(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

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 衆参ダブル選挙の可能性は遠のいたかのように言われているが、完全にその可能性が消えたわけではない。もし安倍首相が解散に打って出るとすれば、それは10月からの10%への消費税増税の延期を決断したときだろう。こうなれば、消費税増税中止を掲げる野党との違いはなくなり、自動的に選挙の争点ではなくなることになる。

 だが今のところ消費税増税の中止はなさそうである。そうなれば、消費税増税問題は間違いなく選挙の大きな争点の1つになるだろう。

消費税増税反対世論は60%にも

 東京新聞によれば、日本世論調査会が6月1日、2日に実施した全国面接世論調査で59.7%の人が増税に反対の意思表示をしている。その理由として、低所得者の負担が重くなる逆進性を挙げる人が33.3%、これ以上の税負担は大変という人が22.6%、景気に悪影響を与えるという人が22.5%となっている。

 この数字からうかがえることは、気分、感情ではなく、しっかりとした理由を持って増税に反対しているということだ。

 またクレジットカードなどキャッシュレス決済の利用者にポイント還元するという対策については、年齢層が上がるほど反対が増え、キャッシュレス決済に慣れていない高年層(60代以上)では70%が反対していることも判明した。また、軽減税率の導入については、反対が49%、賛成が48%で拮抗している。

 この傾向は、どの世論調査でも同様である。時事通信が6月7~10日にかけて行った調査でも、増税反対が55.1%とやはり過半数を超えている。

 だれもが心配するのが、増税による負担増と景気の悪化である。キャッシュレス決済や軽減税率の導入によって、果たして乗り切れるのか。増税に反対しているのは、多くの国民だけではない。

 産経新聞の田村秀男編集委員は、3月24日産経新聞の「日曜経済講座」で「最近はようやく家計消費が持ち直したというのに、今秋に増税リスクをまたもや冒そうとするのは無謀としか言いようがないではないか」「税率10%というかつてない重税感という別の『空気』が家計を追い込む。脱デフレ、日本経済再生の道は閉ざされる。安倍政権は中国や米国景気など外需動向に構わず、増税中止を決断すべきなのだ」と指摘している。

 増税そのものは、参院選挙の後ではあるが、やはり選挙への影響は避けられないだろう。

野党5党派の政策要望書にも消費税増税中止が

 去る5月29日立憲民主党国民民主党日本共産党社民党、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」の5野党・会派は、市民連合の要望に応える形で、政策要望書なるものに調印した。この中にも、「2019年10月に予定されている消費税率引き上げを中止し、所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化を図ること」という内容が盛り込まれている。

 しかし、もともと消費税増税は、民主党野田佳彦政権時代に、自民党公明党との3党合意で行なったものである。衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」は、その野田氏が率いるグループである。それだけではなく立憲民主党も、国民民主党も、増税を行った民主党の系列政党である。立憲民主党代表枝野幸男氏や副代表蓮舫氏も野田内閣の閣僚だった。これで消費税増税中止と言ってもどれほどの説得力があるのか、疑わしい。

 しかも共産党国民民主党などの間では、この政策要望書なるものへの温度差が極めて大きい。

 共産党志位和夫委員長は、調印後の記者会見で「市民と野党の共通政策として調印された。野党共闘の政策的な旗印が鮮明に翻った」と語っている。「市民と野党」という言い方は、最近の共産党のお気に入りですぐに大仰に言うのだが、市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)なるものの実態はどう見てもごくごく一部の市民を名乗る団体の集合に過ぎない。この集まりに選挙での集票力はない。市民連合などというのは、言い過ぎなのである。それはともかくとして、5野党・会派の「共通公約」というのが共産党のとらえ方なのである。

 5月30日産経新聞によれば、「これに対し、国民民主党の幹部は『要望書を受け取ったことを示すためにサインしただけだ。共通公約ではない』と真っ向から否定した」というのだ。

共産党と他野党に大きな温度差

 6月9日付「しんぶん赤旗」では、「自民党が7日発表した参院選公約で、安倍政権と日本共産党など5野党・会派の対決点がより鮮明になりました。民意を踏みにじって憲法改定、消費税10%増税、沖縄・米軍辺野古新基地建設、原発再稼働などを宣言した自民党公約に対し、野党党首が5月29日に合意した参院選の『共通政策』は安倍政治の転換を掲げています」と述べている。

「安倍政治の転換」が政策要望書だと言うのだ。だがこの文書には「安倍政治の転換」などという文言はない。共産党が勝手にエスカレートさせているだけである。

 前掲の産経新聞によれば、国民民主党玉木雄一郎代表が、内閣不信任案を提出する際には、「『どのような政権の枠組みを目指すのか、どのような共通政策で選挙に臨むのかを明確にしなければならない』と指摘した」のに対し、立憲民主党の幹部は、「『価値観が大きく異なる共産党と連立政権を組むなんてあり得ない』と述べ、政権構想の提示を否定した」というのである。

なぜ「増税中止」しか言えないのか

 それにしても不思議なのは、5野党・会派が調印した政策要望書が、なぜ消費税増税中止なのか、ということだ。

 どの野党も安倍内閣の経済政策を批判しているはずだ。そして、現在の景気が悪く、国民生活が圧迫されていると主張してきたのではないのか。そうであれば、増税中止などという中途半端な要求ではなく、最低でも「5%に戻せ」、あるいは「消費税廃止」を主張する野党があってもいいはずだ。

 特に、消費税導入以来、この税制を厳しく批判してきたはずの共産党が、なぜ増税中止しか言えないのか。不思議でならない。これまでの導入反対も、3%から5%への増税反対も、5%から8%への増税反対も実は本気ではなかったということなのか。この首尾一貫の無さは、無責任と批判されても仕方なかろう。

「消費税廃止」を求める動きも

 野党がこのような体たらくの中で、「消費税廃止」を掲げるグループが旗揚げした。山本太郎参院議員率いる「れいわ新選組」である。山本氏は、格差是正のためには低所得者ほど重い負担になる消費税を廃止すべきだと主張している。同時に「反緊縮」を掲げ、大幅な財政出動を求めている。

 こういう動きに触発されたのか国民民主党の玉木代表も、6月5日の定例会見で「消費税の減税も選択肢から否定するものではない」と発言している。ここにきて増税中止どころか、税率の引き下げ、あるいは消費税そのものの廃止という声まであがってきている。

 これらの主張がかつてなら無謀なものとして、簡単に退けられていたのだろうが、今はそうではないようだ。それも当然のことでワーキングプアと呼ばれる年収200万円以下の人口はすでに1000万人を超えている。消費税は耐えがたい重荷になっているのだ。

れいわ新選組」では、街頭演説やネットで寄付を呼びかけているが、6月8日朝日新聞によると、6月5日時点で寄付額は1億6826万円にのぼっているという。内訳は1000円や5000円などの少額の寄付が6~7割を占めているそうである。こちらの方にこそ、市民との共闘の姿を見ることができる。

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