川崎市で5月、登校中の児童や保護者20人を男が無差別に殺傷し、自ら命を絶つ事件が発生しました。報道によると、男は伯父夫妻と同居していたと伝えられています。事件や事故を起こした加害者が死亡した場合、加害者の親族が被害者遺族から損害賠償を請求されるケースも考えられます。もし、損害賠償を請求された場合、親族に賠償責任はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

債務は相続人が支払うが…

Q.もし、事件や事故を起こした容疑者が死亡した場合、容疑者の処分はどうなりますか。

牧野さん「被疑者(容疑者)死亡のまま事件が検察官に送致されて、不起訴処分となるでしょう」

Q.会社の金を横領した後や、列車事故や交通事故を起こした後に死亡した場合、企業や被害者、その遺族から、加害者の家族や親族が損害賠償を請求される可能性は。

牧野さん「加害者は、不法行為に基づく損害賠償の請求を受ける可能性がありますが、損害賠償責任は加害者本人だけに発生し、家族や親族は責任を負いません。加害者が死亡すれば、相続する権利のある人が相続放棄などをしない限り、損害賠償債務として加害者の相続人に相続されます」

Q.では、加害者の相続人が賠償に応じることになるのでしょうか。

牧野さん「先述の通り、加害者が損害賠償債務を負った状態で死亡した場合、その債務は存続しますので、相続人が支払うことになります。ただし、相続人は、相続の放棄や限定承認(相続財産から負債を弁済して、それでもなお余りがあった場合にだけ、相続財産を承継する)をすることができるので、被害者の救済にならない場合が多いでしょう」

Q.川崎の事件のケースで、伯父夫妻が賠償責任を負う可能性はありますか。

牧野さん「伯父夫妻が容疑者の管理者(後見人など)ということであれば、損害賠償責任を負う可能性がありますが、そうではない可能性が高く、本件の場合には難しいでしょう」

Q.被害者が加害者親族に損害賠償を請求して相続放棄をされた場合、被害者遺族に対する救済策はあるのでしょうか。

牧野さん「『犯罪被害者等給付金』という国による給付制度があります。

通り魔殺人など故意の犯罪行為による不慮の死亡、重傷病、または障害という重大な被害を受けたにもかかわらず、加害者側からの損害賠償や公的救済を得られない場合、被害者や遺族に対し、国が『犯罪被害者等給付金』を支給し、その経済的損害の緩和を図る制度です。日本国内、または国外にある日本船舶・航空機内において行われた、人の生命、身体を害する罪にあたる行為(過失犯を除く)による死亡、重傷病、または障害が支給対象です。

日本国籍を持つ人、または日本国内に住所がある人が対象ですが、外国人でも、原因となった犯罪行為が行われた時に日本国内に住所があった人については支給の対象になります」

オトナンサー編集部

川崎殺傷事件の現場(2019年5月、時事)