春ドラマが最終話放送の時期に入り、その結末にさまざまな声が上がり始めています。

 残りわずかとなったことで明らかになったのは、月9ドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」(フジテレビ系)の、新作ドラマ世帯視聴率トップが確実になったこと。

 同作は、窪田正孝さんが演じる放射線技師・五十嵐唯織の活躍を描いた医療ドラマで、6月17日最終話の放送が予定されています。2桁超の安定した視聴率を記録した上に、SNSなどの評判も上々であり、「月9ドラマが低迷を脱し、完全復活」という記事を手がけるメディアも少なくありません。

 ただ、この1年間、月9ドラマは、刑事「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」、弁護士「SUITS/スーツ」、科捜研「トレース~科捜研の男~」、医療「ラジエーションハウス」と、連ドラ業界では「良く言えば“堅実”、悪く言えば“置きに行った”」と言われるジャンルの作品を放送し続けました。

 堅実路線がちょうど1年になるタイミングで、その是非を掘り下げていきます。

攻撃対象から外れ、打ち切り説が消えた

 フジテレビにとって、2010年代は、世帯視聴率トップから民放4位に転落し、制作姿勢が猛烈なバッシングを浴びるなど受難の時代でした。中でも、最大のターゲットとなって攻撃を受け続けてきたのが月9。新作が放送されるたびに「最低視聴率を更新」という記事が続出し、SNSに批判的な声があふれるなど、メディアと個人の攻撃対象となり、何度となく“打ち切り説”が飛び交いました。

 しかし、この1年間に放送された4作は、すべて全話平均2桁視聴率を記録。クオリティーの高低や堅実路線の是非はさておき、一定の数字を継続したことで攻撃対象から外れ、打ち切り説が消えました。

 これは、低迷したイメージを払拭(ふっしょく)したいフジテレビにとって大きな一歩。元々、テレビは、視聴者やスポンサーからの攻撃を受けやすいビジネスモデルだけに、低迷期は「できるだけ攻撃されないようにする」ことが復活への足がかりになるものです。

 また、前述したように、医療や刑事などの堅実なジャンルを扱いながらも、「キャスティングのフレッシュさで差別化しよう」というのが月9の戦略。「ラジエーションハウス」には窪田正孝さん、本田翼さん、広瀬アリスさん、「トレース」には新木優子さん、「SUITS/スーツ」には中島裕翔さん、新木優子さん、磯村勇斗さん、今田美桜さん、「絶対零度」には本田翼さんら若手俳優を起用し、「月9は現在でも若い人に向けたドラマ枠」という体裁を守っています。

本塁打を狙って本塁打を打つ姿勢

 しかし、堅実路線にはメリットばかりではなく、デメリットも存在します。

 ここ数年で定着しつつあった「月9は低視聴率」「打ち切り間近」というイメージこそ払拭できたものの、新たに生まれているのが、「テレビ朝日のマネ」「若手俳優を使っているだけで結局中高年向け」というイメージ。7月スタートの「監察医 朝顔」も明らかに堅実路線であり、ますますこのイメージが増していくことが予想されています。

 もう一つ、堅実路線のデメリットとして挙げておきたいのは、単打狙いの平均的な作品ばかりで本塁打が生まれにくいこと。そこそこの世帯視聴率は取れても、2011年の「家政婦のミタ」(日本テレビ系)、2013年の「半沢直樹」(TBS系)、2016年の「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)、2018年の「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)。さらに、SNSの盛り上がりで言えば、昨秋の「今日から俺は!!」(日本テレビ系)、今冬の「3年A組 -今日から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)のような、ドラマフリーク以外の人々を巻き込んだ本塁打級の作品が誕生しないのです。

 月9はフジテレビの看板枠であり、ドラマのみならず局全体の勢いを作るべき存在。月9が国民的ヒットを生み出すことが「フジテレビ復活」というイメージに直結するだけに、堅実路線ばかりでは物足りなさが残ります。

 録画やネットでの視聴が普及し、世帯視聴率が絶対視されなくなっているだけに、フジテレビが今後、どこまで堅実路線を続けていくのかは分かりません。堅実路線は必ずしも悪いことではないものの、「やはり月9には『本塁打を狙って本塁打を打つ』という1990年代のような攻めの姿勢が見たい」と思う往年のファンに応える姿も見せてほしいところです。

コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志

(左から)窪田正孝さん(2018年9月、時事通信フォト)、本田翼さん(2019年2月、同)