日本でヒットして世界中で読まれている本はたくさんあります。谷崎潤一郎川端康成などの純文学村上春樹のような小説も人気です。しかし、これらは全て翻訳本。日本で人気が出て翻訳され、読まれるようになった本です。

 最近、米国で話題になっている本があります。「happy money」(米国サイモン&シュスター社)。6/13発表の「USA TODAY Best-Selling Books(米国ベストセラー)」で75位にランクインしています。これは、米国全土のランキングです。また、日本のアマゾンの洋書Happiness部門で1位、紀伊国屋書店の洋書部門で1位にランクインしています。

 著者は作家の本田健さん。この本は、欧州各国、アジア、中南米など世界25カ国以上での発売が既に決定しています。

本書のテーマ「お金のEQ」とは何か

 最初に、本書のテーマでもある「EQ」について説明します。EQ理論提唱者のピーター・サロベイ博士、ジョン・メイヤー博士が初めてEQを世に問うた論文「Emotional Intelligence(1990)」には次のように書かれています。

・ビジネスで成功するためには、IQだけでなくEQが必要である
・リーダーとして成功する人の多くは高いEQを備えている
・EQは学習や訓練によって伸ばすことのできる能力である

 筆者は当時、EQ JAPANのディレクターとして、営業、ソリューション、プロファイラーを統括する立場でEQ理論を普及させる活動にまい進していました。この組織は、EQ理論提唱者と共同研究をしていた世界唯一の研究機関です。

 従来、会社ではIQ(頭の良さ、偏差値)が重視されていました。ところが、IQの高さと仕事の成果には必ずしも相関関係がありませんでした。EQ(心の知能指数、情動知能)が高い人は社内でも人望があり、困ったときに周囲が手助けをしてくれたり、自らをセルフマネジメントすることにたけていたりすることが分かってきました。

 今回の「happy money」は、EQ理論の延長線上にあります。しかし、抽象的なものではなく、理論として成立している点が興味深いところです。本田さんは、お金のEQについて次のように解説します。どのような意味でしょうか。

「IQを高めて金持ちになったとしても、お金のEQが低ければ、人生を楽しんだりする心の余裕を持てません。どれだけお金を稼いでも、ためても、安心することができなくなるのです。大富豪ロックフェラーは、お金を失う心配で健康を害した時に、財団の構想を思いついたそうです。それ以後、彼が健康を取り戻し長寿を全うできたのは、このバランスが取れたためでしょう」(本田さん)

「金持ちになるためには、お金のIQばかりに目が向きがちですが、お金を使って何をしたいのかがはっきりしなければ、お金に振り回されるだけの人生になることを知る必要があります。お金のIQは、効率良くお金を稼いだり、手元にやってきたお金を上手に守るための知識に過ぎません。そのお金を使って人生を豊かにすることができなければ、お金には何の意味があるというのでしょうか」

「Happy Money」「Unhappy Money」

 本田さんは、お金には「Happy Money」「Unhappy Money」の2種類があると言います。「Happy Money」は、10歳の男の子が母の日に、お母さんに花を買うようなお金のこと。子どもがサッカーやピアノを習えるように両親がコツコツためたお金も「Happy Money」です。

「普通のお金が『Happy Money』に変わるケースはいくらでもあります。たとえば、次のような場合です。『経済的に苦労している家族にお金の援助をする』『台風や地震の被災者に少しばかりの寄付をする』『クッキーを売ってホームレス施設のための寄付をする』『社会に役立つビジネスや社会事業に投資する』『満足したクライアントから料金を受け取る』。愛情や思いやり、友情を伴って流通しているお金は『Happy Money』です」

「一方、『Unhappy Money』は、家賃や請求書、税金など渋々払うお金のことです。このお金については、想像力を働かせるまでもないでしょう。不満や怒り、悲しみ、失望を伴って流通しているお金はどれも『Unhappy Money』です。あなたがネガティブなエネルギーを抱えながらお金を受け取ったり使ったりしたら、そのお金は必ず『Unhappy Money』になります」

 人の行動は全て感情(EQ)が影響します。よい感情であれば、適切な行動を取ることができます。しかし、悪い感情を抱いては適切な行動を取ることはできません。

 例えば、ひどい憎しみや怒りを感じているときに、親友の結婚式に出席して心から祝福することができるでしょうか。こうした場合、人は感情をコントロールします。その場にふさわしい感情をつくり出そうとします。つまり、EQは調整できるのです。

MEQ(Emotional Money Quotient)の確立を

 その後、EQ理論は衰退していきました。しかし、残念なことに、EQブーム後に出現したサービスには、理論を無視した稚拙なものが少なくありませんでした。

 あれから長い年月がたちました。EQに出会った時の衝撃を再び感じることになるとは思いませんでした。「Happy Money」は「MEQ」(Money Emotional Quotient)です。お金に影響を受けない人はいないからです。「Happy Money」の誕生によって社会が大きく変わるかもしれません。あなたの「Happy Money」は何ですか。

(※日本語版「happy money」は7月20日にフォレスト出版から上梓予定)

コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員 尾藤克之

「お金のEQ」の考え方とは?