2016年、ヒラリー徹底批判を再現
ドナルド・トランプ米大統領が6月18日、正式に大統領選に立候補した。経済は良好、失業率最低、経済成長率3%の成果を誇り、満を持して再選を目指す。
果たしてトランプ氏は再選されるのだろうか。
第2次大戦以降で、現職大統領9人のうち負けたのは2人だけ。確率から言うとトランプ再選は十分ありうる。
それに現職であることで2020年大統領選投票日まで内政外交では何でもできる。人気取りの「トランプ」カードを何枚でも切れる。
議会が反対しようが、大統領として「Excutive order(行政命令)」を出せる。
それに、2016年の勝利をもたらした白人草の根ポピュリズムは依然健在だ。
立候補宣言をしたフロリダ州オーランドの会場には約2万人の支持者が集まった。
1時間20分に及んだ演説で、トランプ氏は2016年の立候補演説と同じようにヒラリー・クリントン候補を名指しで数回批判した。
「ヒラリー攻撃をするのは彼女に代表される民主党の支持基盤である東部・西部エリートを標的にしているからだ」
「民主党支持既存勢力の脇腹を狙っている。2016年大統領選で成功した戦術をまた使っている」(米主要シンクタンク研究員)
それに反して、今回立候補しているジョー・バイデン前副大統領には2回、バーニー・サンダース上院議員についてはたった1回しか触れなかった。
トランプ氏のヒラリー批判に応じて、集まった支持者たちは「Lock her up」(ヒラリーを刑務所にぶち込め)」「Build the wall」(国境に壁を作れ)、「CNN sucks」(くたばれ、CNN)と、2016年の時と同じシュプレヒコールを繰り返した。
トランプ氏の支持率は史上大統領の中でも最低の部類に入る。ところが40%以下に落ちることはなく、とどまっている。
それがトランプ氏の強みだ。再選戦術はこの40%を堅持することにある。新しい支持層をこれから獲得することなどさらさら考えていない。
「ヒラリー批判」に熱が入るのもそのためだ。民主党層や民主党寄りの無党派層など眼中にないのだ。
民主党候補公開討論会でも外交は出ず
一方の民主党は6月26、27の両日、マイアミ州マイアミでテレビ公開討論会を開く。上位につけている候補者のほか支持率1%より上の候補者も参加する。合計20人が2組に分かれて自らの主張を述べる。
候補者たちは中道もいれば左派もいる。知名度もまちまちで玉石混交。
トップランナーのバイデン氏と民主社会主義者のサンダース上院議員、左派のエリザベス・ウォーレン上院議員、ベト・オルーク下院議員やカマラ・ハリス上院議員らが上位グループを占めている。
その他メディアが殺到しているピート・ブーティジャッジ氏(インディアナ州サウスベンド市長)やコリー・ブッカー上院議員らが続いている。
大統領選には初のアジア系として立候補している台湾系のアンドルー・ヤング氏もいる。米国民に毎月1000ドル支給する政策などを訴えて注目されている起業家だ。
それによると、トランプ氏を打ち負かせる理想の民主党候補は「中道派で41歳から65歳までの中高年の白人男性」と出ている。
この理想に一番近いのはバイデン氏ということになる。
となれば、民主党大統領候補による公開討論会も、予備選や党集会もバイデン候補を前提とした長く、カネをかける「儀式」になりかねない。
26日、27日2日間の公開討論会は、大阪で主要20か国・地域首脳会議(G20)が開催される前々日、前日だ。大阪では米中脳会談、米ロ首脳会談などが開かれる。
米中貿易戦争は激化の一途を辿っている。ホルムズ海峡でのタンカー襲撃事件はいやが上にも中東情勢を緊迫化させている。
中国の習近平国家主席は北朝鮮を訪問した直後に大阪入りする。暗礁に乗り上げている北朝鮮の非核化も米中首脳にとっては避けて通れない。
そうした状況下で、民主党大統領候補による公開討論会では、外交問題が取り上げられてもおかしくない。ところがそうはなりそうにない。
民主党全国委員会の幹部の一人は筆者の電話インタビューにこう答えている。
「おそらく外交は議題にはならないのではないのか。対中政策でトランプ氏を批判しているのはバイデン氏だけ。他の候補は何も言っていない」
「イラン問題もタンカー襲撃事件で新たな局面を迎えている。もし襲撃されたのが米国のタンカーで米国人乗組員に死者でも出れば大騒ぎになるところだが・・・」
「外交がテーマになり出すのは、民主党の大統領候補者が2~3人に絞られてきてからだ」
(民主党候補による公開討論会はこの後、7月と9月の2回行なわれる)
「トランプはオバマ外交全面否定、撤回しか考えていない」
先回りして、秋口にトランプ大統領の外交政策が選挙戦で俎上の乗ってくるとすれば、どのような展開になるのだろう。
長年共和党の歴代政権で外交政策の立案に携わてきた国務省の元高官は、トランプ外交を「超党派的・客観的に見て」、こう分析している。
「手当たり次第に手をつけては失敗している最大の要因は、バラク・オバマ前大統領が推進しようとした外交すべてを否定しようとするところからきている」
「If you dislike some, you will end up hating everything he stands for.(坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い)。トランプ氏の中国政策もイラン政策も北朝鮮非核化政策もすべてその発想からきている。外交音痴のうえに発想がよこしまなのだ」
「その結果、どうなったか。言うことを聞かなきゃ、核使用も辞さない、と恐喝するが、相手は核など使うわけがないと高を括っている」
「いくら経済制裁をやってもイランも北朝鮮も非核化など毛頭考えていない。それに協力が必要な同盟国は一部を除いてそっぽを向いている」
「韓国のように邪魔する同盟国まで出ている」
「まともな外交センスを持つジェームズ・マティス(前国防長官)やジョン・ケリー(前大統領首席補佐官)らを追い出し、残った連中は冷戦思想に凝り固まった3流外交専門家ばかり」
「トランプ氏は彼らの助言すら聞かないのだから始末に悪い」
「トランプ氏に幸いしているのは、外交には全く無頓着な支持基盤の草の根保守層や既得権堅持を優先する一部共和党支持者たちが、民主党嫌いのボルテージを上げていることだ」
「彼らは、 Anybody but Democrats(民主党だけは嫌だ)だからだ」
同じようなことを「ニューヨーク・タイムズ」の保守派コラムニスト、トーマス・フリードマン氏も同紙8日付の紙面に書いている。
見出しは「Trump's Only Consistent Foreign Policy Goal Is to One-Up Obama」(トランプの一貫した外交政策の目標はオバマを出し抜くこと)だ。
(https://www.nytimes.com/2019/06/18/opinion/trump-iran-north-korea.html)
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