「後ろ歩き」で短期記憶が向上するという研究

私たちの「記憶」は日々、増減を繰り返している。

誰にでも絶対に忘れたくない記憶や、逆にいくら払ってでも忘れたい記憶があるだろう。そうした記憶は、私たちが「死」を迎えたときどうなるのだろう?

一番美味しかった食べ物の味や、推しが最高に可愛かった時など…

あなたに強烈なインパクトを残した記憶は、脳の中にいつまでも残るように思える。

 

しかし、諸行無常のこの世に永遠なものなどない。だとすれば、そうした記憶は私たちが「死」を経験した後にどうなってしまうのだろうか?

まずは記憶のメカニズムから説明していこう。

人間の脳にはおよそ1000億ものニューロンがあり、その末端にあるシナプス同士の隙間を、タンパク質や化学物質からなる神経伝達物質が行き交っている。

 

記憶が形成されるのは、これら神経伝達物質の中でも、「AKT」や「CaMKⅡ」といった特定のタンパク質がシナプスの結びつきを強めたときだ。

 

いわゆる「長期記憶」とは、ニューロンがその体験を「固定化した結合」へと変化させたことを指す。

ひとたび長期記憶になれば、ニューロンがそうした記憶に残った音や味を思い出させてくれるのだ。

 

しかし、記憶は時を経ることで変化したり、色あせたりすることがある。

研究者たちはこの原因について、脳内において記憶を司る「海馬」が年齢を重ねることで縮小していくことに起因している可能性があると考えている。

 

また、他の臓器と比べて、脳は適切に働くために多くのエネルギーを必要とする器官だ。

そのため、心臓が拍動をやめてしまった場合に、最初に不可逆的なダメージをくらってしまうのが脳なのだ。

 

心臓が拍動を再開しなければ、心停止からわずか4~5分で脳はすべての機能をシャットダウンしてしまう。

そして、脳の中でも最初に影響が及ぶのが記憶に大きく関わっている海馬だ。

 

たとえば心停止から3分後に運良く復活できたとしても、生存者に記憶障害が残ってしまう場合が多いのはこのためだといえる。

海馬がダメージを受けたことで、数年間にわたって記憶が戻らないケースさえあるのだ。

 

また、心停止を経験した患者の多くは「臨死体験」の記憶を持つことも分かっている。

心肺機能が停止した後は、臨床的には「死んでいる」とみなされるのであり、そこから蘇れば確かに彼らは「死」にかなり近づいた人たちといえるだろう。

 

ある研究では、そうした心肺停止状態であっても「意識」があったと40%の人々が答えており、別の研究では10%の人々がその期間の記憶を持っていたことが分かっている。

これは、人が臨床的に死んだ後に、脳が激しく電気活動をおこなうことが原因であると考えられている。

 

そのため神経科学者の多くは、臨死体験が心停止のストレスによって生まれるものでありと考えており、そこでみえるビジョンは、死後の記憶ではなく「生前の」記憶が反映されたものだということになる。

 

つまり、脳が永久に活動を停止して、私たちが本当の「死」を迎えたとき、そこに保持された記憶はシンプルに消えてなくなることになる。

それはまるで、パソコン上のファイルが消えてなくなることに等しい出来事といえよう。

 

そう考えれば、せめて最後の記憶は自分が納得のいくものにしたい。

ステキな記憶だって最悪な記憶だっていつかは永久に消え去ってしまう。世界はなんて平等にできているのだろう。

そうした世界をただ虚しく感じるのか、美しく感じるのかはあなた次第だ。

記憶喪失にはどんな種類があるの?

reference: Life Noggin / written by なかしー

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死んだら私たちの記憶はどうなるの?