“仕事よりも家族が大事”だった中国人に異変が起きている。かつては妻の出産時には休暇を取るのが当たり前。しかし、仕事に忙殺され、出産に付き添えない夫が増えてきた。中国・上海の投資コンサルティング会社に勤務する山田珠世氏が、中国人ワークライフバランスが崩れつつある状況をレポートする。(JBpress

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「配偶者出産休暇」を取得できない

 中国では、妻の出産時に夫が病院に付き添うのはごく当たり前のこと。つい最近まで、そう思っていた。

 筆者が上海市内の産院で3人の子どもを出産した際、中国人の夫は当然といった様子で、出産当日から休みを取り、退院までの3日間付き添ってくれた(中国では自然分娩の場合、入院期間は3日間となっている)。夫は病室に寝泊まりし、甲斐甲斐しく世話をする、とまではいかないものの、入院中はずっとそばにいてくれた。

 出産後に、入院している周りの人たちを見わたしてみても、旦那さんがそばにいるか、母親または姑らしき人が常に付き添っていたから、日本とはずいぶん違うものだと感じたものだ。10年ほど前の話である。

 ところが、最近はずいぶん様子が変わってきているらしい。配偶者出産休暇を取得しない、またはできない人が増えてきているというのだ。

 ビジネスSNS(交流サイト)「LinkedIn(リンクトイン)」が出産後2年以内の働く女性1100人を対象に行った調査によると、35%が「夫は配偶者出産休暇を取得しなかった」または「夫は仕事のために配偶者出産休暇の取得をあきらめた」と回答していることが分かった。

 メディアは「休暇を取得できなかった人が35%もいた」といったマイナスニュアンスで報道していた。確かにその通りだ。昔は、中国ではほとんどの男性が妻の出産時には休暇を取っているように見えたし、実際そうだったのではないかと思う。

仕事が忙しすぎて・・・

 筆者のまわりにいる5~10年前に出産した中国人の女性たちは、ほとんどが出産時に夫が休暇を取って付き添ってくれたという。

 ところがここ数年、普段から目が回るほど仕事が忙しく、妻の出産時にも付き添えないという人が増えているようだ。

 産婦と乳児の世話に特化したベビーシッター「月嫂(ユエサオ)」をしている友人によると、「正常な会社に勤める男性であれば、1週間から10日の配偶者休暇を取り、妻に付き添う」。ただ最近では、妻の出産時に夫が仕事のため病院に駆けつけられない、というケースもあるという。「昔は、妻が出産する際には、夫が付き添うのが当たり前だったのに」と話す。

 ネット上で、北京市で数カ月前に出産した女性の話が紹介されていた。

 北京市には、15日間の配偶者出産休暇を取得できる制度がある。だが、彼女の夫の会社では「配偶者出産休暇」を取得した前例がないため、夫は有給を3日だけ取得した。彼女は「夫の会社は保険会社。15日も休暇を取ると業務に影響するため、上司から許可が出ないだろう」と話したという。

 仕事よりも家族を大事にする中国人が・・・と信じられない気持ちになったが、これが中国の現状なのだ。

日本の男性の取得率は?

 少し古い資料になるが、日本で内閣府子ども・子育て本部が2016年に行った調査によると、2015年に配偶者が末子を出産した被雇用者の男性約1000名のうち「配偶者の出産後2カ月以内の休暇の取得率」は55.9%だった。日本の場合は中国と逆で、「意外に取得率が高い」と感じた。

 ところが、厚生労働省が6月初旬に発表した調査によると、2018年度における日本の男性の育休取得率は6.16%しかない。6年連続で増加し、過去最高を更新したとはいえ、依然9割以上の人が休暇を取ることができていない現状が明らかになった。

 最近も、「育児休暇を取得した夫が、仕事復帰直後に転勤を言いわたされ退職した」と妻がツイッターで“告発”し、炎上した事件が起きた。この件をめぐってはさまざまな議論が飛び交っているが、会社の意図がどこにあったにせよ、これから出産を予定する妻を持つ男性の心理的な障害になる可能性が高い。

男性の育休制度を初めて打ち出した江蘇省

 中国の「配偶者出産休暇」は、各地の省、直轄市、自治区がそれぞれ「人口・計画生育条例」の中で設けている。日数は7~30日と異なるが、15日間と設定している省・直轄市・自治区が最も多い。

 従来、上海市では、晩産の夫婦が3日間の「晩産看護休暇」を取得できる制度があった。上海市は2016年2月にその制度の名称を「配偶者出産休暇」と改め、すべての夫婦が10日間取得できるようにした。北京市、広東省、江蘇省は15日、天津市は7日間となっている。その後、多くの省・直轄市・自治区が配偶者出産休暇を延長した。2016年初頭に「一人っ子政策」が撤廃されたことを受けての措置である。

 さらに、男性にも育児休業を与えるべきだという議論が出始めた。それまで中国には男性の育休が存在しなかった。

 江蘇省は2018年6月、「江蘇省婦女権益保障条例」を施行し、この中で、女性の出産休暇中に男性が5日以上の育休を享受できるように手配することを奨励するとした。これは中国で初めて男性の育休を打ち出したものとされている。日本の育休のように長期間ではないものの、配偶者出産休暇と合わせると計20日と、決して短くもない。

制度を作っても日本の二の舞?

 ただ中国ではここ数年、夫が育児を手伝ってくれないことを揶揄(やゆ)した言葉「喪偶式育児(配偶者不在の育児)」がネット流行語になっている。

 昔は「女性に優しく、家事も手伝ってくれる」というのが、上海の男性に対する定番の褒め言葉だった。だが実際には、その美風は筆者の夫の親世代までとも言われている。まわりにいる上海の友人たちをみても「男性が子育てにとても協力的」という家庭は少数派だ。

 筆者は「中国の人たちは休暇を取ることに引け目を感じず、当然の権利だと認識している」と思っていた。だが、経済の発展とともに、残業が当たり前になり、簡単には休暇を取ることができない業界も増えている。日本のように、休暇を取りづらい社会環境が形成されていくかもしれない。

 これから中国にも制度としては男性の育休が導入されていくだろう。だが、蓋を開けてみると取得率が1割に満たない日本の二の舞にはなってほしくないものである。

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