Point
■食虫植物のムラサキヘイシソウがサンショウウオの赤ちゃんを栄養源にする様子が観察された
■罠に落ちたサンショウウオは3〜19日間で死に、葉の内部に蓄えられた水の中の消化酵素によって分解される
■ムラサキヘイシソウは、生息地の土壌に不足する窒素を補うために、サンショウウオを栄養源にしている
主に北アメリカに分布するムラサキヘイシソウ。葉には血管のような赤い葉脈を持ち、赤黒い花を咲かせる多年生の食虫植物だ。
そのムラサキヘイシソウが、なんとサンショウウオの赤ちゃんをたいらげてしまうことが明らかになった。
観察されたのはカナダ・オンタリオ州のアルゴンキン州立公園に広がる沼地で、カナダ・ゲルフ大学などによる論文が雑誌「Ecology」に掲載されている。
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ecy.2770
約2割がサンショウウオを生贄に
食虫動物は動物を栄養源にすることで知られているが、通常その対象はほぼ昆虫やクモに限られる。
しかし昆虫やクモとは比べ物にならないサイズのサンショウウオが捕獲されるところが観察されたのは、初めてのことだ。
サンショウウオが食虫植物に捕えられている現場を発見したのは、研究チームの一員テスキー・ボールドウィン氏だ。2017年、当時ゲルフ大学の大学生だったボールドウィン氏は、アルゴンキン州立公園で生態学のフィールドワークを行っていた時にこれを見つけた。
その後、2018年秋に同公園内の1つの池を調べたところ、そこに生息するムラサキヘイシソウのおよそ2割がサンショウウオの赤ちゃんを栄養源にしていることが確認された。サンショウウオの体長は人の指ほどで、中には2匹以上が罠に捕えられているケースもあったという。
窒素不足を補うための貴重な栄養源
魚が生息していないこの沼地の食物網において、サンショウウオは重要な捕食者であると同時に、獲物でもあるらしい。
捕獲は、サンショウウオが幼生から成体へと姿を変え、陸上へ移動する際に多く起きていた。赤ちゃんたちは、罠に引き寄せられたり、他の捕食者から逃れようとしている時に、落とし穴に落ちてしまうようだ。
罠に落ちたサンショウウオは早いもので3日間、遅いもので19日間で死に、その後は袋状の葉の内部に蓄えられた水が含む消化酵素によって分解される。また、熱や飢え、病原菌などの他の要因で死に絶える個体もいるようだ。
ムラサキヘイシソウがサンショウウオを栄養源とする理由の一つには、沼地の土壌が栄養素、とりわけ窒素に乏しいことが要因のようだ。足りない栄養源を補うために、サンショウウオを利用するわけだ。
アジアには別の種の食虫植物が存在し、それらは昆虫やクモに加えて、時には小さな鳥やネズミを捕えて栄養源とすることもあるが、食虫植物がサンショウウオを捕える例はこれまでに観察されたことがない。
「草食系」など大人しい生き物代表のようなイメージの植物だが、実はとんでもない大食漢も存在するのである。
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