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KLAUS WAGENSONNER

 赤ん坊は泣くのが仕事。とはいえ、大古の昔から、親は泣く赤子をおとなしくさせるためにあの手この手を考え出し、試行錯誤を続けていたようだ。

 古代メソポタミア人たちも泣く子をあやすのには散々苦労したようで、バビロニア後期の粘土板には、泣き止まない赤ん坊を静かにさせる方法についての記述がある。

 そこには当時の子守歌と赤子を眠らせるためのまじないが楔形文字で記されていた。

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楔形文字で粘土板に記された子守歌とまじない

 バビロニア後期の粘土板には、古代メソポタミア人たちが、赤ん坊おとなしくさせるために使った手段が記録されている。当時の人々は子守歌とおまじないを組み合わせていたようだ。

 そこには、楔形文字で

水の如く穏やかになって、眠気をもよおしたガゼルのようにうとうとし始め、仕事の合間に居眠りしている羊飼いのように、眠りに落ちてくれ

といった、子守歌が書かれている。

 さらに歌と一緒に、主要な通りや戸口、果ては墓から集めた塵(チリ)を泣いている赤ん坊にこすりつけるようにといっている。墓はおそらく、究極の沈黙を表わしているからだろう。

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泣く子を穏やかに眠らせたいという親の思いは今も昔も変わらず


 「現代の子守歌と同様、赤子が眠るために平安と静寂を求めるのは大昔も変わらない」と言うのは、エール大学の教授で近東言語と文明を研究する、エッカートフラム

 現在のイラク、バグダットの南およそ160キロにあるニップールのものとされているこの粘土板は、楔形文字で書かれた子守歌として、ふたつだけ見つかっているもののひとつだ。

 これは、コネチカット州ニューヘイブンにあるピーボディ自然史博物館の、古代メソポタミア言語のセクションに展示されている。

 庶民の間から始まった詩で、長い間、口頭で伝えられ、紀元前500~300年の間に、書き記されたと研究者は考えている。

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赤子の鳴き声で幻獣が逃げ出してしまわないように


 だが、現代の子守歌とは違う点がいくつかある。粘土板には、
子どもは泣き声をあげて父を困らせ、母の目に涙をあふれさせる。その泣き声は、クサリクが逃げ出してしまうほどの音だ

とある。

 子どもをなだめるのは、疲れ切ったママやパパのためだけではない。親たちは、メソポタミア神話の女神、ティアマトが生み出した毛むくじゃらで雄牛のような姿をした幻獣(聖牛)クサリクが怯えて逃げて行ってしまうのを怖れている。

 フラムによると、クサリクは気まぐれな幻獣で、怒らせると人に災いをもたらすことがあるが、そうでないときは、家についていれば、悪魔のような邪悪な力から守ってくれるという。

 赤ん坊をさらい、妊婦を殺してしまうという怖ろしい魔の女神、ラマシュトゥは、護符に描かれることが多く、鳥、ロバ、人間が合わさった恐ろし気な姿で、胸から乳を飲む子犬やブタをぶら下げている。

 泣いている子どもをなだめることは、疲れ切った親が静かに眠れる以上の意味がある。家族全員が災いから守られるということが不可欠なことなのだ。

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魔の女神ラマシュトゥを表わした縞大理石の護符
image credit:Carl Kaufman

 メソポタミア人にとって、魔術と科学の間に明確な境界線はなかった、とフラムは言う。

 こうした子守歌のような呪文や、塵をこすりつけるというまじない、さまざまな神々に捧げものをするといった行為が記録された文言は実際に存在し、それらが今もきちんと保存されている。

古代メソポタミア人が赤子が泣くのを恐れる本当の理由

 だが、シカゴ大学のアッシリア学者ジョン・ウィーはこう語る。

どうして赤ん坊が泣くのか、本当のところはわからない。ある特定の医学的な説明だけにこだわるのは、かなり危険だ

歴史家の仕事は、古代人の立場になって考えることだ。この場合は、メソポタミア文化や信仰が、いかに人間の泣き声の不吉さを怖れる十分な理由になっているかを理解することだ


 乳児の死亡率が高く、泣くということが赤ん坊の命を危うくする不吉な兆候があった時代背景も関係していたのだろう。

 クサリクのような妖怪や、ラマシュトゥのような悪魔は、当然ともいえる親の怯えを鮮明に表しているかもしれない。

References:How to Calm a Crying Baby Like a Mesopotamian - Atlas Obscura/ written by konohazuku / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52274346.html
 

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