高齢者ドライバーによる交通事故が多発している。

 4月19日、87歳の男性が母娘2名を撥ねて死亡させた池袋の事故が、全国の高齢者ドライバーとその家族を震撼させたことは記憶に新しい。

 最近も立て続けに事故は起こっている。6月3日大阪市内の80歳男性がスーパー駐車場歩行者4人を撥ねる事故を起こしたかと思うと、翌4日には福岡市で80代の男性が運転する車が猛スピードで交差点に突っ込み、車両に次々とぶつかった後、さらに加速して店舗に激突する衝撃的な事故が発生。運転していた80代男性と助手席の70代の妻が死亡し、歩行者など8名が病院に搬送された。

 さらに6日には名古屋市で87歳男性が運転する車が走行中のワンボックスカーに激突する多重事故が発生している。

運転免許を自主返納した杉良太郎氏、尾木ママ

 6月7日、今年75歳になる俳優の杉良太郎氏が運転免許を自主返納した。

 杉氏は言う。

「人を傷つける前に(免許証を)お返しする。それが賢明なことではないですかね」

 また、11日には教育評論家の“尾木ママ”こと尾木直樹氏も運転免許を自主返納した。尾木氏は今年72歳。

「返納を考えていたり、ためらっている人の後押しになれば」(尾木氏)

 彼らの言葉が表すとおり、「今こそ高齢者は運転をやめるべきだ」との主張は高まる一方だ。

 そんな世論の空気に対し、「違和感を覚える」と語る人物がいる。高齢者運転の専門家、NPO法人高齢者安全運転支援研究会理事長の岩越和紀氏(72)だ。

「危ないから運転を止めろ」は公平さを欠く議論

 岩越氏はJAF(日本自動車連盟)系列の出版社に長年勤め、機関誌「JAF Mate」の編集長などを歴任した「自動車のプロ」。自身も車の運転をこよなく愛する岩越氏は、次のように語る。

「高齢者ドライバーによる死亡事故が増えていることは事実です。しかし、その個別の事故の詳細な分析を踏まえずに、高齢者を年齢で一括りにして『危ないから運転を止めろ』というのは公平さを欠く議論ではないでしょうか」

最も重要なのは「ブレーキ力」

 そして、高齢者による運転の“意外な落とし穴”を指摘する。

「言うまでもなく、車の運転で大切なのは“技術力”です。しかし、一般に家族の皆さんは、高齢者の認知力ばかりに目が向きがちで、運転技術にはさほど興味がない」

 その上で、岩越氏はこう語った。

「技術力の中で凄惨な事故を起こさないために最も重要なのは、『ブレーキ力』です。年齢を問いませんが、高齢者こそ、ブレーキングの大切さをしっかり学ぶべきです」

 では、ブレーキ力はどのようにして維持、向上させることができるのか?

「文藝春秋」7月号に岩越氏が寄稿した「高齢者よ、運転をあきらめるな!」には、具体的な事例に則した岩越氏のレクチャーや、高齢者ドライバーの“技術力”を判断する際に有用な「チェックリスト30」などが掲載されている。

 岩越氏は、「運転技術が維持できなくなったと思ったら、運転をやめる勇気も必要です」と念を押しつつも、同輩の高齢ドライバーにこうエールをおくっている。

「折角、車があるんだから、乗れるうちに乗ろう! 乗れなくなる日は必ずくるんだから」

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年7月号)

最も重要なテクニックは?