高価格、短い航続可能距離など、電気自動車(EV)の課題は多い。そしてもうひとつの“カベ”が充電インフラの不足だ。経産省は補正予算で事業者向けに手厚い補助金を用意し、充電器の数を増やすことでEVの普及に弾みをつけたい構えだが、「補助金があればインフラが整う」というほど現状は単純ではないようだ。

1005億円もの予算を投じる経済産業省の「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」によると、月極駐車場やマンションなどへの充電器の設置(主に普通充電器を約4万基)も、普及に向けた重点政策のひとつに挙げられている。

確かに、マンションや駐車場に充電インフラがなければ、一般へのEVの普及など話にならない。だが、実はこれが一筋縄ではいきそうにないのだ。

全国で約1000棟近い分譲マンションの管理を手がける大手管理会社によると、「共用部分の変更になるので、管理組合総会で4分の3の議決による賛成が必要になり、ハードルはかなり高いでしょう。実際、弊社の管理物件で、EV充電設備を導入したところはゼロです」とのこと。

また、自動車評論家のこもだきよし氏の見解もこうだ。

「ボクも経験しましたが、既存のマンションの場合、管理組合の負担がゼロだとしても、住民の賛同が得られないのです。半額の補助で、管理組合が残り半額を負担するというのであれば、可決はムリでしょう」

国からお金が出るといっても、あくまでも「補助」。今回の経産省の補助事業は1005億円の予算を確保しながらも、補助金を活用しようという事業者、マンションなどが現れないかもしれないため、絵に描いたモチになる可能性が非常に高いのだ。

また、全国にすでに設置されている充電器には、官公庁で多く見られる「無料」で開放されているものと、駐車料金や会員料金を支払う「有料」のものが混在している。EVユーザーとすれば、少しでも金のかからない充電器を優先的に利用するのが普通だろう。しかし、こうした“ダブルスタンダード”の状況こそが、民間の参入、ひいては補助金の活用を妨げる原因になりかねない。独自の充電スタンドネットワークを構築するベンチャー企業、ジャパンチャージネットワークがこう話す。

「弊社は有料の会員制度をもとに、充電スポットを運用しています。もし『補助金が出るから』という理由でEV充電器を設置し、それを無料や低価格で開放する事業者が現れれば、弊社の事業そのものが成り立たなくなってしまうのです。経産省が補助金の交付を審査するにあたっては、そうした部分にも配慮してほしいですね」

EVの充電には、急速充電でも約30分が必要となる。もしガソリンスタンドの給油機の代わりに充電器が並ぶとしたら、電気代に加え、ガソリン販売と同じ利益を上げないとペイしない。実際、出光の充電スタンドは、月額会員ではない急速充電の1回のみの利用価格を1050円としている。このあたりが、現実的にかかる最低限の金額だろう。

つまり民間の事業者側からすれば、EV充電器で商売の成り立つ形がハッキリ見えてこない限り、導入には積極的に踏み込めないのだ。経産省が充電器の拡充を推進するなら、こうした課題にも目を向けるべきだろう。

(取材・文/植村祐介

補助金で充電インフラを拡充して、EVをより普及させようと経産省は意気込んでいるが……果たして思惑どおりにいくのか?