誰しも、子供時代に受けた心の傷は大人の頃よりも深く残るものだ。ましてやそれが性犯罪であったら――。未成年の児童に性的虐待をした上で、その行為を撮影した動画を共有していた小児性愛者らが国際刑事警察機構、通称インターポールと各国警察の捜査で摘発されたことが5月23日明らかになった。

 世界的な児童ポルノ共有ネットワークに性的虐待を受けた児童のなかには2歳未満の乳児もいたというから、絶句するほかない。

 インターポールが手がけたのは、「ブラックリスト(黒い手首)」事件。事件名は容疑者の一人が腕につけていたブレスレットにちなむ。未成年の児童に性的興奮を抱く世界中の6万3000人が会員登録したネットワークでは、児童が性的虐待を受ける児童ポルノ映像が毎週のように投稿され、共有されていた。虐待を受けた児童は推定150人前後とみられ、各国当局はオーストラリア、タイ、米国で総勢9人を逮捕した。

 なかでも児童ポルノの多くを提供していたのは、タイ生まれのオーストラリア人、ルエチャ・トクプッツァ(31)だった。

11人の男児に対して性的虐待

「被告人は、子供にとっての最悪の悪夢であり、あらゆる親にとっての恐怖であり、社会に対する脅威だ」

 5月17日の判決日、オーストラリアの地元裁判所の女性裁判官は、トクプッツァをそう糾弾した。事件を知るものにとっては、むしろ控えめに響くかもしれない。

 トクプッツァが問われた罪は50以上。2011年6月〜2018年1月、1歳3カ月の男児から13歳までの11人の男児に対して肛門への挿入を含む性的虐待を繰り返し、その行為を251の動画と414の写真に納め、不特定多数と共有したなどとして、禁錮40年の判決を受けた。

 数字と同じぐらい、その被害者との関係性は信じがたい。

 従兄弟、義理の妹の息子2人、母親が養子縁組した血の繋がらない弟、ボーイフレンドの息子、母親の実家近くに住んでいた兄弟など……。いずれもトクプッツァの毒牙にかかった。

 女性裁判官が判決で特に厳しく言及したのは従兄弟ケースだ。

被害者は1歳3カ月だった

 異変が起きたのは2017年11月。トクプッツァはタイの実家に、従兄弟と、従兄弟の母親であり、トクプッツァにとってはおばにあたる女性の3人で帰省していた。そして、おばが見ていない間、健やかに眠っていた従兄弟を持ち上げて自分の股間にすりつけ、快感に身を委ねた。

「この虐待の特にひどい点は、被害者が当時、1歳3カ月に過ぎなかったことだ」と女性裁判官は驚きを隠さない。

 もちろん、一番の衝撃を受けたのは被害を受けた男児の親たちだろう。2011年から2017年まで13回にわたり、息子2人が7歳ごろから虐待を受け続けた女性(トクプッツァの義理の妹)はその心の内を綴って裁判所に提出している。息子2人は子守代わりに親族のマッサージ店に連れられ、そこで股間を口や手で触らせられるなどの虐待を受けていたという。

《2人の小さな息子を、本来なら(被告人によって)守られるべきだったこの2人を、こんなにも狡猾なケダモノとひとりきりにしてしまったことは、どんな母親にとっても最悪の悪夢です》

 女性の言葉を女性裁判官が引き取って言う。

「彼女の世界は一変した。家には誰もいれない。新しい土地に引っ越したが、新しい友達は作らない。信用できないからだ。子供からは一瞬たりとも目を離さない。彼女の家族に対する被告人の仕打ちは、彼女の魂までも殺した」

 何がこのケダモノを生んだのか。トクプッツァを鑑定した女性医師によれば、それを解くカギは本人の人生そのものにありそうだ。

5歳のトクプッツァが出会った男

 トクプッツァは1988年にタイで生まれ、13歳でオーストラリアに移住するまで生まれ故郷で暮らした。母親は毎日働き、父親はいつも愛人と一緒で家に帰らなかった。育てたのは祖父母だ。「愛情を奪われ、両親に捨てられたと長い間感じていた」と医師は指摘する。

 その愛への渇望をゆがんだ形で満たしたのが、実家の向かい側で店を営んでいた男だった。男は、5歳のトクプッツァの股間を口に含み、自分の股間にも同様の行為をさせた。トクプッツァは家族の誰にもその秘密を打ち明けなかった。「この関係を続けたかったから」だ。親と違い、男は「愛」を示してくれたという。

 13歳。トクプッツァは家族とオーストラリアに移住する。移住先で待ち受けていたのは、またしても小児性愛者。今度は継父の男友達だった。

本人が「愛のシャワー」と呼ぶおぞましい行為

「5歳のときから男に性的虐待を受けたことで、こうした傾向(小児性愛障害)が始まり、徐々に慣習化した」。医師はそう断言する。トクプッツァは成長を重ねるにつれ、「バイセクシャル」を自認。女性と性交もしつつ、出会い系サイトで知り合った男との逢瀬を重ねる。そして最愛の男と別れて間もなく、親族の男児への虐待が始まった。本人が「愛のシャワー」と呼ぶおぞましい行為が。

 異常な来歴はしかし、異常な行為を正当化するものではない。「(惨めな人生があったことは事実でも)被告人がしたことの言い訳にはならない。性的虐待を受けた多くの子供は、自ら虐待をしたりはしない」とする裁判官の言葉はけだし正論だろう。

 トクプッツァは刑務所に40年入ることになるが、それでも、タイ警察に逮捕された別の男よりはましかもしれない。トクプッツァが児童ポルノを投稿していたサイトを運用していたタイ人の男は、自身も甥っ子を含む児童11人を性的に虐待し、なんと禁錮146年を言い渡されたのだ。神話時代の人間でもない限り、生きて外の空気を吸うことはない。

「我々はお前らをみている」

「あらゆる児童ポルノは犯罪の証拠であり、インターポールはいつでも全力で警察職員を助ける。世界中の被害者を特定し、救うために」。インターポールの事務総長は声明でそう高らかに宣言した。

 今回の捜査は4大陸を股にかけた。タイ警察が男児の児童ポルノ共有ネットワークサイトを発見すると、米国警察がそのサーバーを確認。ブルガリア警察がサーバーを壊滅させ、ニュージーランド警察がサイトの会員を精査。オーストラリア警察がその一人、トクプッツァを特定し、逮捕した。捜査はそれでも収まる気配を見せない。

 残る100人の児童の特定、残る会員の逮捕。名前はまだ非公表のままだが、米国の公人もそのなかには含まれているという。インターポールの事務総長は声明でこう言及することも忘れなかった。

「我々はお前らをみている。そして、お前らを裁きの場に引っ張り出す」

(末家 覚三)

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