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利益を独占、とか考えてないよね…?

発表するやいなや米下院に「やめろ」とまで言われてしまったFacebook仮想通貨Libra」。海外メディアでは非常に大きく取り上げられています。

GizmodoのPatrick Howell O'NeillもLibraについて書いており、公表されていない点が多く、謎が残る点違和感を覚えているように見えます。抄訳して紹介しましょう。

FacebookのCEO マーク・ザッカーバーグがマネービジネスに参入してきました。

Facebook仮想通貨Libra」の基本はシンプルです。現金を入金すればLibraという仮想通貨を受け取れ、安い手数料で送金したり使ったりできます。現金化もいつでも可。

Facebookは、Libraに対して開発者たちが働きかけるのも、今金融サービスを使えていない人たちが使うのも気軽にできるようにしたい、と言っています。27の企業がパートナーになっており、子会社のCalibra2020年Libraウォレットアプリローンチするとともに、MessengerやWhatsAppでもLibraを使えるようにする予定です。

でも、Libraが実際にうまく機能するのかは来年にローンチされるまでわかりません。疑問がたくさんありますね。

Q1. Libraの想定ユーザーは?

A: インドやそれに類似した状況にある国々の人たち

Libraは全世界規模のプロジェクトとして構想されていると思われます。Libraに関わっている企業が27社ありますが、UberSpotifyVisaなどの巨大多国籍企業です(※そのすべてはQ3に載せてあります)。彼らはエントリー料金として1000万ドル(1億1千万円弱)を支払ってパートナー企業になっています。

FacebookLibraの目標をふたつ提示しています。ひとつは「自分の銀行口座を持てない人の銀行になること」、もうひとつは「低手数料の送金システムの提供」です。

そこからLibraの想定ユーザーとして浮かび上がってくるのは、インドとそれに類似した状況にある国々の人たちです。Facebookは世界第2位の人口を誇るインドで人気があります。Facebookのメッセンジャーアプリ「WhatsApp」のユーザー2億人もいて、そのWhatsApp上でLibraが使えるようになるわけです。基盤以上のものをすでに築き上げているのです。

世界銀行によると、インドへの送金額は世界一。世界に出たインド人による母国への送金額は、2018年には800億ドル(約8兆6000億円)に達しています。Facebookは、手数料が安い(あるいは無料の)国際送金サービスを、国境を越えてたくさん送金する人がいる国々、とりわけ銀行を利用しておらず、送金のためにしばしば法外な料金を支払っている人が多いような国々で、提供するチャンスと見ているのです。

Facebookブログにはこのように書かれています。

「世界中の多くの人々にとって、基本的な金融サービスでさえ手の届かないものです。世界の成人の半数は有効な銀行口座を持っておらず、発展途上国ではこの割合は悪化し、女性となるとさらに悪化するのです」

発展途上国におけるスモールビジネスの約70%は、現金へのアクセスを欠いており、毎年250億ドルが移民の送金手数料を通じて失われています」

Q2. PayPalなどのほかの送金サービスとはどうちがうのか?

A: 特定の通貨に縛られておらず、それでいて安定していて交換しやすい

オンラインで今すぐに送金したい場合、いくつかの選択肢がありますが、FacebookLibraという安い手数料で利用できる送金サービスを提供することで既存の送金サービスの駆逐を目指しています。Western UnionVenmo(PayPalサービス)より良い選択肢となるつもりなのです。Facebookはその目標を「スマホでほとんど誰にでも、テキストメッセージを送れるのと同じくらい簡単に、すぐに、低コストLibraを送れるようにすること」としています。

PayPalLibraパートナーとなっており、来年Libraローンチされたらすぐに自身のアプリLibraを取り扱えるようにアップデートできます。PayPalの送金手数料は標準的なので、自身のサービスと競合することになるでしょう。

PayPalのようなサービスがドルまたはユーロで送金を行なうのとは対照的に、Libraは現実の通貨に紐付けられてこそいますが、特定の通貨ひとつにしっかりと紐付けられているわけでもありません。Libraの究極的な目標は、安定していて、どんな国でも・国境をまたいでも機能しうる通貨と交換しやすい通貨になることです。

また、Libraは運営する企業がひとつではないという点でも異なっています。Facebookが言うには、「Libraパートナーの間に広められ、結局は分散化し、誰でも手に取れるようになるだろう」とのことです。

Q3. Libraのパートナー企業にはどんなメリットがあるの?

A: (おそらくは莫大な)利子を分配される

Libraのために数十億ドルの価値をもつ企業が(Facebook自身を含めると)28社集まります。以下に示すようにビッグネーム揃いです。

・ペイメント分野
Mastercard, PayPal, PayU (Naspers’ fintech arm), Stripe, Visa

テクノロジー/マーケット分野
Booking Holdings, eBay, Facebook/Calibra, Farfetch, Lyft, MercadoPago, Spotify AB, Uber Technologies, Inc.

・通信分野
Iliad, Vodafone Group

ブロックチェーン分野
Anchorage, Bison Trails, Coinbase, Inc., Xapo Holdings Limited

・ベンチャーキャピタル
Andreessen Horowitz, Breakthrough Initiatives, Ribbit Capital, Thrive Capital, Union Square Ventures

・非営利/多国籍団体・学術団体
Creative Destruction Lab, Kiva, Mercy Corps, Women’s World Banking

これほど多くの巨大企業がこのプロジェクトに参加している理由は何なのでしょうか?

ここでLibraを実現する仕組みを見てみましょう。

ある人が1ドル払ってLibraを手に入れ、好きなように使うとしましょう。すると、1ドルがリザーブと呼ばれる銀行口座に入ります。これが「Libraが現実の資産に紐付けられている」ということの意味であり、暗号通貨とは異なる点です。1ドルが入った銀行口座は、利子を生み出します。その利子はパートナーと投資家たち(Libra Associationという組織になっています)に支払われることになると思われます。

企業がLibraの創設メンバーになるには、「市場価値が10億ドルある」「ユーザー数が2000万人/年」といったいくつかの条件を満たす必要があります。要はグローバルに認知されている、業界のビッグネームでなければなりません。理論的には、GoogleAppleがその名を連ねる可能性もあります。

Facebook自体は、そのいちばん上に生じてくるチャンスを見すえているでしょう。とりわけ、多くのお金を稼ぎサービスを築き上げてきた広告や、Libraというプラットフォーム上で信用貸しのようなサービスを構築することを狙っていると思われます。

Q4. なぜブロックチェーンが使われるのか?

A: 不明

アジアや華僑の間では、中国の「WeChat」が一大現象となっています。マネーアプリであり、チャットアプリであり、ソーシャルアプリでもあるWeChat、これを支配するのは北京の技術権威主義者たちです。

Facebookは、WeChatの広大な影響範囲やユーザー数、機能、そして収益性をうらやんできました。そう、FacebookLibraで目指すのは、WeChatが好評を博している以外の地域で、WeChatの外の世界で、WeChatのようなスーパーアプリになることとも言えます。

Facebookの目標とWeChatの間にはいくつか根本的なちがいがあります。たとえば、Facebookは中国で展開できない、とか。しかし、そうしたちがいをいったん脇に置いて、この記事ではLibraに使われるというブロックチェーンについて触れようと思います。

みんなで運営するって…ホントにできるの?

Facebookアナウンスによると、Libraにはブロックチェーンが使われるそうです。しかし、どのような意味なのかはローンチされてみないとわかりません。

Libraブロックチェーンは、ジュネーブに設立された非営利団体Libra Associationによって運営され、この団体のどのメンバーも(Facebookも含みます)、1%を超える投票力を持つことはできません。ユーザーになれば誰でもオープンアクセスが得られ、Libra用のアプリを開発したり、Libra上でビジネスを展開できます。

Facebookは「Libraブロックチェーンは、最終的には“非許可型permissionless)”になることを目指している」としています。最終的には誰でもその維持運営、システムの制御に参加できるというのです。でも、Libraローンチ時点では“許可型(permissioned)”です(※上述したようにLibra Associationに参加できる企業には満たすべき要件がある=誰もが運営に関われるわけではない)。そして、Facebookは「非許可型になる」という目標こそ示していますが、それに至る筋道は明かしていません。

Facebookは次のような問題を挙げています。

「数十億の人々・グローバルなトランザクションを非許可型ネットワークを通してサポートするために必要な規模や安定性、セキュリティを提供しうる、実証済みのソリューション(はありません)。Libra Associationのひとつの使命は、そのコミュニティと連携してこの移行(許可型から非許可型への移行)を調査・実施することです。この移行はLibraブロックチェーンとそのエコシステムのパブリックローンチから5年以内に始まります」

暗号通貨調査組織 CoinCenterのエグゼクティブディレクターであるJerry Britoは、「実際には非許可型にならない可能性があるのでは」と指摘しています。

「もしLibraに人気が出て収益性も高いなら、インセンティブLibraが許可型のままでいることになるかもしれない。また、インセンティブは一定数のオーナーメンバーに限定されるかもしれない。Facebookがこうしたことを避けるつもりなのは明らかですが、このインセンティブの誘惑に抵抗する、どんなメカニズムがあるのでしょうか?」

Britoは次のようにもツイートしています。

Libraがリザーブをブロックチェーンで管理するという大きな技術的チャレンジを乗り越えられると仮定しても、リザーブが“特定の人物”の銀行口座を必要とすることに変わりはありません(私たちはまだ中央銀行発行デジタル通貨すらまだないのにです)。おそらくその“特定の人物”とは、Libra Associationになるでしょう。私の想像力が至らないのかもしれませんが、リザーブの管理をどように分散化するつもりなのか、私にはわかりません」

実際、Facebookは自分のしている約束について信ずるに足る理由を提示していません。米GizmodoではFacebookコンタクトを取っています。アップデートがあれば、お伝えします。

Q5. 金融規制を敷く側である国々はどうするつもりなのか?

A: 不明

これについては現状では答えられる状況にありませんが、Libraワシントンおよび世界中の国々の金融組織の調査対象となることは疑いようがありません。

ヨーロッパテクノロジーおよびプライバシー規制の分野では世界をリードしていますから、EUの諸機関が置かれているブリュッセルの動向は注目に値します。フランスドイツはすでにLibraに対して不安を表明しており、懸念しているのは主にプライバシーやマネーロンダリング、金融テロです。

しかし、今Libraに注目しだした当局サイドに、私たちは何を期待したものか。それも定かではありませんね。FacebookLibraには犯罪に強くなるような独自の対策が講じられているといいます。ユーザーアイデンティティを証明するようなルールを施行したり、送金に少額の利用料を課すことでスパムDDoSをためらわせる、とのことではありますが…。

また、LibraFacebookを終わらせるべきだと考えている人々の注目も集めるでしょうが、FacebookLibraを立ち上げ、非常に大きな責任を負った組織のひとつになるでしょう。

現状、Libraというプロジェクトも、それに対する米連邦の独占禁止調査も初期の段階にあります。そのため、次に何が起こるかはわかりません。

Q6. どの程度の匿名性が実現されるのか?

A: 不明

Facebookとプライバシーとはなんたる組み合わせでしょうか。誰もがFacebook仮想通貨でどのようにプライバシーが機能するのか疑問に思っています。

プライバシーについても目標は語られていますが、それに関する明確な事実はローンチされるまで私たちの前には示されない、という状況です。しかし、Facebookは「プライバシーがどのように機能するか」については語っており、それについては知ることができます。

Facebookの最大の収益源は広告ですが、「Libraの支払いデータをターゲティング広告には利用しない」としています。

FacebookのCEO マーク・ザッカーバーグはブログの中でこのように書いています。

「それ(Libra)は分散化されています。すなわち、ひとつの組織にではなく多くの異なる組織によって運営されます。そうしてこのシステムはよりフェアなものになります」

インターネットに接続できる人は誰でも利用でき、利用料金やコストは安くなっています。暗号によって、ユーザーのお金の安全も確保されています。これはプライバシー重視のソーシャルラットフォームという私たちのビジョンにおいて、非常に重要な部分です。そこではメッセージから安全な支払いまで、ユーザーは望むようにプライベートな仕方でやりとりできます」

暗号通貨の決定的な特徴のひとつが匿名性と偽名性(偽名に基づいたアイデンティティがあること)です。しかし、Libraは異なる道を進みます。詳細はまだ不明で、たぶん決定の最中なのだと思いますが、Facebookは以下のように述べています。

「銀行やクレジットカードで用いられているのと同じ認証プロセスと詐欺防止プロセスを用います。また、先を見越して活動をモニターし、不正な行動を検知し防ぎます」

これを見るに、Libraを使うには政府発行の身分証を見せる必要があるかもしれません。Libraは良いサービスになるかもしれませんし、そうならないかもしれません。しかし、Libraという仮想通貨を規制する側からはフレンドリーな待遇を受けるのではないでしょうか。

でもそれでいいのでしょうか? Facebookは以前より利益を生むようになっていますが、ヨーロッパアメリカでは前代未聞なほどたくさんの独占禁止法調査を受けるに至っています。Facebookはケンブリッジアナリティカ事件から2018年アカウント情報5000万件流出まで、さまざまな形でデータ流出を起こしています。

たくさんの疑問がありますが、確かなことがひとつあります。それは、米政府がFacebookの独占禁止法に関する捜査を進めており、Libraも大きなトピックになるだろう、ということです。

Facebookの言う通り、Libraが安定していて交換しやすい仮想通貨になり、それを世界規模で展開できるなら、非常に大きな影響がある気がします。ドルに代わってLibraが事実上の基軸通貨になるとか…。お金を変えるようなイノベーションなのかもしれません。

問題なのは、それが良いサービスになるのか、悪いサービスになるのか、現時点では判断がつかない、ということでしょう。Facebookが約束を破り、Libraの運営に携われるのがFacebookパートナー企業に限られるなら、世界中から得られる莫大な利益を彼らだけで分配するだけのシステムに成り果てるかもしれません。「その誘惑に耐えられるような仕組みが存在するのか?」とは記事中でJerry Britoが指摘しているところです。

ザックが頭の中で思い描いている未来を覗いてみたいとこれほど思ったことはありませんね。

Facebook、仮想通貨「Libra」を発表→米下院が即反応「やめて」

業界はFacebookの仮想通貨「Libra」をどう見ているのか

Source: Facebook (1, 2), The Economic Times, Twitter
Reference: Wikipedia, 日立製作所