秋葉原~つくば間を結ぶつくばエクスプレス。開業以降、沿線の宅地開発が進み、利用者が急増しています。この路線はそもそも東京を起点とする「常磐新線」として計画されたものですが、東京延伸は実現するのでしょうか。

利用者の増加が続くつくばエクスプレス

つくばエクスプレスが好調です。2018年度の乗車人員は1日平均38.6万人で、開業した2005(平成17)年度の1日平均約15万人から2.5倍以上に増加しました。当初、「開業20年で黒字化、40年で累積赤字解消」という目標を掲げていましたが、実際には4年後の2009(平成21)年度に単年度黒字を達成すると、開業から12年後の2017年度に累積赤字を解消してしまったのです。近年の鉄道整備プロジェクトでまれに見る成功と評価できるでしょう。

さらにつくばエクスプレスでは、沿線人口が2030年代まで増え続け、さらなる利用者の増加が見込まれることから、混雑緩和を図るために現在の6両編成から8両編成に増強する事業に着手。2030年代前半の完成を目指すとしています。

こうなると、編成増強とあわせて期待されるのが、路線の延伸です。現在の起点、秋葉原駅東京都千代田区)は、JR山手線京浜東北線総武線東京メトロ日比谷線が結節する交通の要衝ではありますが、いずれも「各駅停車」の近距離電車であり、ターミナルとしての物足りなさは否めません。しかもつくばエクスプレスの駅は地下約35mという大深度にあり、二重高架構造のJR秋葉原駅への乗り換えは一苦労です。秋葉原からもう少し先まで線路が伸びれば、他路線への乗り換えを含め利便性は大きく向上し、さらなる利用者増につながるはずと思う人も多いでしょう。

実際、つくばエクスプレスには秋葉原~東京間の延伸計画が存在します。

つくばエクスプレスは、東京を起点とした常磐新線がベース

つくばエクスプレスの整備計画は、1985(昭和60)年の「運輸政策審議会第7号答申」で示された「常磐新線」から始まります。この計画は、東京駅を起点に秋葉原、浅草、北千住、埼玉県八潮市南部、三郷市中央部、千葉県流山市南部、柏市北部を経由して茨城県守谷町を結び、将来的に筑波研究学園都市まで延伸するというものでした。

鉄道空白地帯に新線を建設して一体的に沿線開発を行うアイデアは、1960年代後半の「通勤新幹線」構想や、1970年代初頭の国鉄「開発線」構想までさかのぼります。ただ、これら計画が新宿駅を中心とした新たな交通ネットワーク構築を目指していたのに対し、「常磐新線」は常磐線の輸送力増強(混雑緩和)と沿線開発を目的に、茨城県の主導で検討が進められました。

1988(昭和63)年に沿線自治体の出資で第三セクターを設立して、第1期区間「秋葉原~筑波研究学園都市間」を整備する基本フレームが決定。この時、バブル経済の影響で都心の地価が高騰していたことから、建設費を削減するためにターミナルを秋葉原に変更し、また都心の住宅不足に対応して開発効果を高めるため守谷~筑波研究学園都市間を同時に建設することになったのです。

秋葉原が始発駅となったもうひとつの理由

ターミナルを秋葉原に定めたもうひとつの理由に、東京都が神田青果市場(1989年移転)、国鉄貨物駅(1975年廃止)の跡地を含めた秋葉原駅周辺の再開発計画を進めており、新設する幅25mの都市計画道路の直下に駅のスペースを確保できたことが挙げられます。

ただし、新御徒町~秋葉原間で交差する蔵前橋通りに埋設されている上水道・下水道幹線を避ける必要があったことと、将来の東京方面延伸を考慮すると、秋葉原駅からまっすぐ進んだ正面に建つ「ワシントンホテル」の支持杭を避けられる深さにしなければならなかったことから、ホームは地下35mの深さに設置せざるを得ませんでした(鉄道・運輸機構つくばエクスプレス工事誌』)。

つくばエクスプレスの東京延伸計画は、秋葉原~つくば間開業の5年前、2000(平成12)年に発表された「運輸政策審議会第18号答申」において、早くも「今後整備について検討すべき路線」として位置付けられ、事業可能性を検討する「運輸政策審議会第18号答申フォローアップ調査」が行われています。

2007(平成19)年に公表された調査報告によると、東京駅丸の内仲通りの地下に1面2線の島式ホームを設置した場合、大深度トンネル約2kmの事業費は約1000億円、建設期間は約6年と試算。秋葉原以上に深い位置に設置される東京駅の乗り換え円滑化などの課題はありながらも、経営が安定化し、国や自治体などの支援が得られれば事業採算性が成立するとの見通しが出され、その目安として秋葉原~つくば間の利用者「1日平均27万人」が示されました。

臨海地域の地下鉄構想と東京延伸が一体化

冒頭で述べたように、すでにつくばエクスプレスの利用者は1日38万人を超え、沿線自治体からは毎年のように東京延伸の早期実現を求める要望書が提出されるなど、着手の条件は整いつつあるように見えます。

ただ、つくばエクスプレスには長期債務が未だ6000億円以上残っており、さらに今後は8両化に向けて各駅のホーム延伸工事や変電所増強工事、車両基地の改修、車両増備など多額の投資が必要になることから、同社は延伸事業はあくまでも長期的な検討課題であると強調してきました。

ところがここに来て、東京延伸構想を取り巻く周囲の動きがにわかに激しさを増しています。交通政策審議会は2016年の答申で、つくばエクスプレス東京延伸と中央区都心部・臨海地域地下鉄構想の一体整備を提案し、事業化に向けた方向性が示唆されました。

都心部・臨海地域地下鉄構想は、オリンピック選手村跡地開発、豊洲再開発、築地再開発に絡んで一気に政治案件化し、2019年3月には東京都オリンピック後に整備着手するとの一部報道まで駆け巡ったのです。つくばエクスプレス側は静観の構えを崩していませんが、おそらく、水面下では様々な検討が進められていることでしょう。オリンピック後を見据えた今後の動きに注目です。

【地図】秋葉原とつくばを結ぶつくばエクスプレス

つくばエクスプレスで使用されるTX-2000系電車(左)とTX-1000系電車(2008年11月、伊藤真悟撮影)。