15日に韓国東海岸の三陟(サムチョク)沖で発見されたと発表されていた北朝鮮の漁船が、実際には三陟沖ではなく三陟港の防波堤に停泊した状態で見つかっていたことや、さらには乗員が上陸して地元住民と言葉を交わしていたことまでが判明し、問題となっている。

漁船の発見地点は、北朝鮮との海上境界線である日本海の「東海(日本海)北方限界線」から約150キロも南にあり、ここまでの沿岸部には軍民の重要インフラがズラリと並んでいる。やってきたのが漁民でなく、高度に訓練された北朝鮮特殊部隊だったらえらいことだ。

北朝鮮軍は兵員の規模こそ大きいものの、軍紀はびん乱の極みにあり、とてもまともな戦争には耐えられない状態にあると思われる。

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また、飢餓や性的虐待が横行する軍にわが子を送るまいとする親も多く、兵役忌避も増えていると伝えられる。北朝鮮でも少子化が進行していることを考えれば、兵力規模すら維持するのが難しいはずで、まさに「ポンコツ軍隊」と呼ぶべき実態があるわけだ。

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だが、そのような現状を黙ってみているほど、金正恩委員長も甘くはない。彼はだからこそ、核兵器弾道ミサイルの開発に集中投資したわけだ。また、精強さで知られる12万人の特殊部隊と、世界的にも高度なレベルにあるとされるサイバー攻撃部隊は、核兵器と並ぶ切り札だ。これらを柱とする北朝鮮の軍事戦略は、先進的な通常兵器で武装した韓国軍と正面から対峙せず、相手の弱点に付け入る「非対称戦略」と呼ばれる。

今回の漁船南下の一件は、このような北朝鮮の戦略に対し、韓国側が脆弱であることをまざまざと見せつけた。

そもそも韓国軍は、ステルス戦闘機イージス艦などの先端兵器の導入を進める裏で、ちぐはぐな軍事行政のため空軍機用ミサイルの更新が遅れたり、汚職がらみで納入された装備がまともに作動しなかったりと、内なる問題を山ほど抱えている。

昨年12月に日本との間で発生した「レーダー照射」問題にも、そうした「内憂」の影響がうかがえる。

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今回の漁船の一件でも、そうした「悪い癖」が表れた。韓国軍と警察は当初、操業中の韓国漁船からの通報を受け、三陟港近くで北朝鮮の漁船を発見したと発表していた。しかし、実際には三陟港に停泊していたことが分かり、軍と警察の海岸監視網が完全に破られたことに加え、失態を矮小化しようとしていたことへの批判が高まっているのだ。

韓国にはこのような実態を指し、「韓国軍はとうてい、戦争に耐えられる状態にない」と述べる識者も少なくないのだ。

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2018年6月14日、NSC全体会議で発言する文在寅氏(韓国大統領府提供)