米中国語テレビ放送「新唐人テレビ」のコメンテーターでジャーナリストの蕭茗氏はこのほど、自身のYouTubeチャンネルに投稿した時事評論動画で、米中関係について「実質的に冷戦が始まった」とし、米国の対中強硬派は「経済戦争」で中国当局を打ち負かそうとしているとの見方を示した。

蕭氏は、「米中冷戦」が始まった現在、トランプ米政権または政権内の対中強硬派は「旧ソ連に対抗したレーガン元米大統領のように、『経済戦』を活用する動きがある」と述べた。

「貿易問題は経済戦の重要な部分だが、中国当局の急所を突くには、ウォール街から中国への資金の流れを断つことが最も重要だ。つまり、米国の資本市場から中国共産党勢力を追い払うことだ。これは米国の国家安全保障とも深く関係する」

650社が米上場

蕭氏によると、レーガン政権で経済政策顧問を務めたロジャーロビンソン(Roger Robinson)氏が率いる市場調査会社のリサーチによって、現在650社の中国企業が米株式市場に上場していることが分かった。ニューヨーク証券取引所(NYSE)で86社、ナスダック市場(NASDAQ)で62社、場外取引市場では500社。「場外取引市場への管理監督が比較的に緩いため、財務の透明性を回避したい企業はこの場外取引市場に集まっている。このなかに国家安全保障を脅かす企業や人権侵害に協力する企業がある」

NYSEとNASDAQの両市場にもこのような企業がある。NYSEに上場する中国国営通信事業者、中国聯通(チャイナ・ユニコム)は中国軍の下請け企業だ。同社が南シナ海にある中国軍の軍事拠点に通信ネットワークを提供している。なかには偵察用の通信システムの構築も担当している。またチャイナ・ユニコムは、北朝鮮の唯一のインターネット・サービス・プロバイダでもある。

2014年米司法省は、中国軍61398部隊に所属するハッカー5人を起訴した。5人は米国政府機関や企業のネットワークに不正侵入し、情報を窃盗した。米政府が61398部隊の「北京チーム」が使ったIPアドレスを追跡したところ、チャイナ・ユニコムの北京にあるサーバーにたどり着いたという。

また、現在米政府が禁輸措置リストに追加した中国の監視カメラ製造大手、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン、HIKVISION)もNYSEに上場しているだけでなく、株価指数を開発・算出するMSCIのアジア・パシフィック・インデックス(日本を除く)に組み入れられている。

MSCIの指数をベースに運用されている資金は約16兆ドルとみられる。中国企業がMSCIの指数に組み入れられると、投資家はその企業の株式を購入することにしている」

ロビンソン氏は、現在、米国資本市場における中国企業の資産規模が1兆ドルに達していると話した。今後数年間で、米市場の中国金融資産はさらに数兆ドルまで増加すると予測した」。蕭氏は、この時になれば、中国企業の米経済に与える影響力は今以上に強まると警告した。

一方、米金融大手のゴールドマンサックス、JPモルガン、JPモルガン・チェース、ブラックストーンなどは、中国に莫大な投資をしてきた。同時に、アップル、ウォルマートボーイングインテル、クアルコムなど米国を代表する大企業も中国市場から巨額な利益を得ている。中国指導部高官の子弟もこれらの有名企業に就職している。中国当局の利益集団は米金融市場に巨資を投じ、これによって巨万の富を得た。

蕭氏はトランプ大統領の元ブレーンだったスティーブン・バノン氏をインタビューしたことがある。バノン氏は「今日のウォール街は中国当局の投資管理部門となっている」と強く批判したという。バノン氏はまた、中国当局が米金融界を利用しながら、米の政界と他の各界への浸透工作を行い、影響力の強化に注力してきたと指摘した。

バノン氏は、世界トップレベルの金融機関、会計事務所、法律事務所などの責任者らが、中国当局による国民への圧政の実態や、世界各国の経済・政治情報を詳しく掌握しているにもかかわらず、中国当局による国民への迫害を見て見ぬふりをしていると述べた。同氏は「(中国当局の浸透工作によって)エリートらは米の貴重な価値観を捨て、金儲けだけを重視するようになった」と指摘したという。

米国の反省

蕭氏は、現在トランプ政権が対中強硬路線を歩んでいるのは、過去数十年間の対中政策が失敗したと気づいたからだと示した。

「これは非常に勇気のいることだ。対中政策が失敗した主因の1つは米国のエリート層、特に金融界とハイテク・IT技術業界の大企業にあるからだ。この利益集団が資金源となって、中国共産党政権が世界覇権を狙えるほどに勢力を増してきた」

「だから、ウォール街こそ、中国共産党政権の生死を決める脈所と言える。ロビンソン氏は、過去の米ソ冷戦において、米政府は西側諸国の政府と金融機関がソ連への融資と投資を断ったことが、ソ連の崩壊につながったと指摘したように、トランプ政権も中国当局とウォール街とのつながりを断とうとしている」

蕭氏は、すでに米政府と議会でこの動きが見られるとした。マルコ・ルビオ上院議員(共和党)とロバート・メネンデス上院議員(民主党)は6月5日、米国に上場する中国企業に対して、米政府の監督を受け入れることを義務付ける法案を提出した。

ロイター通信5日付によれば、現状では中国の法律によって、中国企業の米政府への監査資料の提出は制限されている。議員らの法案は、中国企業が監督資料を提出しないで、米政府の監督規定に違反すれば、上場廃止させられるほか、3年内の再上場も認められないとした。

2017年公開されたドキュメンタリー映画「ザ・チャイナ・ハッスル(邦題はチャイナ・ブーム 一攫千金の夢)」は、多くの中国企業が米上場に果たすために、財務や経営状況に関して虚偽報告を作ってきた実態を暴いた。米の証券会社や投資銀行がこれらの企業を宣伝し、米国民の投資を誘致した。

法案が可決すれば、米金融市場から排除される中国企業が続出するとみられる。完全で真実の監査資料を提出すれば、財務の粉飾が明白になるからだ。

トランプ政権は昨年以降、米国の対イラン制裁に違反した、または国家安全保障上の理由で、中国通信機器大手の中興通訊ZTE)や華為技術ファーウェイ)に制裁措置を行った。前述のハイクビジョンなど中国の監視カメラメーカーを禁輸措置リストに追加することを検討している。今年4月、40人以上の米超党派議員は政府宛ての書簡で、ハイクビジョンらが、中国当局による中国国民への監視に加担していると指摘した。

蕭氏は、この一連の動きから、米の安全保障を脅かす中国企業と人権侵害・信仰迫害に協力する中国企業が今後米金融市場から追い出される可能性が高いと推測した。

「この一連は米国政治の大きな変化を浮き彫りにした。過去30年間、米のエリート層が政治・経済秩序を統治し、中国共産党政権に接近し、米国民の利益を害してきた。今、この統治は徐々に米国民の手元に戻っている。米国民の声を代弁しているのはトランプ大統領だ」

トランプ大統領は一人の人間、あるいは大統領として完璧ではないかもしれないが、しかし、誤った道を歩んでいる米国を正しい道に戻そうとしている」

中国当局の弾圧を受ける伝統気功グループ、法輪功の情報サイト「明慧網」5月31日付は、米政府が人権侵害や宗教迫害の首謀者や関与者への査証(ビザ)申請を厳格化していると報道した。

これによれば、米政府が国内の宗教団体に提供した情報では、移民ビザおよび非移民(観光、親族訪問、ビジネスなど)ビザの申請者に対して一段と厳しく審査し、また有効ビザ(永住権取得者を含む)の保有者に対しても入国許可を拒否する可能性がある。「米国務省関係者は、米国在住の法輪功学習者に、迫害関与者のリストを提供するよう通知した」という。

米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)6月5日付は、ナンシー・ペロシ米下院議長(民主党)がトランプ大統領に対して、中国の人権問題を、米中通商協議の議題として取り上げるべきだと提案したと報じた。報道によると、大統領はペロシ議長に、貿易交渉で中国側に人権問題を提起する用意があると回答した。

蕭茗氏は、中国企業だけではなく、人権・宗教迫害を主導し、または関わった中国当局の高官も米政府の制裁を受けるとの見方を示した。

「今日米政府と議会は、中国当局による人権侵害と米の伝統的価値感への侵食を、国家安全保障と米国の建国理念に結び付けている。これは米政府にとって非常に大きな反省である」

(翻訳編集・張哲)

ジャーナリストの蕭茗氏は「米中新冷戦」において、トランプ政権はウォール街による中国当局への財源提供を断とうとしているとの見方を示した(Spencer Platt/Getty Images)