個人的な話で恐縮だが、先週まで米国でドナルド・トランプ政権と大統領選の取材をしていた。

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 滞米中、全米最大の書店バーンズ・アンド・ノーブルがヘッジファンド企業に買収されたニュースが流れた。

 同社の苦境は今に始まったわけではない。出版業界の低迷から、「あのバーンズが倒れるかもしれない」との話は数年前からあった。

 日本で言えば紀伊国屋書店が身売りすることに等しく、ある意味で時代の趨勢を物語っている。

 近年は減収減益に見舞われ、書店数もピーク時から100店舗ほど少ない627店にまで落ちていた。

 それに代わってアマゾンが業界の雄にのし上がり、5月中旬に発表された数字では、全新刊本の77%がアマゾン経由で販売されるまでになっている。

 バーンズの身売りは、本そのものが読まれなくなっていると同時に、紙の書籍もネット通販か、電子書籍で読む流れがさらに加速していることの表れだ。

 アマゾンは逆にアマゾンブックスという実店舗を大都市中心に増やしつつある。それでも書店が苦しい立場にあることは変わらない。

 首都ワシントン郊外のバーンズ・アンド・ノーブルに午後の遅い時間に足を運ぶと、書棚の間でキャッチボールができるほど閑散としていた。

 それでも新刊本は相変わらず多数出版されている。

 当初から購入するつもりでいた新刊本があった。CNNアンカー、ジム・シュート氏が著した『影の戦争:米国を倒すために中ロが行う秘密工作(仮訳)The Shadow War: Inside Russia’s and China’s Secret Operations to Defeat America』である。

 タイトルだけ読むと陰謀論的な印象も受けるが、外交官として中国駐在を経験したこともあるジャーナリストが、中ロはすでに米国に戦争と呼んで差し支えない攻撃を仕かけてきているという内容を論じている。

 ロシア2016年の米大統領選でサイバー攻撃を仕かけたことはすでに明白で、司法省がロシア人13人とロシア企業3社を起訴しのは序章に過ぎない。

 宣戦布告をせずに、光に当たらない領域で米国と同盟国をすでに攻撃しているというのがシュート氏の主張だ。

 例えば宇宙空間がその領域にあたる。ロシアは攻撃型の人工衛星を打ち上げて米国の人工衛星を破壊し、中国は米国の人工衛星を軌道から外すことすらしている。

 同氏はそうした攻撃型の人工衛星を「カミカゼ人工衛星」、「誘拐犯人工衛星」と命名している。

 米メディアとの取材で答えている。

明らかに米国に対して戦いを挑んできています。しかし米国は抗戦していないのです」

「一般市民の耳には届いていませんが、中ロは間違いなく宇宙で攻撃を仕かけています。人工衛星が破壊されると、米軍のスマート爆弾は機能しませんし、ドローンも方向を失います」

自動車GPSが使えなくなり、金融システムさえもダウンするので社会は機能不全に陥ってしまいます」

 シュート氏はトランプロシアによる大統領選への不正関与を否定していることがまず、大きな問題であると指摘する。

 複数の米情報機関はロシアによるサイバー攻撃を確認しているが、大統領が中ロの仕かける「影の戦争」を前向きに捉えておらず、このままでは後手に回ってしまうと警鐘を鳴らす。

 興味深いのは、中ロは米国への戦いを密かにスタートさせていても、両国は究極的に共闘しないという点だ。

 今月6日、ロシアウラジーミル・プーチン大統領は中国の習近平国家主席とサンクトペテルブルクで会談し、ネバ川のクルーズに招待している。

 プーチン氏は「深い個人的な友情」という表現を使い、習氏との良好な関係をアピールした。だが表面的なものだと捉えている。

「両国は完全に結託しないのです。プーチン大統領習近平主席は握手をし、共に歩む道を確かめはしますが、両氏は基本的に独立独歩のスタイルを守っています」

「それは両国ともに米国を抜いて、ゆくゆくは我こそがグローバルパワーとしての地歩を固めようと考えているからです」

 中ロは接近しても個別に米国に戦いを挑んでいるのが真の構図で、シュート氏は目に見えていない両国からの攻撃こそが危険であり、メディアの役割として可視化させることが重要であると説く。

 同書の情報源は主に3人の元政府高官であることが分かっている。

 一人はオバマ政権下の国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏。もう一人はマイケル・ヘイデン元CIA長官、そしてオバマ政権下の国防副長官だったアシュトン・カーター氏だ。

 3人ともに民主党寄りの人間で、トランプ政権に厳しい意見を持つと同時に、中ロ両国に対しても敵対的な見方をしてきた元政府高官ばかりだ。

 こうした背景を考慮しても、本書は米国がすでに中ロと目に見えない「新冷戦」を始めた事実を露見させている。

 地上や海上で激しく交戦する旧来型の戦争から、一般市民が見えない領域で巧妙な戦いをする形態に戦争そのものが形を変えつつあるということだ。

 シュート氏はCBSテレビとのインタビューで中ロ両国について、冗談交じりに答えている。

「米国にとってロシアは飲み友達ですが、酔っ払うとドアを破って自宅に侵入してくる荒くれのところがあります」

「しかし中国は策略家であり、腹黒い悪魔のような友達です。顔には笑みを浮かべていますが、背後から人を刺すようなところがあります」

 時代を経ても、両国を心の底から信用することはできないとの立場だ。

 それでは中ロのどちらがより信用できないかとの問いに、シュート氏は短期的にはロシアで、長きに渡って信用できかねるのは中国と回答している。

 国際関係の新たな現実を解く良書である。

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