txt:江口靖二 構成:編集部

シブくて新しい展示たち

DSJは言うまでもなく日本最大のデジタルサイネージのイベントだ。デジタルサイネージには何かしらの表示装置が必要だ。LCDやLED、プロジェクターを使うのが一般的だが、新しいデバイスや新しい表現方法がDSJ2019ではいくつか提案されていた。

また、今年から同時開催のNext Retailingには、デジタルサイネージ用途だけとは限らないが、シブくて新しい展示を見つけたので紹介しておきたいと思う。

ソニーのCrystal LEDがDSJに初登場

DSJ初登場のCrystal LED

ソニーCrystal LEDがDSJに初めて展示された。CLEDISという名称だった頃も含めて初登場である。CESやNAB、IBCなどではお馴染みなのだが、本丸とも言えるDSJでははじめてなので、案外日本のデジタルサイネージ関係者の間では「初めて見た」という声を多数聞いた。彼らは一様にその映像に驚いていたようだ。現時点ではその美しさは突出しているが、価格がネックで導入が進んでいる状況ではない。製造コストの関係だと思われるが、導入が進むことをとても期待している。

HDMI入力できる電子ペーパーも初登場

デジタルサイネージにおいても、以前から電子パーパーのメリットは指摘されてきているが、実導入はほとんどない状況であった。DSJ2019ではクレアたけびしからHDMI入力できる大型電子ペーパーが登場した。これまで電子パーパーデジタルサイネージ利用の最も大きな課題は、汎用的なHDMI信号のインターフェイスデフォルトで搭載したものがなかったことだ。これは結構致命的で、デジタルサイネージにおいては出力側がSTBかPCを使うケースが大部分なので、それに直接つなぐことができなければ選択肢からは外されてしまう。

画面サイズのラインナップは豊富だ

今回電子ペーパーがHDMIに対応したことで導入に大きく前進することが期待される。もちろん視認性、カラーの問題、動画の速度には追従できないなどの課題は残るが、超低消費電力、電源遺失しても表示が維持されるというメリットを活かせる場所に対してどれだけ導入が進むかどうか。

グレースケール16階調

パナソニックのデジタルサイネージを利用した洗練された空間演出

パナソニックブースでは、プロジェクターとLCDのコラボレーションによる空間演出が更に進化した印象だ。これもあって今年の「DSJブースアワード」のグランプリを受賞した。LCD部分にはプロジェクター側でマスクを切って、プロジェクションされないようになっている。実際にはマスクなしでも映像によってはLCDの明るさが勝るので気にしなくて良いこともある。

パナソニックで新鮮だったのがこちらの照明器具だ。これは最初プロジェクターだろうと思ったのだが、そうではなくLCDである。真ん中にLEDランプの光源があり、本物の照明器具のようにカバーの部分がLCDになっているというもの。上部にプレイヤーがあり、4面に画像を表示している。ビデオでどこまで伝わるかわからないか、本物の照明の雰囲気そのままで可変される自然さが心地よい。カルーセルみたいにくるくる回るアナログ照明に近く、自己発光の普通のLCDやLEDのようなギラギラ感がなく、本当に自然雰囲気である。これはディスプレイではなく変化する照明と言うべきだろう。四隅が減光するのが逆に照明っぽくていいさらに雰囲気を醸し出している。

まだ試作段階とのことで、ハードウエア単体売りや、コンテンツも含めた提供など、市場の反応を見ながら検討していくと言うことだ。価格についても未定。個人的には価格、商品設計と販売ルートをきちんと構築できれば、相当の潜在ニーズがあると感じた。

工夫次第でインパクトが大きいシースルーディスプレイ

こちらはGSジャパンシースルーLEDディスプレイだ。画面の大きさ、解像度などが旧来のものに比べてかなり向上している。こうしたシースルーディスプレイは、ディスプレイの向こう側が透けて見えるから意味がある。これくらいの大画面になると、時々映像が消えて向こう側(だけが)が見えるとか、視認位置によるだろうが、向こう側と重なってはじめて意味を成す映像演出などを、考えればかなりインパクトがあるに違いない。こうした展示の場でこそこういう利用例を提示するべきではないだろうか。

目からウロコのアナログ・デジタル変換

今年からDSJと同時開催されている新企画「Next Retailing」エリアに、何やら年配の技術者が集まっているブースがあった。ビズライト・テクノロジーのブースである。

やっていることはひたすら単純で、安いUSBカメラでアナログのメーターを撮影し、Raspberry Piを搭載したIoTゲートウエイで数値を読み取るというもの。AIでもなんでもない単なる画像認識で十分認識ができる。これはデモのために、撮影されたカメラ画像を画像認識させているところをあえて見せている。ちょっと見にくいが、針の下の部分にメーターの認識結果として、赤い文字で「4.53V」と表示されている。これが欲しい電圧データとなる。

画像認識でメーター数値を読み取っている 懐かしいアナログ電圧計の正面にUSBカメラを置く

これは一体何の役に立つのか、わからない方も少なくないだろう。たとえば既存の工場などではセンサーでもなんでもない計測器、いやメーター類が山ほど存在する。電圧計や電流計、圧力や温度あたりがその主流だ。これらは人間が目視をして生産管理をしている。

ところが昨今の技術革新で、こうした現場にも自動化やIoTの波が押し寄せている。その際に計測データをリアルタイムで新システムに渡したいと思ってもこれが案外難しい。新たに別にセンサー類を仕込むということになるが、それが実際にはそんなに簡単なことではない。FAの現場を知っていれば容易に想像できることだろう。そこでメーターをカメラで読んでアナログ・デジタル変換させればいい、という話しだ。

この考え方は案外重要だ。カメラというのは視覚の代替なので、物理的な設置場所さえ確保できれば、既存のシステムや生産ラインには一切手を触れる必要がない。視覚で認識できるものであれば、画像認識なり必要であればAIで読み取ることが当然できる。これはメーターに限らず、交通信号機でも実はデジタル化されていないLCDの表示内容であっても構わない。

面白いのはすぐ隣では本物のディープラーニングによる缶ビールリアルタイム認識のデモも行っている。こちらはRaspberry PiとVPUスティックだけで実現されていて、使っているハードウエアの原価は2万円以下だ。これら2つのデモのハイテク感とアナログ感のギャップが不思議な光景なのであった。

サラッとデモを行っているが、実はかなり高度な内容であることが分かる
txt:江口靖二 構成:編集部
Vol.02 [DSJ2019] Vol.01
[DSJ2019]Vol.03 気になる表示装置と気になるアナ・デジ変換技術