「怖くて、同年代の女性が多い職場ではもう働きたくありません」と話す山本亜里沙さん(仮名・大学事務・37歳)。彼女をこんなふうに追い詰めたのは、以前働いていた派遣先でのある女性からの“いじめ”だそうです。



写真はイメージです(以下同じ)



「きっかけはハッキリとわかりませんが、おそらく私がイベントの仕事の手伝いに駆り出され、複数の男性社員と親しくなってから。男性社員と談笑したり、私指名で仕事を頼まれたりすることが増え、よく他の派遣仲間から『せっかく仲良くなったんだから合コンセッティングしてよ!』とか言われてたんですね。でも、いじめの張本人・Aだけは話に加わらず冷めた表情をしていたので……」


◆“お菓子外し”が地味にこたえるワケ
 そして、Aさんからのいじめがスタート


「そのときの派遣先は派遣の席だけを集めた島があったんですけど、一番端っこに座っているAが自然といつも差し入れのお菓子などをみんなに配る役目をしていたんですね。で、ある日社員から出張土産の差し入れがあり、それをいつものようにみんなに配りだしたんですけど、私の席だけさりげなくスルーされて……。そう、“お菓子外し”をされたんです


 お菓子外しとは、特定の人にだけお菓子を配らないという職場いじめのひとつ。


「『あれ?』と思いましたが、私の席も端っこなのでうっかり忘れた可能性もあるし、そのときは『まぁいいか』とやり過ごしました。でも、その後も同じパターンが何度か続いて、『あ、これは明らかお菓子外ししてるわ』と気づいたんです」



 お菓子外しをされる辛さは“気まずさ”にあると山本さん。


「その派遣先では、お菓子が配られると休憩がてらみんなその場で食べることが多かったので、お菓子をもらえないと手持ち無沙汰。みんなを眺めているのもヘンなので、仕事をしているしかありません


 一度、隣の席の子が『あれ? 山本さん食べないの?』と聞いてくれたのですが、なぜか『もらってない』と言いにくくて『お腹空いてないからいいの』と答えてしまい……。Aの悪行を明るみにできなかったどころか、私がお菓子を食べていなくても気にされなくなってしまいました


◆内容が幼稚すぎて、上司に相談もできない
 その状況に調子づいたのか、お菓子外しはいっこうに終わりません。
お菓子をもらえないくらい我慢できるでしょ』と思われそうですが、ずっと続くと相当こたえるんですよ。自分だけ貰えるはずのものを貰えないことや、自分だけ休憩できないことがいたたまれず、みんなが食べている間はトイレなどへ行って席を外すこともしょっちゅう。この辛さはされた者にしかわからないと思います


 派遣仲間や上司への相談も考えたという山本さんですが、いじめの内容が“お菓子外し”とあまりに幼稚なため、なかなか踏み切れなかったといいます。
「普段はフツーに接してお菓子外しだけするって、本当に周りに気づかれにくいですよね。そのあざとさに、だんだんAの顔を見るのが嫌になり、職場に行くのが憂鬱になっていました」


 そんなある日、Aのお菓子外しへの執念を感じる出来事が。


「その日はAが手づくりのマフィンを持ってきて、当然のように私以外のみんなに配りだしたんですね。そしたらそこに、みんなに慕われている40代のサバサバした社員女性が通りかかって、彼女にもAがマフィンを渡したんです。すると、私の席の後ろを通ったときに彼女が『あら~、山本さんだけ仕事してるの? はい、コレ食べて少し休んで!』と、私の席にマフィンを置いていったんです



 自分用マフィンをもうひとつ貰い去っていった社員女性と、デスクの上に置かれたマフィンを交互に眺め、しばしフリーズしてしまったという山本さん。


「久々のお菓子にどうすればいいかわからなくなっちゃって。正直、Aが作ったマフィンなんか食べたくなかったですしね。でも、ここで食べないのはおかしいと考え、手に取ろうとした瞬間、なんとAが私の席に飛んできて……。『コレ、焼きすぎちゃったヤツだ』とマフィンを取り上げその場でもぐもぐ食べ、『でも味は大丈夫だったかな』とか言いながら去っていったんです。私には絶対にお菓子を食べさせまいとするやり口に、唖然(あぜん)としてしまいました」


 この一件で、お菓子外しに耐え続けることも、気づいているのかいないのか誰もフォローしてくれないことも、すべてが嫌になったという山本さんは契約途中ながら退職。
「無収入の期間ができてしまい大変でしたが、別の派遣会社に登録して大学の事務職員として働き始めました。もちろん、選んだ決め手は『同世代の女性がいない』ということ。もう、くだらないいじめで精神をすり減らすのはこりごりです」


 悩まされる人が少なくないというお菓子外し。実に陰湿です……。


シリーズ「いじめ」


<文/鈴木うみこ イラスト/ただりえこ>