今、日本国内外問わず、ミュージシャンの伝記映画が熱い。2018年ボヘミアン・ラプソディ』が世界的大ヒット2017年にはイギーポップドキュメンタリー映画『ギミー・デンジャー』、2018年にはコールドプレイドキュメンタリー映画『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』など枚挙に暇がない。

 このジャンル日本国内で盛り上げているのが、クリエィティブ分野に定評のあるクラウドファンディング会社「MOTIONGALLERY(モーションギャラリー)」だ。2017年には、ワールドツアーも経験していたジャズバンドPE’Zの映画に1700万円以上の資金を集め(1010人/1742万6600円/2015年11月16日終了)、大成功を収めさせ、つい先だってはフィッシュマンズドキュメンタリー映画でも、1800万円以上の資金を集めた(1158人/1830万6687円/2019年5月31日終了)。

 ちなみにモーションギャラリーは、あの『カメラを止めるな!』のクラウドファンディングを大成功させ、大ヒットに導いた会社でもある。なぜ、今音楽映画が盛り上がっているのか。代表取締役の大高健志氏にその理由を聞くとともに、クラウドファンディングの可能性、そして、日本映画の構造へと話は広がった。

大高健志
モーションギャラリー代表取締役の大高健志氏

ジャンルのタコツボ化の解決策が「音楽映画」

――今、なぜ音楽映画が盛り上がっているんでしょうか。

大高健志(以下、大高):まず、映画と音楽ってもともとすごく相性が良いものなんですね。映画にとって音楽って必要不可欠なものですし。

 日本だと「MOOSIC LAB」みたいな音楽と映画をかけ合わせて、アーティストと若い映画監督を掛け合わせてやっていこうという試みもありますよね。最近だと枝優花監督の『少女邂逅』(モトーラ世理奈・主演)とか。

 今は、映画は映画ファンしか観ない、音楽ファンはフェスしか観ないというタコツボ化していっている。昔のミニシアターブームのときは、もっと緩やかなクロスカルチャーというか、いろんなジャンルを楽しむ余裕があったんですけどね。

ジョゼと虎と魚たち』がいい例ですけど、主題歌がくるりで、音楽ファンも観に行ったりとか。それが今は、社会現象となる起爆力が少し下がっていっている気がするんです。そこをどう横断させていくかっていうのは結構重要な課題で。クリエイティブに興味のある人が、どうやったら同時に興味を持ってくれるか。その解決策が「音楽映画」なんだと思います。

 バンドの人生を映画化することで、『ボヘミアン・ラプソディ』がそうですけど、音楽ファンとしては、より深くストーリーとして楽しめるし、映画のファンも音楽が好きだから映像として楽しめるし、クロスカルチャーとして、企画が立ち上がってきていると思います。音楽ライブの映画化もそうですよね。

クラウドファンディングには信頼性が必要

モーションギャラリー
「モーションギャラリー」※画像は公式サイトより
――音楽映画をクラウドファンディングする強みってなんでしょうか。

大高:ファンがつくる映画ってことは、純粋な商業映画とは信頼性がやっぱり違ってきますよね。

 商業映画だと、作り手は、やりたいことを資金集めのために捻じ曲げないといけないことがでてくるわけじゃないですか。クラウドファンディングだと、それがないですね。資金を出した人は一緒に作っていくんだっていう共有意識が持てる。消費として買うのか、応援として買うのかの違いです。

 あと、今までのファンバンドをより応援したい、違うフェーズのチャレンジを応援するためには大義とロマンが必要だと思っていて。いつも武道館でやっている人たちが「今回クラウドファウンディングで武道館ね」って言われてもあんまりピンとこないというか。

 映画のクラウドファンディングにしても、今までと違う形のチャレンジでより多くの人に見てもらいたいという大義が必要。それが形になると、今まで武道館に行っていた人たちから、さらにまた新しいファンが広がる。

 フィッシュマンズで言うと、コアなファンだった映画プロデューサーが企画したから「これやったら儲かるんじゃない?」というところから始まっていないんです。もし儲けから始まっていたら、言葉遣いとかに、それが透けて見えて、白けちゃう結果になると思うんです。

 けど、ファンから始まっているから、熱量があるので、応援する人も自分と同じ人がやっているという安心感と、「きっといい映画になる」「ファンから見て間違いない」という安心感と確信があると思うんです。

売れるものより、作りたいってものを

大高健志
 製作委員会方式には、一長一短がある
――それが純粋な商業映画とちょっと違うところなんですね。予算面ではどうなんですか。

大高:先ほども言いましたけど、いろいろなお金がかかるところの制作費を、製作委員会方式の投資とか融資とかにしてしまうと、やはり「投資した資金の回収の見込み」が強く問われるため、企画によっては「作りたいってものよりも、売れるものを」と、初期の企画から変容してしまう可能性もある。

 クラウドファンディングだと、1番大事なファンがどっちらけになるとということを防げます。あとは「過去映像をみんなから募集します」みたいなのをやっていたんですが、作る過程をオープンにして、協力関係を築いていきます。映像を提供する人は楽しいし、嬉しいし、それが本編に映ったら感動するし、一緒に作っていくのも盛り上がる要因だと思います。

クラウドファンディングは第三の道

――大高さんがクラウドファンディングをやろうと思ったきっかけはなんなんですか。

大高:社会人を経てから入学した東京藝術大学大学院で、映画とか映像の勉強したのですが、その中で、映画製作のために必死で資金集めをしている海外の状況を知ったことが大きかったです。学生レベルではなく、社会的に有名な監督やプロデューサーでもお金集めるのが大変だと。

 その理由も、投資で集めたものを利益で返さないといけないから、とか。だからキャストネームバリューが重視されたりするんです。もちろん本当に作りたいものがあればいいんですけど、資本の論理で動くとなかなか難しい部分もある。ハリウッドのようなグローバルレベルでの資本の論理でないとなかなか両立が難しい。

 一方、フランスは助成金が手厚くて、売れることだけを重視してないというか、フランスが文化のルールメーカーであるというのが戦略にあるから、クオリティで戦っています。

 で、日本はどちらなんだろうかと考えさせられました。そのなかで、第三の道ってなんだろうって考えた時に、ファンから集めるというエコシステムなら、市場規模の話でも、かつ国の助成金でもない形で、映画とか音楽とか限界アートとか、クリエイティブ全般を支えられるような応援ができると思ったんです。

 とはいえ、当時の日本にはまだクラウドファンディングがなかったので、自分でやってみようかなと。でも、それによって、これまで投資会社とかに通らなかったものが、通るんです。『カメラを止めるな!』(以下『カメ止め』)がいい例ですけど、当時、上田慎一郎監督は無名でしたよね。でも、面白いと思わせたら集まるんです。

初期にコアなファンを作れた『カメ止め』の成功

――『カメ止め』の成功の背景には何があったと考えますか。

大高:ENBUゼミナール」という映画関係の養成スクールが年に2本、ワークショップを通じて、若手の作品を公開する企画を毎年やっていて、そこでクラウドファンディングで映画の製作資金を募ったんです。

 昨年は上田監督の作品だったのですが、集まり方の熱気が例年と違いました。上田監督もそうですけど、役者さんたちにも「絶対面白くなる」という確信みたいなものがあって、ツイッターで「絶対損はさせない」みたいなことをすごく熱く発信していて、周りの人も「そんなに言うならクラファンしてみるか」みたいになっていった。

 だから、有名人が何かどーんと言っているわけではなく、一人ひとりの熱量が草の根的に何らかの確信と熱量をネットの空間でも感じさせられたから、そこでお金が集まっていったのかもしれません。

 もちろんクラウドファンディング全体でいうと1000万~2000万円規模のものもあるなかで、『カメ止め』は300万円の目標のうち集まったのは150万円ですけど、金額以上の熱量を個人的には感じました。

 クラウドファウンディングで応援した人たちが、劇場公開前に見て、「やっぱりすごい」「応援してよかった」と口コミで広がっていった。だから、公開後にここまで話題になったのは、初期のコアなファンクラウドファウンディングで作れたのが、結構大きかったのかなって個人的には思っています。

――これから音楽映画は増えていくと思われますか。

大高:増えていくとは思いますね。30~40代が、自分の青春時代に聞いていたバンドの企画というのは応援も集まりやすい。『ボヘミアン・ラプソディ』も同じ文脈だったと思いますけど、お金を出せる人が昔を振り返りたいという企画は盛り上がりやすい。いま実際にそういう企画が動いていますし、ビジネス面から見ても、まだまだ伸びるジャンルだと思います。

【大高健志】
1983年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系コンサルなどを経て、2011年クラウドファンディングラットフォーム「MOTION GALLERY」を設立。2017年、誰でも自分のまちに映画館を発明できるプラットフォーム「POPcorn」設立。日本各地の場所・人・映画をなめらかに繋ぐ事で、特別な場所にみんなが集う時間がまちに次々生まれるべく挑戦中

<取材・文/神田桂一 撮影/スギゾー。>

【神田桂一】

ライター。初の単著を秋に発売予定

製作委員会方式には、一長一短がある