6月15日(土)から公開中の劇場アニメ『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』
昨年10月〜12月に放送された『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』の続編で、主人公の梓川咲太(CV:石川界人)と、1学年上の先輩で恋人の桜島麻衣(CV:瀬戸麻沙美)、そして、謎の少女、牧之原翔子(CV:水瀬いのり)の3人による、命をかけた、不思議で優しく複雑な物語が描かれていく。

石川界人瀬戸麻沙美による、主人公&メインヒロイン対談の後編では、ネタバレ全開で物語の結末にも触れながら、咲太や麻衣の思いをさらに紐解いていく。
本作を未見でネタバレが気になる人は、映画館へ行った後、この先を読んで欲しい。

(ネタバレ無しの前編はこちら

現場で一緒にやってみないと、自分がどうなるか分からなかった
──ここからはネタバレありということで、改めて、本作の台本を読んだ時の率直な感想を教えてください。

瀬戸 麻衣さんは、テレビシリーズでは見せなかったくらい感情が高ぶるシーンなども多いなと思いました。家で台本を読む時、最初は声に出しては読まないんですけれど、読んでいると(セリフを)喋ってみたくなって。声に出しながら読んだら、すごく気持ちが乗せられたんですよ。もしかしたら、一番良く乗ってたかなって思うくらいに(笑)。

──そうなのですか?

瀬戸 最初は台本だけを持って、ト書きを参考にしながら、きっとこのタイミングで涙が出てくるとか、ここで叫ぶとか、頭の中でいろいろと考えながら読んだんです。でも、その後に、V(アフレコ用の映像)を見ながら、セリフを合わせようと思ったら、泣くタイミングや、表情が変わって感情が高ぶるシーンのタイミングが私の想像とは少し違っていたりもして。やっぱりアフレコって難しいな、と改めて思いました。気持ちの流れができたとしても、それをアニメーションの決まった尺の中にどう乗せるのかは、また別の難しさがあるんですよね。

──自由に感情を乗せるだけでなく、映像に合わせることも重要になるということですね。

瀬戸 はい。でも、できるだけ心地良い流れでできればと思ったので、Vを見ながら、ひたすら(セリフの)タイミングと尺を考えて。その時点では、まだ絵が完成していなかったので、ト書きを参考に表情を想像したり、「ここの表情については、現場で確認しよう」と考えたりしました。

──アフレコ当日、監督や音響監督に、細かな確認などはしたのですか?

瀬戸 どうしてもVと台本だけでは分からなくて、ここだけはテストの前に聞きたいと思ったところについては、監督に質問をしたのですが。そこ以外については、まずテストをやってみて。それでも気になるところがあれば、聞いてみるという感じでした。

──石川さんは、いかがでしたか?

石川 咲太って、これまでは人のために悩んだり、奔走したりすることが多かったんです。でも、今回は自分のことも含まれているので、そこがすごくキツかったです。彼自身の感情がすごく露出するシーンもあって。そこの出し方が分からなかったというか……。麻衣さんと同じで、咲太も、ここまで感情が揺れることって今までにあったのかな、と思うようなシーンもあったから、いろいろと考えました。最終的に、自分と、麻衣さんと、翔子さんの誰が死んで、誰が死なないのか、という状況になった時には、葛藤とか、戸惑いとか、悔しさとか、虚無感とか、いろいろなものが入り混じっていたと思うんですけれど。それをどういう風に(芝居で)出せば良いのか、まったく分からなくて。僕の場合は、瀬戸さんとは逆に、家で一人でやった時には、まったく(気持ちが)入らなかったんです。現場へ行って、共演者のみんなと一緒にテストをやってみないと、自分がどうなるか分からない。それがキツかったし、怖かったです。

──実際にスタジオで、テストをした時には、その怖さはどうなりましたか?

石川 「あ、みんないる!」と思ったら、全然無くなって、楽しくなっちゃいました(笑)。

重い展開でも、軽やかに描かれていることが、この作品の魅力
──テレビシリーズでも、「思春期症候群」を発症したヒロインたちと咲太は、さまざまな悩みや問題に直面してきました。しかし、本作では、先ほど石川さんがおっしゃったように、咲太、麻衣、翔子の中の誰を見捨てて、誰を救うのかという問題になっていきます。その物語の重さは感じましたか?

石川 すごく感じました。今までは「思春期症候群」にはなっていても、「命までは」というところがあったじゃないですか。「思春期」って言葉が付いているだけあって、まだちょっと可愛いところもあるというか。その時期独特の悩みを解決していくみたいなお話だったと思うんです。でも、今回の展開は悩みどころの話じゃないので。

瀬戸 私は、そういった重い展開にもかかわらず、軽やかに描かれていることが、この作品の魅力だと思うんです。でも、終わった後には、考えさせられる内容だなと感じました。しかも、その考えさせられる内容も、死に向き合うといったネガティブな意味ではなくて。人は人に支えられて活かされているという、人と人の繋がりや優しさを伝えようとするメッセージが根本にあるんだなと感じました。ただ、それって物語を見ている私たちの目線なので。当事者の麻衣さんたちにとっては、また違ってきますよね。麻衣さんと咲太はまだ高校生なので、おそらく、身近な人の死をまだあまり経験していない。もしかしたら、初めてのことだったりするかもしれないので、その衝撃に彼らがどう対応していくか、ということはすごく気になっていました。

──麻衣の反応や行動については、どう思いましたか?

瀬戸 麻衣さんは、とても冷静だし周りのことを考えているけれど、死や生ということに関しては、とても素直な子だなと思いました。咲太が死んでしまうのを防ぐために自分が死にたいけれど、それって自分のエゴで。咲太が自分のことを好きなことも分かっているから、そうすることで咲太が傷つくことも分かっている。それでも、大切な人に生きていて欲しいという結論に至るんですよね。高校3年生というこの年で、そのことを知れたことは、すごく大きな成長だなと思いました。相手を思いやることって、エゴと隣り合わせなところがあって。しかも、今回は生と死がかかっている問題。すごく難しくて、もし自分が当事者だったら、決められないですよ。自分が死んだら相手が悲しむけれど、相手が死んだらと思うと、自分が死んだ方が楽なのかな……とか。そういうことを考え始めたら、止まらなくなりました。

──咲太の考えや行動について、石川さんはどのように捉えていましたか?

石川 咲太が悩むのって、自分が死ぬことについて嫌なのではなく、自分が死ぬことで麻衣さんが悲しむことが嫌だからなんです。しかも、この物語の中で翔子さんは、ずっと咲太を救うための行動、自分が死んで咲太が助かれば良いというムーブをしているので、咲太が死ねば、翔子さんも悲しむ。自分が死ぬことで、生き残った人に重荷を背負わせることにもなるし、すごく難しかったと思います。

自分は死んで、みんなを助けるって、まるで主人公みたい
──本作の中で特に印象深いシーンやセリフを教えてください。

瀬戸 電車のホームで泣きながら咲太を止めるシーンです。咲太が自分は死ぬことを決意しているから、みんなにお別れみたいなことを言って回るんですけれど、麻衣さんはそれが気に入らないんですよね。必死に咲太を説得しようとしているところは、今まで見せない表情だったので印象的でした。

石川 僕もそのシーンなんです。麻衣さんがそこまで感情を露わにしてぶつけてくることも今まであまり無かったですし、あそこの咲太の冷静さはすごかったです。実際に冷静だったのかは分からないですけれど。頭の中はぐちゃぐちゃで、わけが分からなくなっているけれど、冷静さを装っていたのかもしれない。でも、どちらにしても、あそこでは、決意をした咲太の強さを見たような気がしました。恋人に何を言われても、自分は死んで、みんな(麻衣と翔子)を助けるっていう。まるで主人公みたいなことをやってました(笑)。

──咲太、ちゃんと主人公ですよ(笑)。

石川 他者のために一度決めた事は、自分がどれだけ犠牲になってもやるという、彼の本質を見た気がします。

瀬戸 麻衣さんもそれを知っているから、止めることは無理だって分かっていたと思うんです。それなのに、止めちゃうんだなって。あそこで、最後にあがけるのも麻衣さんもすごい。下手に相手のことを理解しちゃうと、「あ〜これはもう無理だ。仕方ない」ってなっちゃいそうじゃないですか。でも諦めずに食い下がった麻衣さんは、すごいなと思いました。

──咲太と麻衣の運命により深く関わることになった、劇場版での翔子について、印象をうかがえますか?

瀬戸 最初は、「麻衣さんの上をいく女だ」って思いました(笑)。登場シーンが、いきなり咲太の家を訪ねてきて、麻衣さんが何を言っても、上手なセリフを言われてしまうという会話の展開だったので。珍しく、麻衣さんが口ごもるようなところもありましたから。

──その後、物語が進む中、印象に変化はありましたか?

瀬戸 彼女も彼女で、頑固な人だなと思いました。昔、咲太と出会っているから、そういうことを学んじゃったのかなって(笑)。翔子さんと咲太は、お互いに影響を受け合っているというか、ちょっと似ているところがあるなと私は思っていて。お互い頑固だし、ちょっと哲学ちっくな喋り方をするし。そういうところはありましたね。でも、後々、翔子も自分のためではなく、人のために動いていたからこそ、ちょっとわがままな自分を演じていたんだな、ということを知ることができました。お父さん、お母さんに心配をかけないように笑顔で振る舞っていた幼い(中学生の)翔子さんが、病室で咲太に、本当は嫌なんだという思いを吐き出せた時、彼女の本当の気持ちを見られた気がしました。

石川 いち視聴者としては、ようやく翔子さんにフォーカスが当たった、という感じでした。原作を読んでいる人からすれば、なおのことだった思います。1巻からずっと伏線として出てきてるし。テレビアニメでも、いろいろと謎を残したまま最終話まで終えているので。そういう意味でも本当に、ようやく翔子さんの物語を見られて良かったなという気持ちでした。それとやっぱり、この話は劇場作品にしておくべき話だよなって、改めて思いました。この話を、他の(ヒロインの)エピソードみたいに、テレビシリーズ3話分とかでやろうとしたら、描ききれないことがいっぱいあったかなと思います。

経験した記憶は無いけれど、何かが繋がっているんだろうな
──この物語で描かれた出来事は、咲太と麻衣の2人にとって、どのような意味のある経験になっていくと思いますか?

瀬戸 う〜ん……いろいろな経験はしたけれど、2人にその間の記憶は無いんですよね。でも、心のどこかに何かが残っているから、一番最後のカットで、ドナーを待つ心臓病の女の子役のオファーがあった時、「なぜか絶対にやりたいと思った」という話をするんですよね。だからきっと、経験した記憶は無いけれど、何かが繋がっているんだろうなと思います。

石川 劇場版の最後のシーンの表現にもありましたけれど、記憶が無くても、(翔子と同じ)心臓病の女の子というところは気になるという物理現象はあるので。そういう意味では、無意識の経験にはなっているのかなと思っていて。ただ、記憶には残ってないからなあ……。

瀬戸 でも、劇場版までの長い時間をかけて描いてきたことが全部無くなるというラストなのに、喪失感は無いんですよね。ゲームとかプレーしていて、最後が夢オチだったりすると、「え!?」ってなったりもするのですが(笑)。この作品は、それが無くて。何か違う形、温もりになって残っているから、最後のカットの描き方も素敵に見えたのかなって。咲太が(偶然会った)翔子さんの名前を呼ぶところも、記憶が戻ったわけではないけれど、何かが繋がっているという表現だったので。すごく良い見せ方だなと思いました。

石川 最後のシーンに向けての伏線回収がすごかったです。テレビシリーズも含めて、今までの物語をすべて夢にしてしまうというのは、原作を読んだ時から、かなり大胆だなって思っていました。あれだけ悲しかったことも、楽しかったことも、全部、1人の女の子が見た夢だったんだというオチですから。ビックリします。でも、さっき記憶に残ってないとは言いましたが、僕なりの解釈としては、最後に「牧之原さん!」と名前を呼んだ時点では、ほぼ思い出しているのかなって。ただ、劇場版の中では明確な表現はしていないところなので。そこは、いろいろな解釈ができます。
(丸本大輔)

≪作品概要>

『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢をみない』
2019年6月15日(土)公開

【STAFF】
原作:鴨志田 一(電撃文庫刊『青春ブタ野郎』シリーズ」)
原作イラスト:溝口ケージ
監督:増井壮一
脚本:横谷昌宏
キャラクターデザイン・総作画監督:田村里美
音楽:fox capture plan
制作:CloverWorks
製作:青ブタProject
配給:アニプレックス

【CAST】
梓川咲太:石川界人
桜島麻衣瀬戸麻沙美
牧之原翔子:水瀬いのり
古賀朋絵:東山奈央
双葉理央:種崎敦美
豊浜のどか内田真礼
梓川花楓:久保ユリカ

(C)2018 鴨志田一KADOKAWA アスキー・メディアワークス青ブタProject

石川界人(いしかわ・かいと):プロ・フィット所属。東京都出身。『翠星のガルガンティア』のレド役で初主人公/瀬戸麻沙美(せと・あさみ):シグマ・セブン所属。埼玉県出身。『ちはやふる』の綾瀬千早役で初主人公