(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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「中東和平への新参者が苦痛の教訓を得た」──米国の大手紙ウォール・ストリートジャーナルが安倍晋三首相の6月中旬のイラン訪問をこのように厳しく批判した。

 安倍首相イランを訪問し、米国・イランの紛争の調停を試みた。米国ではトランプ政権からの否定的な反応こそないが、メディアや専門家からは、安倍首相の調停工作が何も事態を改善せず、かえって日本企業が運航するタンカーが攻撃を受けたことへの冷ややかな評価が出ている。日本の戦後外交の特徴だった「架け橋外交」の限界が期せずして露呈したともいえそうである。

安倍首相の訪問中にタンカー攻撃

 安倍首相6月12日から14日までイランを訪問し、ロウハニ大統領や国家最高指導者のハメネイ師と会談した。イランと米国の険しい対立を緩和し、両国の歩み寄りを促す、という趣旨のイラン訪問だった。だが、こうした目的は現状ではなにも果たされなかったようにみえる。

 イラン側は米国との話し合いを拒み、むしろトランプ政権への非難を強めた。そしてなによりも、安倍首相の訪問中に日本企業が運航するタンカーが攻撃を受け、炎上した。

 米国政府はイギリス政府とともに、攻撃を行ったのはイランの革命防衛隊だとして、その証拠となるビデオ数点を公表した。一方、イラン側は攻撃の責任を全面的に否定する。だがこの種の見解の対立では過去の事例を見る限り米国や英国の政府の主張のほうが正しい場合が多い。

 トランプ政権のポンペオ国務長官は、このタンカー攻撃を疑いなくイラン側の犯行だと断定して、「日本の安倍首相が来訪中にあえて日本のタンカーを攻撃することは、安倍首相や日本への侮辱だ」とまで述べた。

「中東和平への新参者」が得た教訓

 こうした動きのなか、6月14日にウォール・ストリートジャーナルは以下のような趣旨の記事を掲載した。

安倍首相イランへの旅の後、米国・イラン紛争が旅の前よりもさらに激しくなるという事態に直面した。イランは米国に対する姿勢をさらに硬化させ、しかも安倍首相の訪問期間中に日本籍のタンカーが攻撃され、大打撃をこうむったからだ。

安倍首相トランプ大統領の同意を得て、日本の歴代政治指導者が避けてきた中東紛争の緊張緩和工作という領域に足を踏み入れた。安倍氏の動きには、外交面での成果をあげて、来るべき国内の議会選挙で有利な結果を生もうという意図も伺えた

・ポンペオ国務長官は「イラン安倍首相の外交努力を完全に拒み、さらに日本籍のタンカーを攻撃することで、安倍首相を侮辱した」と今回の安倍首相イラン訪問を総括した。

安倍首相はあくまで中立の調停者として振舞ったが、イラン側のメディアは、安倍首相トランプ大統領の親密な関係や日本の米国との軍事同盟について詳しく報道し、安倍首相は結局米国側に立っているのだという構図を強調した。

 安倍首相イラン訪問は日本の現職首相として41年ぶりだったが、ウォール・ストリートジャーナルの記事は以上のように述べ、イラン訪問が何の成果も生み出さなかった現実を伝えた。記事には「中東和平への新参者が苦痛な教訓を得た」という見出しがつけられていた。

日本の「架け橋外交」の決定的な弱み

 ニューヨークタイムズ6月12日の記事で安倍首相イラン訪問を詳しく報じたが、米国・イランの調停の試みへの評価はやはり厳しい。同記事は、日本の政治や外交に詳しい米国人学者、トビアス・ハリス氏の「軍事という要因にまったく無力な日本はこの種の紛争解決には効果を発揮しえない」という見解を紹介していた。

 ハリス氏は次のようにも述べる。「日本にとっては、米国とイランの間の緊張を緩和するという控えめな目標さえも、達成は難しいだろう。日本は確かに米国およびイランの両国と良好な関係にあるが、両国の対決を左右できるテコは持っていない。なぜなら日本には軍事パワーがまったくないからだ」。

 米国とイランの対立も、中東紛争全体も、情勢を左右するのは軍事力である、という現実の指摘だろう。それは同時に、日本の「架け橋外交」の決定的な弱みを浮かび上がらせたといってもよい。

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