BOLTシリーズの始まりは2013年にヤマハクルーザーの新ラインナップとしてデビューしたXVS950CU BOLTから。当時のニュースリリースによれば「北米クルーザーモデルの新トレンドである“ボバー”スタイルを国内市場に提唱するとともに、SR400やXVS400等からのステップアップニーズに応えるモデル」とある。 ちなみにボバーとは、往年のダートトラッカーをモチーフにされたもの。ボブは短くするという意味があり、例えばフェンダーショートカットする等、構成部品は極力シンプルに仕上げられ、走るための機能的装備を必要最小限に絞られた無骨なテーストが主張されているのである。  2017年4月のマイナーチェンジで車名もBOLTに変更。溶接が目立たぬよう綺麗に仕上げられた13Lタンクを新装備し、BOLT ABSにはスポークホイールをセット。オーナーが自分好みにカスタマイズを楽しむベース車両としても配慮されている。 REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru) PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

h2ヤマハ・BOLT ABS……961,200円h2ヤマハ・BOLT R スペック ABS……1,006,560
ブラックメタリックX(BOLT)
マットシルバー1(BOLT R スペック

 今回の試乗車は2019年5月16日に新発売されたばかりのBOLT ABS。見るからに低く長いフォルムはドッシリと落ち着いた雰囲気にあふれ、それにを目にした瞬間から、ライダーとしてのテンションがスポーツバイクに乗る時とは異なる気分に気づく。
 
 ちなみにセパレートシートの前方は鞍型デザイン。シート高は690mmという低さ。前輪は19インチサイズ、後輪は16インチサイズがセットされホイールベースはグンと長い1570mmもある。撮影に出かける時は、自然とシックなレザージャケットを選択していた。
 
 駆動はベルト式。トランスミッションは5速。そして何よりも見逃せないポイントが、Vツインエンジンの出力特性にある。最高出力の発生回転数は5500rpm。そして最大トルクの発生回転数はなんと3000rpmという低い所にある。そんな諸元を見るだけで、どのような乗り味を発揮してくれるのか大きな期待が膨らんでくるのである。

h2実走燃費は26.5km/L

 跨がってから腰を落とす感じでBOLTに乗り込む。普段乗り慣れたスポーツバイクとは全く異なる雰囲気に包まれる。そもそも時間の流れがゆったりと感じられてくるから不思議なものだ。

 両手を前方に投げ出す感じでハンドルを握ると、筆者にはやや遠い感じ。基本設計が体格の異なるアメリカンサイズなのか、ライディングポジションは大柄である。直進時は肘にも余裕があるが、フル転舵する時には、かなり意識して両肩をハンドルバーと平行にする様にしないと、旋回外側の腕が伸びきってしまうレベル。

 両膝はタンクをニーグリップすることはできず、右は横に張り出したエアクリーナー、左は後ろバンクシリンダーヘッド付近に当たる。接触具合も非対称。しかし、そんな事は特に気にならないし気にする必要もないのである。

 膝はルーズに力を抜いて楽にしていれば良い。体重は鞍型シートに預けて前方に広がるパノラマのような視界の流れを謳歌すればそれで良い。

 ドドドッと低く太いエキゾーストノートと共に確かに感じられるVツインならではの鼓動感を楽しみながら、回りの喧騒とは別次元にワープした、悠然と落ち着きはらった乗り味が存分に堪能できる。
 
 確かな直進安定性も快適な走りを助けてくれるし、全体重を預けているのに尻が痛くなることもなく座り心地が良い。箱根ターンパイクの上り坂もいとも平然とグイグイ登るトルク感は実に頼もしいのである。
 
 コーナーでは攻める気にもならないバンク角の浅さがネックになるが、それも別に気にならないし、気になるような走りをしたいとも思わない。実際コーナーを攻めなくても気持ちの良いコーナリングが楽しめてしまった。

 いつも走り慣れたコースも実に新鮮な景色に感じられたから不思議。景色や周辺の風情を楽しめるマインドに切り替わっている。そんな乗り味がとても心地よい。帰り道ターンパイクを下り、小田原厚木道路へと左折するのがいつものパターン。あと1時間ほど走れば帰宅できる。

 このポイントで驚かされたのは、思わず、それも無性に右ウインカーをつけたくなってしまった。湯河原か真鶴あたり、どこかで一泊してしまおうか! 箱根帰りでそんな気にさせられたのは初めてである。

h2⚫️足つきチェック(ライダー身長170cm)
ご覧の通り両足は膝に余裕を持って、べったりと地面を捉える事ができる。シート高は690mm。252kgの車体でも安心して支える事ができる。
h2⚫️ディテール解説
マルチリフレクター方式の丸型ヘッドランプはクリアレンズを採用。光源はLED方式ではなく、60/55WのH4バルブが採用されている。
フロントフォークはインナーチューブ径φ41mmの正立式。ブレーキはφ298mmウェーブディスクがフローティングマウントされている。油圧ブレーキキャリパーはダブルピストンピンスライド式だ。
60度Vツインエンジンはボア・ストロークが85×83mm。少しショートストローク。約1Lと言う排気量とのバランスも良く、実用域で発揮される柔軟なトルクは実に頼もしい。
ドライブはベルト方式。走行音は静か、オイルによる汚れもないから、ツーリングから帰宅後の洗車にも好都合である。
車体左側の目立たぬ所(シート脇下)にキーロック付きのサイドカバーがある。
取り外してみると専用ボックスに入れられた車載工具が標準装備されていた。
ブラックアウトされたOHC4バルブ空冷Vツイン。クランクケースまでブラックアウトされたが、シリンダー&ヘッド部のクーリングフィンサイドアルミ地が生かされて絶妙のコントラストを魅せる。
シンプルな円筒状マフラーは右側水平に伸びる。リヤショックはオードックスな2本ショックタイプ。作動ストロークは決して長くはないが、その割にゴツゴツ感の抑えられたなかなかの乗り味を発揮。
ブラックアウトされたバーハンドル。体格の大きな人でもゆったりと楽なライディングポジションを提供してくれる。
ハンドル左側のスイッチはオーソドックスなレイアウト。いざと言う時、即座にホーンを鳴らせる配慮は嬉しい。
上端と下端にあるのが、赤いエンジンキルスイッチと、黒いセルスタータースイッチ。間にある左側のスライドスイッチはハザードランプ。右側の黒スイッチはメーター表示を切り替えるモードスイッチ(上)とリセットスイッチ(下)。
これまたシンプルな丸型デザインのシングルメーター。四角い液晶モニターには大きな文字で速度がデジタル表示され、見やすい。ちなみに速度はマイル表示も可能。
鞍型デザイン・シートの乗り心地はなかなか好印象。ドッカリと体重を預けきって乗っているにも関わらず、プチツーで尻が痛くなることはなかった。
丸型クリアレンズのランプで統一されたテール&ウインカーランプ。テール&ストップランプはLED式が採用されている。ライセンスプレートランプは別仕立てだ。
h2◼️主要諸元◼️

BOLT /〈BOLT Rスペック

認定型式/原動機打刻型式:2BL-VN09J/N609E
全長/全幅/全高 :2,290mm/830mm/1,120mm
シート高:690mm
軸間距離 :1,570mm
最低地上高:130mm
車両重量:252kg
燃料消費率*1:国土交通省届出値
定地燃費値*2:30.7km/L(60km/h) 2名乗車時
WMTCモード値 *3:21.2km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時
原動機種類: 空冷・4ストローク・SOHC・4バルブ
気筒数配列: V型, 2気筒
総排気量 :941cm3
内径×行程:85.0mm×83.0mm
圧縮比: 9.0:1
最高出力 :40kW(54PS)/5,500r/min
最大トルク:80N・m(8.2kgf・m)/3,000r/min
始動方式 :セルフ式
潤滑方式 :ウェットサンプ
エンジンオイル容量: 4.30L
燃料タンク容量:13L(無鉛レギュラーガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式:フューエルインジェクション
点火方式 :TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式:12V, 11.2Ah(10HR)/YTZ14S
1次減速比/2次減速比 :1.674/2.333
クラッチ形式 :湿式, 多板
変速装置/変速方式:常時噛合式5速/リターン
変速比:1速:3.066 2速:2.062 3速:1.578 4速:1.259 5速:1.041
フレーム形式 :ダブルクレードル
キャスター/トレール :29°00′/130mm
タイヤサイズ(前/後):100/90-19M/C 57H (チューブタイプ)/150/80B16M/C 71H (チューブタイプ)〈100/90-19M/C 57H (チューブレス)/150/80B16M/C 71H (チューブレス)〉
制動装置形式(前/後):油圧式シングルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後):テレスコピック/スイングアーム
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプハロゲンバルブ/12V, 60/55W×1
乗車定員 :2名

h2◼️ライダープロフィール
元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファンJPのライターへ。ツーリングも含め、常にオーナー気分でじっくりと乗り込んだ上での記事作成に努めている。