伊方発電所正面ゲート前に立つ蓮池透氏2019/6/10牧田撮影
伊方の有刺鉄線、この程度なんですか!?とのこと

伊方発電所正門前へ
 前回「蓮池透氏と見る四国・伊方発電所。蓮池氏も驚愕したその立地とは?」に引き続き、去る6月11日八幡浜市で開催された蓮池透氏講演会についてお届けします。連載途中である韓国講演シリーズは後日再開します。

 前回伊方発電所の裏側から伊方発電所3号炉に近づき、四国電力による谷の埋め立てという荒技をご紹介しました。私にとっては、自然の中で原子炉をのんびり観賞できる絶好のビューポイントだったので、とても悲しんでいます。

 さて私たち一行は、「へこみデミオ」に乗り、埋め立て中の柿が谷橋を渡り、閉鎖中の第二ゲートを通過し、伊方発電所正門前に向かいました。

 蓮池さんは、東電時代に伊方発電所に来たことがあるとのことで、「私は中には入ったことがあるけれども外から見るのは初めてです」とのことでした。県道255号線は、伊方発電所の敷地に沿っているのですが、当然、発電所全体はフェンスと有刺鉄線に囲まれています。

 蓮池さんによると、ずいぶん低いフェンスだし有刺鉄線もたいしたことないですねとのことでした。とくに、原子炉および周辺施設が常時車窓から見えるのにはもと原子力屋にとって新鮮な驚きとのことでした。

 そうこうしているうちに伊方発電所正門前に着きました。早速正門ゲート前に向かうと、「あ、やっぱり伊方発電所」と書いてありますねとのことでした。BWR(沸騰水型原子炉)系発電所とPWR(加圧水型原子炉)系発電所では、それぞれに方言があり、用語がいろいろと異なるのですが、BWR系では「◎◎原子力発電所」PWR系では「△△発電所」と表記する違いがあります。厳密には例外があり、PWR系の九州電力では「玄海原子力発電所」「川内原子力発電所」と表記し、日本原電では逆にBWRでも「東海第二発電所」と表記しています。

 蓮池さんが以前伊方発電所に来たときは、車で中に入っていったので、外からの風景は全く記憶にないそうです。

 正門脇の道路から発電所が一望できる場所に移りますと、蓮池さんはとても驚かれました。

原子力発電所最大の弱点が丸見え

伊方発電所正門脇から伊方発電所を一望する一行2019/6/10牧田撮影
左から1号炉、2号炉、3号炉、右山上の建物は地下式開閉所の地上部

「え~~~~~!全部丸見えじゃないですか」
「こんなに開かれた、何もかも見通せる原子力発電所なんて他にないですよ」
柏崎刈羽(原子力発電所)なんて、まるで要塞ですよ。外からは何も見えないし、2m以上あるフェンスに囲まれて、鉄条網も凄いのが何重にもまいてある。中に入っても距離があるんですよ。それどころか、ゲストと社員向けに9ホールゴルフコースまで昔はあったんですよ。伊方はとても狭いし何もかも丸見えですね」

 蓮池さんは、原子炉本体だけでなく、開閉所が見えることにとても驚かれていました。開閉所は、発電所の最重要施設で、送電網に何かが起きたとき、逆に発電所に何か起きたときに発電所を送電網から切り離すとても大切な施設です。そして、構造上、非常に脆弱です。伊方発電所の場合は、敷地が狭隘(きょうあい)なために開閉所本体は地下にありますが、引き込みは山の頂上に偉容を見せています。この開閉所は、世界共通で原子力発電所最大の弱点と言えて、事故やテロ対策の重要対象です。それが地上部だけとはいえ、山の頂上で全方位から丸見えというのには、私も当初とても驚きました。

 国内にある他の原子力発電所は、海以外からは原子炉他施設全体が外部から見えません。東京電力柏崎刈羽原子力発電所などに至っては、ゲストハウス(広報館)の展望台からですら見えるのは排気筒の頂部だけだそうです。

◆労働安全衛生上好ましくない寮の立地

四国電力九町越(くちょうごし)寮と正面ゲート2019/01/11牧田撮影
正面ゲートとの位置関係が分かる。蓮池氏の指摘通り、職住接近甚だしく労働安全衛生上は好ましくないと言える。一方で、大きな事故やインシデントが起きた場合には即応できる人員が最低限確保できる

 そして、社員寮が発電所正門の向かい側にあるのにもとても驚かれていました。これも伊方発電所の特徴で、職員はいざとなれば寮から徒歩や自転車で職場に行けます。私は、これについて原子力防災上たいへんに好ましいと絶賛してきたのですが、蓮池さんは異なる意見でした。

「これ、社員がかわいそうですよ。これだけ近いと仕事の持ち帰りが必ず起こる。労働安全衛生上、全く好ましくないですよ。寮は職場から離さないと」とのこと。
 私は、これには気がついていませんでした。労働組合のもと役員としては余りにも不明でした。考えてみれば、私の父は工場の正門前という社宅の立地で、いつも仕事を持ち帰っていましたし、何かあると深夜でも守衛室から電話がかかっていました。これに気がつかなかったのは余りにも不明でした。反省すること大なりです。

原子力の生き字引だった蓮池さん
 ここでも蓮池さんは「ここ、特重施設(特定重大事故等対処施設)*を作る場所ないでしょう」と驚いていました。
 四国電力は、倉庫番ゲームのような技を駆使して、なんとしてでも特重施設を建設するでしょうが、あと2年2ヶ月未満の期限内での完成は無理で、最短でも1年の操業停止が見込まれています。特重施設完成までの猶予期間の5年間で運転差し止めによる11ヶ月(正味10ヶ月程度)の計画外停止をしていますので、原子力発電にとって死活問題である設備利用率は大きく下がる一方です。

 伊方発電所は敷地が狭くて地形が険しいという二大悪条件を抱えているのです。1号炉立地時点で今日のようなことは予想していなかったのでしょうが、運転期間、投資回収期間が40年以上に及ぶ商用原子炉では、予測が不可能な将来的社会変動や災害、市場の変化による影響が避けられないという典型事例です。経営学上、とても面白い課題と思います。

 さらに、ここで蓮池さんが面白いことを言いました。

東京電力でもむかしドイツのPWR導入を検討していて、僕はその仕事をしたことがあるんですよ」

 これは面白い!東京電力ドイツJK-PWR(Japanese KWU Pressurized Water Reactor)の導入を真剣に検討していたことは、岩見浩造氏が、自身のブログ“岩見浩造◆の福島原発事故研究ブログ』 【お理工軍クラは】ドイツの3分の2の壁厚しかない日本のPWR原発に「戦闘機が当たっても大丈夫」と断言する人達【黙ってろ】 2017年8月27日”で2年近く前に公表*されていますが、当事者がこんなに近くにいるとは思ってもいませんでした。聞けば、ABWRの設計もその後されていたとのこと、さらに日本原燃に出向されていたとのこと。これは凄い! 原子力の生き字引ではないですか!

*特重施設等の設置に向けた更なる安全向上の取組状況について 2019年4月17日 主要原子力施設設置者 (北海道電力等9社、日本原電及び電源開発)
工事遅延により伊方発電所や川内発電所では1年程度、高浜発電所では2.5年の操業停止が見込まれる。バックフィットの増加によっては更に操業停止期間が延びる恐れすらある

◆所内の動線が丸見え! 対テロどころじゃない!
 さて、正面ゲートをあとにして、県道255号線を更に西進してモニタリングポストの場所まで行きました。ここからは正面から伊方発電所が一望できます。

 蓮池さんはここでもびっくりです。

「え~~~、所内の動線が全部丸見えじゃないですか。チェックポイントまですぐそこに見える。これじゃ対テロどころじゃないですよ」

 そうなんです。写真では撮影位置と深緑でよく見えませんが、場所を少し変えて秋冬に撮影すると何もかも丸見えになります。サンダーバードの悪役フッドが、双眼鏡で覗いていそうです。

 同行した方から、ここで面白い話がありました。伊方発電所の敷地内に、立ち退かなかった方の農地があり、農地への通路があるそうです。四国電力は、その通路を封鎖したがり、操業開始以来、ずっともめていたそうです。そういえば、発電所の周りをウロウロ探検していると、存在理由のよく分からない小道がありました。私は高いところがとてもとても苦手なため、いままでその道を探検していませんでしたが、次の機会に調査しようと思います。確か公図の写しを持っている人が居ます。

 ここで、同行の方がさらに面白いこと言いました。

「昔は正面ゲートなんかなくてね、下のチェックポイントまで降りてみんなでお話(抗議)に行っていたのよ」

 なんとおおらかな! 素晴らしい

やる気を一切感じない風力発電の風車
 蓮池さんは、「ここにも風車がありますね、あれ、四電さんの子会社でしょ?それにしても古くて小さい風車ですね。三菱のですね」と言いました。

 さすが全部あたりです。今回は一基以外全部回っていましたが、平素は大概全機止まっています。ほとんどやる気が感じられません。本来ならば、舶来品で最新鋭の大型風発を設置すべきですし、風況は悪くありませんから、常時回っていないとおかしいです。どこの原子力発電所にも風発が近くにありますが、大概の場合、全くやる気が感じられません。そうこうしているうちに日本の全重電メーカーは、風発製造で競争力を失い、昨年全社製造から撤退してしまいました。かつては風発技術世界一を自称していた日本の現状は危機的です。

正面ゲート脇から撮影した伊方発電所2015/08/11牧田撮影
現在の写真と比較すると、変化の大きさが分かる。現在の左手前駐車場は残土で埋め立て中。下のチェックポイントまで昔は入れたとのこと。開閉所の山に植生が多く残っていた

 実は、佐多岬半島は風力の好適地で、伊方町営で稜線すべてに最新鋭の舶来品大型風発を建設すれば、伊方発電所は要らなくなります。勿論、天然ガス火力による補償は必須ですが、持続的に雇用が創出され、しかも安くて安全です。ここでも21世紀の電力イノベーションが不発です。

 この風発、実は観光資源にしようとしたのか、大型バスが離合できる立派な道路が全機につながっていて、大型車の転回場まであります。当然、伊方発電所は上から丸見えで、1号炉に至っては、茶筒(鋼製セミダブル型格納容器)の内側まで見えちゃっていました。結果、テロ対策のためか道路は封鎖されています。しかし、同地点周辺まで農業用の作業用道路から到達できますので、今でも素晴らしい景色を見ることができます。原子炉ファンには感涙級の絶賛お勧めビューポイントです。但し道中、蛇や虫がいっぱいいます。私はスズメバチが怖いので冬にしか行けません。ぜひとも封鎖中の立派な道路を開放して欲しいです。

◆緊急時の動線確保に四国電力がとった思い切ったこととは?
 ここで、更に少しだけ西進して、岬の端から発電所を見ます。ここにはとっておきの景色があるのです。

伊方発電所地下式開閉所ほか一般建屋2019/6/10牧田撮影

 まず、常に擁壁工事中の斜面付近を見ます。ここは山林火災により原子炉および周辺施設が延焼しないように植生を皆伐し、擁壁工事をしています。擁壁は、福島核災害前はただのモルタル吹きでしたが、核災害後は原子力規制委員会(NRA)の要求で、非常に強固な擁壁に変わりつつあります。ここには以前、人間が入れる程度のトンネルがあったのですが、おそらく観測用トンネルで、アンカー打ち込み地下水を抜いたあとは最下段から埋め込まれているようです。

 実は上左の写真、重機が並んでいる直下の道路が3号炉への唯二本の動線(もう一本は、岸壁沿いのトラック離合不能通路)の為、この崖が崩れると三号炉は事実上孤立しました。更に動線が十分に太くないために緊急時の動線確保に重大な課題を抱えていたのです。

 NRAがこの重大な課題を見逃すはずはありません。そこで四国電力は思い切ったことをしました。

 下の写真では、何やら崖から大型バスがゾロゾロ出てきています。そうです、四国電力は所内に大型のトンネルを作ったのです。写真では鉄塔の後ろにあるために見にくいのですが、大型バスが余裕で離合でき、クレーンなどの背の高い重機がはいることのできる立派なトンネルがあります。

 このトンネルまっすぐならば前回ご紹介した柿が谷橋の更に山側に出てきますが、そこは埋められています。

 図面と報道写真を調べたところ、このトンネルは、山の中で「逆L字型」に屈曲し、3号炉の真後ろに出てくることが分かりました。Googleの航空写真ではこのトンネルはまだありませんが、3号炉背後の崖が「逆L字型」になっている場所にこのトンネルは出てきています。

◆「経営資源の投入先を間違っている……」
 このトンネルを見るのは皆さん初めてで、絶句されていました。たったの900MWeで寿命が15年ないし35年の原子炉一基を守るために四国電力がすさまじい努力と投資をしている象徴とも言えます。私と蓮池さんは、「これは天然ガス火力と風発を整備した方がずっとましだよね。経営資源の投入先を間違っているよなぁ」と言う点で同感でした。

 ちょうど終業時間となったため、トンネルからはバスがゾロゾロと現れ、ラウンドアバウト(環状交差点)を色とりどりの車がくるくる回りますので、見ていてとても楽しいです。双眼鏡を持ってこなかったのが悔やまれます。

 実は伊方発電所内には見えるだけで二カ所のラウンドアバウトがあるのですが、これらは愛媛県内1号2号ラウンドアバウトで県内にはしばらく3号以降はなかったとのことでした。昨年でしょうか、エミフルMASAKIというショッピングセンターにラウンドアバウトができましたので、ようやく伊方発電所関係者以外でもラウンドアバウトを楽しめるようになりました。

 当然ですが、就業時間に関しては、電力会社はホワイト企業で、終業時間になるとバスや自家用車、トラックが一斉に家路へと急ぐ風景が見られます。朝夕は見ていてとても楽しいです。

 楽しい伊方発電所見学も一通り終えました。蓮池さんは「中からは全く分からないことばかりですよ。凄い。」と大喜びです。ここからは、三崎港まで避難経路を見学しました。

 次回は伊方発電所より西側の集落を三崎港まで巡り、緊急避難経路の実態を見ましたのでそれについてお届けします。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編:蓮池透氏四国リレー講演会2

<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado >
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

伊方発電所正面ゲート前に立つ蓮池透氏2019/6/10牧田撮影 伊方の有刺鉄線、この程度なんですか!?とのこと