フレッシュな旅人たちが、日本の美術館の魅力・価値を発見していくTOKYO MX地上波9ch)の美術探索ドキュメンタリーフランス人がときめいた日本の美術館」(毎週木曜20:00~)。5月30日(木)の放送では、女優・野村麻純さんが「霧島アートの森」を訪れました。

日本の美術館の魅力をまとめた書籍「フランス人がときめいた日本の美術館」。著者で、フランス人の美術史家ソフィーリチャードさんのメッセージヒントに、「霧島アートの森」の魅力を紐解きます(屋内作品を紹介した前編はこちら から)。

◆自然と人工物の対比が示すもの

野村さんが通り過ぎた、四角い鉄の塊。実はこれも作品の一部。


これは、戦後の日本を代表する彫刻家・若林奮の「4個の鉄の塊に囲まれた優雅な樹々」という作品。計4個の立体だけでなく、それが囲む樹林も含め、1つの作品です。

学芸員の矢野佑輔さんは、このユニークな作品の意図を解説します。

「樹林は、未来に向かってどんどん成長していく。反対に、人工物である鉄の塊は錆び、長い時間をかけてなくなっていく。この作品は、自然と人工物の時間の流れの対比を表しています」

その対比を通じて、若林奮が伝えたかったこと。その答えは、生前の若林奮が霧島を訪れた、1999年の貴重な映像に残されています。

「作品として森を作りたいという気持ちがあると同時に、やはり、人工的なものを作品として確認をする必要がありますから、それで四隅に鉄の塊を置いているわけですね。人間がわからない部分とか、手に負えない部分とか、そういうものに我々が気づかないといけないと思っているんですよ」

霧島の自然に魅せられ、制作に臨んだ若林。そこには、ゆるぎない自然への畏敬の念も感じられます。


◆霧島の神秘、天孫降臨伝説をめぐって

続いては、ダニ・カラヴァン「ベレシート(初めに)」。光が差し込むトンネルの先には、雄大な自然の眺めが。「まっすぐ行ったら、落ちちゃいますよね?」と不安そうな野村さんですが、ガラスがあるとわかり一安心。このように、訪れた人がトンネルを見つけ、おそるおそる入り、最後に雄大な風景に出会うという一連の流れが作品になっているのです。


この作品の構想のもととなったのは「天孫降臨」。これは、女神・天照大神(あまてらすおおかみ)の命により、孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が地上に降り立ったという神話です。その場所が、霧島山の1つ、高千穂峰の山頂だったという説があります。

その神話を知り、鬱蒼とした森を目にしたカラヴァンは、霧島に神秘的なものを感じたのだとか。その思いを投影するべく、突き当りにあるガラスには、大自然を背景に「初めに、神は天地を創造された。」という旧約聖書の1節が刻まれています。


もう1つ、天孫降臨に着想を得た作品があると聞き、笹やぶに囲まれた空間へ。見えてきたのは、ルチアーノ・ファブロの作品「イザナミイザナギアマテラス」です。


日本神話で最初に結婚したとされる伊弉冉(いざなみ)と伊弉諾(いざなぎ)。下に敷かれた白い石は伊弉冉、黒い石は伊弉諾、その上に乗っている石は二神の子ども・天照大神を表しています。

天照大神の石には幾重もの輪が。その中心が表現するのはヘソ。そこに天から雫が落ち、波紋ができ、日本の歴史が始まるイメージを表現しているのです。


また、伊弉冉の白い石には、日本地図が象眼してあります。石は、横から見るとまるで巻物が巻かれているような形に。「これを広げると日本地図が出てくる、というのを想像させている」のだとか。

◆森の奥にいる“ほっそりとした彼ら”

最後は、樹林ゾーンの最も深い場所へ。ソフィーさんの「ほっそりとした彼らを木々の間から見つけるのはひと苦労ですよ!」というメッセージヒントに、目を凝らす野村さん。じっくり見渡すと、“ほっそりとした彼ら”を次々と発見。


森に擬態しているこの作品は、イギリスの彫刻家、アントニー・ゴームリーの「インサイダー」。

ゴームリーは、この場所に作品を置くことを強く希望しました。また、彫刻をできるだけ周囲に溶け込ませるため、まっすぐな細い木だけを残したといいます。

彼は、次のような言葉を残しています。

「私は特別な感情を引き起こす場所を作りたかった。
 森を通ってここへ向かう道すがら
 自分の呼吸や心臓の鼓動を感じ
 やがて物言わぬ細長い棒のような彫刻を目にする。
 私はそれが、この森に固有の
 アンテナのようなものであってほしいと願う。
 私の意図は、来訪者に自然の中にいる自分を意識し
 彫刻も自分も自然の一部かもしれないということに、
 思いを馳せてもらうことだ」

広大な森と山々に囲まれた「霧島アートの森」。やがて気づくのは、異質に思えた現代美術の作品が、実はここでしか生まれ得なかったこと、そして森に現代美術を息づかせたこと。それこそが、この美術館の一番の作品かもしれません。


■霧島アートの森
住所:鹿児島県姶良郡湧水町木場6340-220
開園時間:9:0017:00(入館は16:30まで)
休園日:毎週月曜(祝祭日の場合は翌日)、年末年始(12月29日1月2日)、2月第3月曜~第4月曜
入園料:一般310円、高校・大学生200円、小・中学生150
公式Webサイトhttps://open-air-museum.org/

※この番組の記事一覧を見る

<番組概要>
番組名:フランス人がときめいた日本の美術館
放送日時:毎週木曜 20:00~20:56
語り:椎名桔平
番組Webサイトhttps://s.mxtv.jp/variety/japanese_museums/

霧島の森と向き合った芸術家たち… 「霧島アートの森」の作品を巡る