シンポジウム「需給を反映したコメの価格形成を考える」のパネルディスカッション

6月17日、東京・弥生の東京大学・弥生講堂で、シンポジウム「需給を反映したコメの価格形成を考える」が開かれた。(一社)日本GAP協会、(一社)日本食農連携機構、(公社)日本農業法人協会、NPO法人 日本プロ農業総合支援機構の4団体で構成される「農業経営支援連絡協議会」が主催。全国稲作経営者会議と大阪堂島商品取引所が後援。本紙「米麦日報」では、新潟ゆうき(株)の佐藤正志代表による基調講演の後に行われたパネルディスカッションの模様を詳報する。

ネリストは、佐藤代表に加え、大潟村農協(秋田)の小林肇組合長、全国稲作経営者会議の平石博会長(新潟・(有)グリーン代表)、農業ジャーナリストの青山浩子氏、東京大学大学院農学生命科学研究科の中嶋康博教授の5氏。コーディネータは、商経アドバイスの中村信次社長。

――主食用米は、消費減の一方、4年連続の米価値上がりの状況にあります。これを踏まえ、現在の現物市場の問題点は?

小林 新聞などでは(平成30年産から)「減反廃止」と言われていましたが、そうではなく現在は「減反強化」ではないかなと理解しています。政府は高米価維持政策をとり続けていますが、これによって需要が減少する“副作用”もあります。
大潟村農協(秋田) 小林肇組合長

大潟村農協(秋田) 小林肇組合長

しかしそれを理解しながらも、高米価維持政策から脱却できていないというのが現状だと思います。価格が下がった平成26年産米ではSBS輸入米など外国産米の利用が極端に減り、国産米を利用する企業が増えたという結果もあります。本来であれば、将来需要が見込めるような中食や加工原料の市場に対して、どうやって(供給を)増やすかという政策をやるべきだと思っていますが、なかなかそういうふうにはいかない。その分、所得が減ったらどうするんだという議論もありますが、所得が減った部分は、所得対策をするほうが分かりやすくなると感じています。

特に今年、政府は備蓄米・飼料用米へ強力に舵を切って米価を上げる方向に躍起になっています。秋田県も県別の備蓄米枠(優先買入枠)を残しており、農林水産省から各農協にかなり乗り込んできています。その結果、備蓄米の(政府買入)価格は13,800円という数字が見えているわけですが、税込で言えば15,000円弱。あきたこまちを超えるような価格になっているなか、各農協は加工用米で契約して出荷しようとしていた玉を切り替えて、備蓄米に回しているのが現状です。さらに、国は輸出を強化すると言っていますが、米価を高く維持するのは、かえって逆効果だということは皆様お分かりだとだと思います。

またWTOに触れる可能性のある「新市場開拓用米」には、かなり疑問に感じています。ちょうどアクセルブレーキの両方を踏んでいるような状況ではないかと私自身は感じております。米価はこの4年あまり上がっていますから、いつかどこかで調整が入ることも予想されます。その時にどう対策を打つのか、生産者・農協も考える必要があると思われます。その際、先物市場の利用を一つの選択肢として考えておくべきではないかと感じている次第です。

佐藤
今、形式上は生産調整がなくなったことになっています。ただ、現場では我々を含め、「生産(数量)の目安」を配分しているわけです。目安を出すという行為は、少なからず「それを守ってほしい、守ってください」というメッセージであり、そこで需給のコントロールが効いているのではないかと私は考えています。

新潟ゆうき 佐藤正志代表

新潟ゆうき 佐藤正志代表

しかし、そこでリスク・コントロールが出来たとしても、昨年のように作況(作柄)が産地によって大きくブレています。私どもの地域では作況指数93(新潟)で、本来であればもっと沢山穫れて流通させられたはずのものが、急激にスパッとなくなっている状況です。これについてはやはり問題だと感じています。そして、これを消費の側から考えると、経済の原則として捉えれば、需給が変化し、市場に米が沢山流通することで価格が下がるわけです。これは買う側にとっては良いことです。

我々にとっては厳しい面もありますが。でも、明確な答を持っているわけではありませんが、そういうことも含めて何かもう少し工夫が必要だと現状を捉えています。ただ備蓄米だけに(助成が)偏ったり、エサ米だけに偏ったりしていったときが問題です。それ(助成体系)が維持できれば良いのですが、維持できなくなった時に、市場の中で問題が発生します。以前、食管の時代にまさにそうした問題がありました。私としてはその点を非常に危惧しています。

平石 大規模農家であれ兼業農家であれ、お盆過ぎになると全農新潟県本部から仮渡金、他地域で言うところの概算金が伝わってきます。その価格は(事前には)なかなか想像がつきません。現在は「大体これくらいだろう」と想像しながら作付しているわけですが、これは大規模農家にとってはリスクが伴います。作付前後に価格が決まっていない、これは大規模になるほど大変だと私は思っています。

全国稲作経営者会議 平石博会長

全国稲作経営者会議 平石博会長

まして米の需給バランスをどう捉えるか。一番の原因は天候にあると私は思います。もちろん、政策的な誘導もありますが、天候に一喜一憂しながら農業を続けているなか、大きな暴騰が発生する時だけ政府が備蓄米を放出する状況です。我々もどんどん値上がりすれば良いとは決して思っていません。米価の安定を図ってほしいというのが一番の願いです。供給過剰という問題については、生産者にしっかり問題があると思いますので、そこはちゃんと売り先の決まっている米を作る必要があると認識しています。

そして、一番大事なことは、買う人が気軽に買える値段です。需要量の減少に歯止めがかからないで、どんどん減ってくることが生産者、もちろん大規模農家にとっては、一番真綿で首を絞めることになります。それをよく考えながら、私は国に対してもそうですが、生産コストの低減について政策誘導を求めていますし、価格はある程度安定した価格で取引できれば一番良いと思っています。

――需要を減らしながら価格を維持する政策。政策と価格形成について、消費者からご覧になった問題点は?


青山 消費者を代表するようなお話はできませんが、やはり今の米の値動きというのは消費者不在なのかなと思います。需要が減っているわけですから、平石さんが仰ったように買いやすい価格にして沢山食べてもらう――と言っても、家ではなかなか食べませんが、コンビニや外食など業務用需要で沢山食べてもらう、おにぎりを大きくするというようなことが出来るかと思います。

農業ジャーナリスト 青山浩子氏

農業ジャーナリスト 青山浩子氏

農林水産省の(食料・農業・農村政策審議会)食糧部会でもコンビニのベンダーさんが、毎回のように「米が高くて今は減らしている」「コストがあまりにも高いので、もち麦や小麦商品を増やしている」というような注意喚起をかなり積極的にやってらっしゃいますが、その通りに米価は動いていないということです。同じく、食糧部会の議事録を見ると、(60kg)200円米価が上がると1万t需要が減るといったような計算もあります。日本人がそもそも米を食べなくなったということも致し方ない部分はありますが、高米価によってさらなる米離れが進むことは、非常に残念だと思います。政策的に米離れを進めてしまっているとしたら、改善の余地はかなりあるのかなと思います。

――生産調整や米価を巡るここ数年の政策をどう評価していらっしゃいますか。

中嶋
国による生産調整の配分をやめた段階で、マーケットがどう動いていくかは非常に不安だったと思います。それは(事前に)見込まれていましたから、その前の段階、例えばまだ国が(生産数量目標を)配分している段階で、県ごとのシェアは一定させ、深掘りの数値(自主的取組参考値)も示すなど、そうしたレッスンを繰り返してきたのがここ数年の対策だったと思います。

東京大学大学院農学生命科学研究科 中嶋康博教授

東京大学大学院農学生命科学研究科 中嶋康博教授

実際に配分が終わった後、30年産、そしてこれから元年産に取り組もうという段階になって、とりあえず、例えば29年産と30年産の値段はそう大きくは変わらない。私の印象では、現場の方々がまず安心して、じゃあここからどうしていこうかなという出発点が作られたのではないかと思っています。

ただ、その裏側には確実に消費の減少があって、食糧部会でも年間10万t減っていくということを基調に(米穀の需給及び価格の安定に関する)基本指針を作っていくことになりましたので、マーケットが縮んでいくなかでの生産力のあり方は見直していかないといけない。ただそれを、全体のマーケットの情報を出すだけで、それぞれの地域でどうするかということに関して、(国は)直接は関与できないわけです。それについての個々の皆さんの分析、そしてそれに対する次の対応を考えるべき時期に入ってきています。そのためには、まず安定した状況の整備というものが必要です。〈この項、続く〉

〈米麦日報 2019年6月19日付〉