできない。そこから唯一この使命を頼めるのは、国際外交の舞台でこれまで活躍することのなかった日本の安倍首相白羽の矢を立てたのである。

 しかし、そのトランプであるが、安倍首相来訪後に、「安倍首相がハメネイ師に会いにイランに行ったことは感謝しているが、個人的には私は時期尚早だったんじゃないかと思う。彼らも、アメリカも準備できていないし」とツイートしている。

トランプはなぜイランとの関係修復を求めたか
 ではなぜイランとの関係修復の必要をトランプは感じるようになったのか。2015年イランとの核合意を一方的に破棄したトランプである。それが今、なぜ対イランとの外交関係修復の必要性を感じるようになったのか。理由は、米国がイランへの制裁の一貫としてイランからの原油の輸出をゼロにさせようとしていることに対して、その対抗手段としてイランはホルムズ海峡を封鎖すると警告しているからである。それを敢えて実行に移すとは思えない。しかし、可能性は常に存在している。

 仮にホルムズ海峡が封鎖されればイラク、クウェート、バーレーン、カタールそしてイランからの原油とガスの輸送が出来なくなる。それは世界の取引の20%以上を占めることになる。その場合、専門家の間では原油価格はバレル200ドルまで高騰する可能性があると指摘しているという。そうなると、世界経済は後退し、世界規模で金融危機を招くことになる。

 このような事態になることを避けたいとトランプは望んで安倍首相イランとの関関係修復に協力を要請したということである。

 しかし、結果として安倍首相はなんの役にも立てなかった。それも当然である。安倍首相はこれを日本の外交力を知ら示す絶好の機会と見ているのだろうが、背後にトランプが控えているのがミエミエでは目的達成は無理であろう。

 しかも、日本(安倍首相)には外交能力はない。その為のノウハウの蓄積もないのだから。

<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント1973年スペインバレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

NHKでは「侍と描写された!」などと報じられた地元メディア『Sazandegi』の表紙だが、実際はキャプテン・アメリカ風に揶揄されただけである