航空自衛隊C-2輸送機C-1輸送機の後継として開発されましたが、まったくの別物といって差支えありません。その両機を乗り比べたところ、スペックの数字に表れないさまざまなところにも違いが見えました。

国産最新輸送機C-2、「パリエアショー」へ

航空自衛隊が運用する国産のC-2輸送機が、2019年6月17日(月)から23日(日)にかけフランスで開催される「パリ国際航空宇宙ショー」へ初めて参加します。「国外運航訓練」の一環という位置づけで、同機はほかにもアラブ首長国連邦のアブダビ空軍基地にて、同国空軍などとの部隊間交流を予定しています。

C-2は、同じく国産であるC-1輸送機の後継として開発され、2017年3月から鳥取県境港市にある、航空自衛隊美保基地に所在する第3輸送航空隊へ配備が開始されています。以前その美保基地への取材の際に、埼玉県航空自衛隊入間基地を発つC-1の連絡便で現地へ向かい、帰路は美保から入間へ向かうC-2に便乗するというかたちで、両輸送機の「人員輸送」を体験することができました。

軍用輸送機の「被輸送人員」(乗客ではない)に快適性を期待してはいけません。搭乗前のブリーフィング時、希望者に耳栓を配布してくれたのですが、こうした“配慮”がこれから始まる空の旅の“快適性”を暗示しているようでもありました。

搭乗したC-1機内座席は、左右の側壁沿いに1列ずつと貨物室の真ん中に1列の3列が横向きに並んだ、パイプフレームに布張りの簡易的なものです。緊急用の酸素マスク用配管もされているのですが、むき出しのままで、病院の点滴のようにも見えます。聞けば、貨物室に人員輸送用の座席や配管を設定するのは、結構手間がかかるそうです。窓も少なくて薄暗く、通勤電車と同じように進行方向横向きに着席するので外の様子はまったくわかりません。しばらくゴトゴトと地上走行し、止まったのかなと思うと離陸加速で突然、横から強いGを受けますが気持ち悪いものです。

飛行中の騒音は、耳栓が配られるのが納得できるくらいで、ほとんど会話はできません。ただ、与圧も充分で機内温度は適温でした。安定高度に達するとベルト着用ランプが消え、まず外が見たくなるのが人情ですが、その前に気を付けなければならないのは足元です。人よりも貨物の積載を優先にできていますので、床にはパレット出し入れ用のローラーやレール、固縛用のバックルなどが剥き出しになっています。不用意にローラーへ足を乗せようものならひっくり返ってしまいます。

C-1とC-2、数字には表れない違い

復路はC-2です。人の乗降は旅客機のように、機体側面前部のタラップ付扉から行います。機内に入るとC-1よりふた回りは大きく、なにより天井が高いのが印象的です。さらには内装材で覆われているので、C-1のような構造材、パイプ、ケーブルなどのむき出し部は少なく、照明が多いのと壁面がベージュ色なこともあいまって機内は柔らかな明るさで、いかにも軍用機然としたC-1とはだいぶ印象が違います。また貨物室天井には、着水時に機体の上へ出られるよう非常口が設けてあり、折り畳み式のタラップが付いているのも、天井の高い大型機ならではの設備です。

座席は基本パイプフレームに布張りの横向き座りで、簡易的な構造なのはC-1と変わりませんが、シートベルトは4点式でしっかり体がホールドされます。それでも、離陸時の横向きGが気持ち悪いことには変わりありません。また床構造も多少、滑り止めなどがあって、歩くことも一応考慮されているようですが、やはり人員よりも貨物優先の構造です。C-1には無かったLED式のメッセージボートがあり、到着地の天候、所要時間、飛行高度、シートベルト着用サインなどが表示されます。耳栓は往路で配られた物を取っておいたのですが、必要ない騒音レベルで、「被輸送人員」(乗客ではない)の快適性はかなり改善されています。

「トイレ」が物語る自衛隊輸送機の任務の変様

往路のC-1機内で、操縦席と貨物室のあいだに小さな扉付きの区画があることに気が付きました。なにやら荷物庫のようですが、壁にはトイレットペーパーが付いています。実は簡易式トイレでした。便座の上には備品が置かれていて、トイレとして使用している様子はありません。

乗員に聞いてみると、使用すると後の処理が面倒で、使ったことは無いそうです。C-1は短距離しか飛ばない(飛べない)ので、事前に対処しておけば事足りているようです。

C-2で注目すべきは、“使える”トイレがふたつもあったことです。しかも簡易式ではありません。扉も旅客機で見慣れた折り畳み式で、閉めて施錠すると室内灯が点灯し、中には鏡と洗面台もあります。便器も真空吸引式で清潔です。“使用実績”もあるそうです。乗員から「使っても結構ですよ」と案内されましたが、かえって出るものも出ず、写真だけ撮って退出しました。

トイレの「使える/使えない」が意味するもの

C-2にはトイレ以外にも、仮眠用ベッドが2床、配食用にレンジと冷蔵庫、ドリンクマシンと、旅客機と同じ構造のギャレー(配膳設備)も備えられています。海外派遣任務の際、むやみに日本から食料を持ち込むと検疫などの問題も生じるそうで、派遣先でケータリングサービスを受けることが多いため、旅客機と同じギャレーのほうが、使い勝手が良いそうです。

C-1の“使わないトイレ”とC-2の“使えるトイレ”の違いは、自衛隊輸送機の任務、引いては自衛隊の任務の変様を象徴しています。C-1の航続距離は空荷時で2400km、最大積載量8tを積載すると1500kmになります。ちなみに羽田空港から那覇空港までが1687kmですので、いかにも短いことが分かります。一方C-2は、空荷時で9800km、最大積載量36tでも4500kmとなっています。

C-1が計画された1960年代は“日本再軍備”が警戒される時代で、輸送機を国産するというだけで国会は大議論となる有様でした。そのため“他国の脅威にならない”という政治的配慮で航続距離はわざと短く設定、すなわち「C-1日本国内のみで使う専守防衛用輸送機」というわけです。一方C-2は、時代が変わり海外派遣も本来任務となった現代の、自衛隊用の輸送機といえます。巡航速度はマッハ0.8であり、“空のハイウエー”である国際線航空路にものることができます。

C-2は冒頭に述べたように、6月17日(月)からフランスのル・ブルジェ空港で開催される「パリ国際航空宇宙ショー」に初めて参加します。日本の航空機技術を広く世界にPRし、“防衛装備・技術協力”を促進させるのも任務なのです。

「武器輸出三原則」に代わる新たな政府方針として「防衛装備移転三原則」が制定されて以降、潜水艦飛行艇などいくつかの大口商談がありましたが、成果は上がっていません。C-2は単なる輸送以上の任務を背負って世界の空を飛んでいます。

航空自衛隊美保基地の、第3輸送航空隊第403飛行隊のC-2輸送機(月刊PANZER編集部撮影)。