復帰戦で決勝弾のイニエスタボランチ起用で神戸のパスワークが活性化

 ヴィッセル神戸の元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタは15日、J1リーグ第15節のFC東京戦で先発復帰を果たし、鮮烈なミドルシュートで決勝点を決め、1-0の勝利に貢献した。ゴール以外でもゲームメークにチャンス演出など、あらゆる面で好パフォーマンスを披露したイニエスタだが、これまで以上にピッチで輝きを放つことができた要因の1つに「ボランチ起用」がある。

 イニエスタにとってこの試合は、第11節鹿島アントラーズ戦(0-1)以来4試合ぶりの出場、スタメンでは第9節の川崎フロンターレ戦(1-2)以来6試合ぶりの復帰戦となったが、8日に神戸就任が発表されたトルステン・フィンク監督にとっての初陣でもあった。イニエスタは今季初ゴールとなる一撃を決め、フィンク監督も首位のFC東京を相手にアウェーで初勝利を収めるなど、両者にとって大きな一歩となった。

 一方、今季は3トップや3バックなどの布陣を導入してきた神戸だが、新体制の初戦では4-4-2の新システムが採用された。そして、これまでと最も異なる点は、トップ下やインサイドハーフのポジションに配置されることの多かったイニエスタボランチ起用だ。

 イニエスタが低い位置でプレーすることで、テンポの良いパスワークの起点となり、縦パスと逆サイドへのロングパスを器用に使い分ける、質の高いポゼッションサッカーを展開。前半5分、自陣で相手選手2人の挟み撃ちに遭うも、細かなステップですり抜けるキープ力を見せつけると、同9分には低い位置でフリーでボールを受け、ゆっくりと敵陣の隙を見極めると、意表を突くアウトサイドパスで元スペイン代表FWダビド・ビジャの決定機を演出。これはオフサイド判定となるも、イニエスタプレーにスタジアムではどよめきが起こっていた。

 もともとイニエスタバルセロナでも、試合を通してボールタッチを重ねることでリズムに乗っていくタイプの司令塔だった。神戸で前線に配置されていた際にはなかなかパスが回ってこなかった一方、低い位置に入ることでボールに関与する回数がグッと増え、イニエスタの持つ才能がこれまで以上にチームで発揮されていた。そして、それを物語るように後半4分、ペナルティーエリア左からワールドクラスの決勝弾を叩き込んでみせた。

ボランチ起用は“神戸のイニエスタ”の最大値を引き出す一手に?

 試合後、フィンク監督はイニエスタの起用法について「どこでもプレーできる選手ではあるが、今日はあえて低めのポジションに置き、ビルドアップを任せる戦略だった。そこから前を向いてたくさんのチャンスを作れる」と解説。イニエスタ本人も「いつもよりは下がったポジションでプレーをして、チームのポゼッション面で貢献し、FC東京は4-4-2を採用することも分かっていたので、その脇のスペースで自分が受けて攻撃を組み立てられるようにした」と、自身に与えられた役割を振り返った。

 もちろん、イニエスタは鋭いキラーパスや狭いスペースで受けてビッグチャンスを演出するクオリティーを備えているため、よりゴールに近い位置でプレーさせる選択肢もあり、実際にこれまでの神戸はそのような起用を続けてきた。しかし、どんな試合展開でもイニエスタへ正確なボールを供給できるトッププレーヤーが揃っていたバルセロナスペイン代表と、神戸のチーム状況は異なる。前線に配置されたことでパスが入らず、孤立するイニエスタの姿も珍しくはなかった。そのため低めの位置に配置し、ボールにより多く触ることでリズムを作らせる戦術こそが、“神戸のイニエスタ”を生かすソリューション(解決策)になりえるのかもしれない。(Football ZONE web編集部・城福達也 / Tatsuya Jofuku)

神戸MFイニエスタ【写真:Getty Images】