安倍晋三総理がイランを訪問している時に、ホルムズ海峡でタンカーへの攻撃が起こった。
攻撃を巡っては、米政府は「イランに責任がある」と主張した。米中央軍は、吸着型の爆発物が使われたと断定し、当日の午後4時頃革命防衛隊が小型ボートを国華産業が運行するタンカーに横づけし、不発の爆発物を回収したとする映像を公開した。
マイク・ポンペオ国務長官は「今回の襲撃は、イランが扇動した一連の攻撃の最新事例にすぎない」と批判した。
これに対し、イランは、攻撃を否定している。イラン外務省の報道官は、「このような不幸な事件の責任をイランに押しつけるのは、ポンペオ長官の自分勝手なやり方だ」と関与を否定した。
タンカーを運航する国華産業の社長は、「何者かによる攻撃を2回にわたって受けた。2回目の攻撃の際、複数の乗組員が飛来物を目撃。それによって船体に穴が開いた」との報告を受けたと述べている。
日本のタンカーと同時期に攻撃されたノルウェーのタンカーの船長は「おそらく、魚雷攻撃だ」と無線で話した。
この事件を、軍事的合理性から見ると、納得できない軍事情報が多すぎる。そこで、今回は、確認できるいくつかの軍事情報だけを使用して、何が事実で何が疑問なのか、何が誤りなのかを客観的に分析し検証したい。
特に、注目しているのは、以下の3点である。
①日本のタンカーだと分かっていて攻撃したのか
②爆破物によってタンカーに開けられた2つの穴
③米国が公開した爆発物回収とされる船艇の特色
1.日本のタンカーと分かって攻撃したのか
被害を受けたタンカーは、日本の国華産業所有の船であるが、パナマ船籍である。名称は、コクカ・カレイジャス(Kokuka Courageous)という名だが、パナマの国旗を掲げていたはずだ。
そのために、この船が日本の企業の所有だとは分からなかったと考えるかもしれない。だが、船名を望遠鏡で見て、インターネットで調べれば、どこの会社の所有物かは分かる。
軍が、衛星通信を傍受し、どこの会社と交信しているのかでも分かる。この船が、日本の会社の所有物と分かって攻撃したと考えるのが妥当であろう。
私は、日本が狙われたことは間違いなく、安倍総理のイラン訪問に合わせて実施されたと見ている。
2. 日本タンカーが攻撃されて空いた穴
(1)2つの穴の形状などの特色は
船体にある爆破痕は、船体の右側にある。つまり、約180キロ離れたオマーン側に面している。約20キロしか離れていないイラン側ではない。
イランの革命防衛隊が、米海軍や各国海軍艦艇が多く存在する海域にあえて出て、爆破活動を行うだろうか、大きな疑問だ。
私だったら、米国軍が監視しにくいイラン側から、薄暮から夜間にかけて爆破活動を行う。
米国防省公表の左側の穴は、縦長で、その周りに小さな穴がいくつか空いている。その高さは、水面から約50センチだ。
その周り、特に上部には、爆破が起こった時の熱で船体のペンキが焼けたような、黒と灰色のまだらに変色している。
右側の穴は、三角の形をしている。何かを取りつけたのではなく、穴が空いている。その高さは、水面から約1~1.5メートルだ。
その周り、特に左の方に船体の色が濃い灰色から薄い灰色に変色している。爆破の熱で変色したものと思われる。
AFPの写真には、Likely Mine(機雷のようだ)とコメントが書かれている。だが、映像を見る限り、機雷が取りつけられているようには見えない。
爆発物が磁石などで取りつけられているようにも見えない。火砲、戦車や軍艦の専門家の意見を聞いたが、爆発の跡だという。
つまり、2つの穴とも、爆発によって空いた穴だ。
(2)どのようなことを行えば、上記の爆破痕の穴ができるのか
・砲弾によるものか
両岸の陸地から、火砲によって砲弾を撃ち込み命中させられるか
オマーンからだと、約180キロ離隔している。つまり、火砲の弾丸は、船舶まで届かない。
イランからだと、約15~20キロ離隔している。火砲から射撃をすれば、船舶に命中するかもしれないが、その確率は極めて低い。
特に、海面から0.5~1.5メートルの位置に2発を命中させることは不可能である。
近くの軍艦から砲弾を発射したのであれば、船員がその船舶を発見しているはずだし、同様に海面の近くに2発を命中させることは不可能である。命中したとしても、縦長や△の穴は開かない、どちらかというと円形に近い。
よって、砲弾の射撃によるものではない。
火砲および対艦ミサイル射撃の場合の弾道
砲弾による爆破の跡
対艦ミサイルや魚雷で攻撃すればどうか
対岸の砲あるいは海上の軍艦から、対艦ミサイルをタンカーに向けて発射すれば、命中する。
命中すれば、タンカーは爆発して大破する。そして沈没するだろう。映像にあるような小さな穴ではすまない。
よって、対艦ミサイルによるものではない。
魚雷の場合、命中すれば船体が真っ二つに割れて、沈没するだろう。沈没する被害ではなかったので、魚雷ではない。
対艦ミサイルによる被害
対戦車ミサイルで攻撃すればどうか
小型の軍艦や半潜水艇が、タンカーに近づいて(おそらく数百メートル~数キロ離れたところ)から、対戦車ミサイルを発射すれば、命中させることができる。
タンカーの穴の大きさからすれば、対戦車ミサイルによる射撃の可能性はある。だが、形状を見ると、対戦車ミサイルの可能性は低い。対戦車ミサイルであれば、弾痕は、概ね円形だ。今回の縦長や△にはならない。
イラン軍は、北朝鮮から半潜水艇(完全に沈むものもある)を導入している。イラン防衛隊が、半潜水艇から対戦車ミサイルを発射した可能性が100%ないとは言い切れない。だが、弾痕からすれば、その可能性は極めて低い。
国華産業の社長が、「タンカーの乗組員が飛来物を見た」と発表した。
「ミサイルが飛来しているのが見えるのか」というと、私は見えないと認識している。
その根拠は、陸上自衛隊が毎年行う富士総合火力演習で、対戦車ミサイルの射撃を実施するが、そのミサイルを目で追いかけることは難しい。
それも、撃たれる方から見れば、見える面積が少ないこともあり、見えないだろう。
陸上自衛隊富士学校機甲科部が過去、射撃の目標となる戦車に、テレビカメラを取りつけて、向かって飛翔してくる対戦車ミサイル(秒速100~150メートル)が見えるかどうか検証したところ、そのカメラではミサイルの映像が見えなかったと聞いている。
対艦ミサイルや砲弾であれば、その速度はさらに速いので絶対に見えない。秒速60~70メートル以下で飛翔するミサイルであれば、何とか見える。
対戦車ミサイルで攻撃する場合(左)と対戦車ミサイルによる爆発の跡
爆発物(リムペットマイン)を取りつけして爆破すれば
爆発物を磁石で船体に張りつけて爆発させた場合、爆発物の形状によって、爆破によって空いた穴の形状も異なる。爆発物を縦長に取りつければ、縦長の穴ができることは十分にありうる。△の場合は、まれだろうがある。
乗組員が2回の爆発を確認していることから、2つとも爆発によるものであろう。
爆発痕の水面からの高さは、0.5~1.5メートルであるが、小型船舶によって近づいて、取りつけると、ちょうどその高さになる。
よって、爆発物の取りつけによって爆発が起き、船体の一部が破壊された可能性が高い。
爆発物を船舶の側壁に爆薬を仕かけた場合
3.イラン革命防衛隊の小型艇だとする映像の検証
米国防省が公表している写真はどの方向から撮影されたものか
斜め横上空の角度で撮影されているので、無人機が撮影した映像であろう。撮影されている船の形から判断すると、船の右舷から、つまりオマーン方向から撮影されたものであり、イラン側ではない。
タンカーに接近してきた小型艇は、タンカーの右舷、つまり、オマーン側から接近したことになる。
もしイランが爆破したのであれば、イラン側から実施する可能性が高いと思うのだが、決めつけることはできない。
小型艇の攻撃方向と経路の妥当性
小型艇の素材は、軍用仕様か
米国防省が当初公開した映像は、白黒の映像であったが、6月18日に新たにカラーの写真が公開された。
カラーの映像を見ると、船体は白色のFRP素材だろう。特殊作戦を行うのであれば、発見されないように、海と同じ色、灰色、あるいは軍用のカーキ色で塗装された船体を使用するのが軍事作戦の常識だ。
米国防省が公表したものは、明らかに目立つ色で、どうぞ発見してくださいと言わんばかりのものだ。
イラン革命防衛隊が、国家間で重大な問題が生起するかもしれない作戦に、明らかに目立つ船を使用するだろうか。
小型艇と乗員で分かるもの
イラン革命防衛隊が乗船しているとされる船と人物の高さを見ると、爆発によって空いた穴の高さとほぼ一致している。
この船が、爆発物の取りつけあるいは回収にかかわっていたと言える。
爆発物を取りつけあるいは回収するだけなのに、小型艇に10人も乗船している。あの小型艇にしては乗りすぎで、目立ち過ぎる。
本来であれば、目立たないように船の操縦1人、監視1人、実施者1人、合計3人以下で実行するのが妥当であろう。
白の船体に、カーキ色の対空機関銃、オレンジ色の救命胴衣、黒の戦闘服は、あまりにも鮮やかでアンバランスで目立ち過ぎる。
わざと目立つように、発見してほしいように、カラフルな色を用いているようにも見受けられる。
米国防省がイラン革命防衛隊と評価している船は、極めて特殊な船だ
船舶の後方を見ると、エンジンとスクリューが2つ付いている。前方を見ると、舳先が尖っている。船舶は、木造ではなくFRP樹脂なので頑丈だ。つまり、この船舶は、かなりのスピードが出る構造になっている高速艇だ。
前方部分には、防空用の2連装の機関砲が見える。ロシア製の対空機関砲「ZSU-23-2」だ。小型の戦闘艇であることは明白だ。
白色の船体に対空機関銃とは、極めてアンバランスだ。軍が、あえて、目立つような幼稚なことをするかどうかという大きな疑問だ。
このような船は、誰が所有しているのか。
イラン革命防衛隊、サウジアラビア海軍(米国供与)あるいは米国・イラン・日本の関係を悪化させたいある国の工作機関の可能性がある。
イラン革命防衛隊は、北朝鮮の工作船を導入しているし、北朝鮮の工作活動のノウハウを受け入れることは十分ありうる。
サウジアラビア海軍は、米国の特殊任務艇を導入していることから海上にある特殊作戦能力を保持しているので、否定できない。その他のある国の可能性もある。どの国なのか決め手はない。
当初、米国が公表した船舶の写真が白黒なのが大きな疑問だ
撮影時刻はまだ明るい時刻の16時頃だと発表されている。当初公開された映像が、カラーではなく、白黒なことに疑問が残る。
実際には、カラーで解像度ももっと鮮明であるはずだ。おそらく、無人機の解像度を明らかにすることができないので、ややぼかして、白黒にしたのではないだろうか。
あるいは、何者が行っているのかがはっきり分からないようにしているのだろうか。そのところは不明であり、大きな疑問が残る。
米国防省が提供した写真は、「爆発物が不発だったので、回収にしているものだ」としている。
私は、この映像を見ても、何を行っているのか分からない。この写真には、船舶に三角の穴らしきものが全く見えない。三角の穴との関係が不明である。
ひょっとしたら、この映像には、三角の穴が見えないことから、回収ではなく、取りつけしているものではないだろうか。
三角の穴に見える部分が人物によって遮られている可能性があるので、明確には決めつけられない。
もし、取りつけしているものであれば、米国防省は、小型の船がタンカーに爆発物を取りつけする以前から、この行動を読んでいたことになる。
4.日本のタンカー攻撃に関する情報には、軍事的合理性がなく、疑問が多すぎる
これまでの情報から判断すると、爆薬を磁石で船体に貼り付けて爆破した可能性が高いと言える。
誰が行ったのかについては、「イランの革命防衛隊なのか」「そうでない」のかは、現在の情報だけでは判定できない。
米国防省が、タンカーに近づいた小型艇をイランの革命防衛隊だと決定づけたのであれば、鮮明な証拠写真を提供すべきだ。
無人機を使って撮影したものと考えられることから、鮮明な写真を提供すべきだろう。
無人機であれば、不審な小型艇がタンカーに接近できていたわけだから、偵察関係者は、この事態に注目しているはずだし、当然、無人機を接近させて撮影していたはずだ。
米国防省が鮮明な映像を公開してくれれば、多くの真実が判明するだろう。
[もっと知りたい!続けてお読みください →] 半島急変:中露の衛星使い北朝鮮が誘導ミサイル発射
[関連記事]
コメント