韓国最高裁での判決から約8カ月――文在寅(ムン・ジェイン)政権が徴用工訴訟をめぐる「解決策」をようやく日本側に提案した。だがこれは、すでに韓国の日本専門家の間で数度にわたって議論されていた「日韓企業が基金を設立し、被害者に補償金を支給する」という案だ。周知の通り、日本政府は直ちに拒否の意思を明らかにしたが、韓国内でも世論と市民団体からの強い批判に晒されている。

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日本が拒否することを知りながらの「提案」

 保守派日刊紙「東亜日報」は、韓国政府が19日に公開した提案は、例の最高裁判所の判決直後、専門家たちから提案されたものであり、そもそも大統領府が今年1月に「発想自体が非常識だ」と拒絶した案だ、と皮肉った。それに、今回の案を提案するにあたって、被害者側との接触や意見交換がなかったことに触れ、「慰安婦被害者の意見収集なしに推進したという理由で、現政府が解散を決めた『和解・癒やし財団』と違いがないのではないかという批判も提起されている」と酷評している。

 同じく保守系日刊紙「文化日報」は、複数の外交消息筋の話を引用して、16~17日に日本を訪問した趙世暎(チョ・セヨン)外交部第1次官がこの案を内々に打診した際、日本側はその場で拒否していたと伝えている。

「韓国政府は、日本が拒否することを知っていながら、『見せかけ』の次元で急いで提案を発表したとの批判もある」、「相手国の反対に対して、改善案の打診や追加協議などを経ることもなく、一方的に発表したのは外交慣例上、極めて異例との指摘もある」と、遠回しに批判。

 さらには、大阪G20会議と米韓首脳会談を控えた「国内世論戦」向けの方策であり、「被害者側と協議もなしに発表したことは、文在寅政府が話してきた被害者中心主義とも全く異なる結論」と皮肉った。

政権よりの新聞でさえ政権批判に

 批判はこればかりではない。経済誌「毎日経済新聞」は、文在寅政府の解決策は「政府は後方へ身を引いたまま、両国の企業にだけ責任を転嫁する案」とし、外交的守勢に追い込まれた文在寅政府が、大阪G20会議を控えて徴用工問題に対する「その場しのぎの提案」をしたと厳しく批判した。

 さらに同紙は、約23万人と予想される元徴用工の補償金は23兆ウォンにも達する天文学的な金額だが、韓国外交部は事前に韓国企業の意志確認もせず、企業にだけ責任を転嫁する案を公開したと報じている。さらにシン・ガクス元駐日大使の言葉を引用して「韓国政府も請求権協定で資金を受けた以上、当然責任がある」「政府が司法府尊重と三権分立をあまりにも形式的、固定的に解釈している」と政府の対応に疑問を投げかけた。

 驚くのは、政権寄りで知られる進歩系の日刊紙「京郷新聞」にさえ、文在寅政権の提案は「万事之嘆」と批判されてしまったことだ。

 同紙は社説で、「昨年11月からタスクフォースを発足して徴用工訴訟をめぐる対策を講じてきた韓国政府が、とっくに検討されてきた案を出すまで8カ月近くもかかったことは理解しがたい」と述べ、さらに「徴用工訴訟問題は韓日関係を揺るがしている核心原因であるにもかかわらず、これまで文在寅政権の態度は非常に生ぬるいものだった」、「日韓間の局長級会談を何度か開く振りをするだけで答えを先送りにし、日本が仲裁委員会付託を要求する事態を招いたことは遺憾だ」と口を極めて批判。

 かろうじて、「強制動員被害者の追加訴訟が相次いでいる状況で、被害者たちの反発の可能性を甘受しながら出した提案であるだけに、日本側には大乗的見地から検討することを求める」と、日本に対する注文を付け加えるのが精いっぱいという有様だ。

 関連市民団体「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」も19日、声明を出したが、ここでも文在寅政権の提案に強く反対する意見が表明された。彼らはその声明の中で、「政府は各界の意見や世論を聴取したと言っているが、被害者たちの意見は全く反映しなかった」、「2015年慰安婦合意の誤りを再び繰り返している政府に大きな失望を禁じえない」、「(韓国)政府案は確定判決を受けた被害者の慰謝料支給案だけを提示するのに止まった」、「今でも強制動員被害者の声に耳を傾け、被害者中心主義に根拠しなければならない」などと、激しく非難している。

急激に強まる文政権への風当たり

 さらに続けよう。

 通信社「連合ニュース」は、被害補償のための資金拠出の対象になり得る韓国企業も同様に韓国政府案に困惑していると報じた。連合ニュースによると、韓国政府の提案に含まれると思われる韓国企業とは、1965年の請求権協定の締結で受けた経済協力資金が使われた大企業と公企業だ。具体的には、POSCO(ポスコ)、韓国道路公社、韓国鉄道公社、外換銀行、韓国電力公社、KT、KT&G、韓国水資源公社、韓国科学技術院、気象庁などが取り上げられているという。

 しかし、いずれも「初耳」と当惑しているという。何より景気低迷の中で実績悪化が目立っている韓国企業にとって数十兆ウォン台の負担金は決して素直に払える金額ではない。そのうえ、公企業の場合、国民の税金で運営される企業であるため、韓国国民の反発も招きかねない。

 結局、文在寅政権は、今回の「悪手」によって韓国内で激しい非難に直面するとともに、目論んでいたG20での日韓首脳会談実現の見込みはさらに薄くなった。それだけではない。G20を契機に、韓国で南北会談-中韓会談-米韓会談という連続首脳会談を開催し、国際舞台で存在感を誇示しようとした計画が、習近平主席の突然の訪朝によって水の泡となってしまった。今回の訪朝を機に、北朝鮮核問題の仲裁者を自任していた文在寅大統領の役割が、これからは習近平主席にとってかわられる可能性が濃厚だ。

 少なくともこれまでは、文在寅政権の対日関係における強硬な姿勢に、メディアや世論も一定の理解を示していた。だが、日本との関係を修復困難なほどに悪化させてしまった文政権に対する風向きは、ここにきて急激に変化してきている。

 身から出た錆ではあるが、文政権はまさに「二進も三進も行かぬ状況」に自らを追い込んでしまったようだ。

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