最近、北朝鮮朝鮮労働党の平城(ピョンソン)市委員会と人民委員会(市役所)が会議を開いた。議題は「農村動員労力を保証できないことについて」だったが、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によれば、その場で明らかにされたのは次のような事実だ。

「市の党委員会の会議で絶糧世帯が全体の10%を超えているという具体的な数値が発表された。1世帯あたりの構成員が普通4人だと考えると深刻な数値だ」

国連世界食糧計画(WFP)と国連食糧農業機関(FAO)は5月、北朝鮮の食糧事情がここ10年で最悪となりそうだとの報告書を発表したが、これに対しては、韓国の専門家の間にも批判的な見方がある。

ただ、北朝鮮では配給制度の崩壊となし崩し的な市場経済化により、貧富の格差が拡大。その日の糧を「市場で買うための現金収入」に窮し、売春や出稼ぎ(脱北)に頼らざるを得ない貧困層が、大量に存在する。

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こうした人々は、社会情勢の変動に弱く、何かあったら一気に飢餓状態に陥りかねない。

ちなみに、情報筋が語った「絶糧世帯」とは、前年の収穫が底をつき、食べ物がなくなった世帯を指す。例年は5月末に現れ、小麦の収穫が始まる6月から段階的に解消していくが、今年は4月初頭から現れていると指摘されている。

内部情報筋は、絶糧世帯の問題が深刻化し、「農村支援」に行けない人が続出している現実を次のように伝えた。

北朝鮮では、田植えや収穫などの人手が必要となる農作業は、協同農場の農民だけでなく、都市住民を大量に動員して行う。しかし、昨年の凶作や国際社会の制裁で食糧不足が深刻化し、動員に応じようとしない人が増えている。また、現地に向かったとしても働かずに休んでいるだけの人もいるという。

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平城市の人口は30万人。10%を超えているとなると、3万人以上が飢えに苦しんでいる計算になる。当局は食糧不足が深刻になるとの予想に基づき、今年3月から実態調査に取り組んできた。2月にベトナムハノイで開かれた米朝首脳会談で何らかの合意に達し、海外から食糧が円滑に入ってくるというアテがハズレたからだろう。

当局は会議や調査は行っているものの、これと言った対策は出せずにいる。会議では工場、企業所などを通じて農村支援に参加した人にコメや現金を支給するなどの案が議論されたが、「財源はどうするのか」という難題に答えが出せず、結局は「各工場、企業所の自力更生で」という結論に達したとのことだ。丸投げで責任回避というわけだ。

「農村ではトウモロコシ麺にすらまともにありつけず、1日1食で糊口を凌いでいる家も多い」と語る情報筋。「今のところは『苦難の行軍』(1990年代後半の大飢饉)ほどではない」としつつも「平城でこのくらいなのだから、他の地方では絶糧世帯問題がもっと深刻だろう」と見ている。

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同じ北朝鮮でも、平城は大穀倉地帯「十二三千里平野」に隣接し、流通の中心であることから、食糧事情はかなり良い方だが、慈江道(チャガンド)や両江道(リャンガンド)など農地の少ない山間部はよりひどい状況ということだろう。ただ、食糧不足に関する情報は不足しており、全国的な現象かどうかは確認に至っていない。

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咸鏡北道鏡城郡温堡温室農場の建設準備を現地指導する金正恩氏(2018年8月18日付朝鮮中央通信)