多摩ニュータウンアクセス鉄道である小田急多摩線について、延伸構想の検討が進んでいます。現在の終点・唐木田駅から相模原駅を経て上溝駅までが検討の対象区間ですが、延伸は採算性やリニア中央新幹線がカギになりそうです。

上溝まで開業すると「黒字化まで42年」

東京都心から西へ約30km、人口約20万人の多摩ニュータウンと都心を結ぶ鉄道路線として建設された小田急多摩線。終点の唐木田駅東京都多摩市)から、東京都町田市、JR横浜線相模原駅神奈川県相模原市)を経由して、JR相模線の上溝駅(同)まで延伸する構想が検討されていることをご存じでしょうか。

小田急多摩線は元々、京王相模原線と並走して橋本駅神奈川県相模原市)まで延伸する計画でしたが、オイルショック後に多摩ニュータウンの開発計画が縮小されたことを受け、小田急小田急多摩センター駅東京都多摩市)から先の建設を断念しています。

ところが2000年代に入ると相模原市町田市と都心部とのアクセス性向上を目的に、再びJR横浜線・JR相模線への延伸構想が浮上。2016年8月に相模原市町田市、国、小田急電鉄、学識経験者から構成される「小田急多摩線延伸に関する関係者会議」が設置され、収支採算性などの課題解決に向けた検討が進められてきましたが、2019年5月28日に報告書が公表されました。

建設費と採算性の推計にあたっては、鉄道建設・運輸施設整備支援機構鉄道・運輸機構)が国と地方自治体から整備費の3分の2の補助を受けて路線を整備し、小田急は使用料を払って路線を借りて列車を運行する「都市鉄道利便増進事業」制度の採用を前提に、2033年唐木田駅からJR横浜線相模原駅を経由し、JR相模線の上溝駅まで約8.8kmの一括開業を想定。運行本数は朝ラッシュ時間帯1時間あたり9本(急行3本、各停6本)、オフピーク時間帯1時間あたり6本(急行3本、各停3本)、運賃は小田急電鉄の運賃体系に50円の加算運賃を設定すると仮定しました。

その結果、概算建設費は1300億円、輸送人員は1日あたり7.3万人で、費用と便益の比率を示す整備効果は1.2となり、社会的意義は認められるものの、黒字化まで42年を要することが分かりました。

「唐木田~相模原間」で検討へ

これは都市鉄道利便増進事業適用の目安とされる「30年」を満たさないどころか、新線整備の可否を判断する目安の「40年」も上回る数字で、課題である採算性がクリアできない、つまり事業化は困難であることが明らかになりました。

そこで、唐木田~上溝間の一括開業ではなく、唐木田~相模原間(約5.8km)を先行して開通する「段階的整備案」もあわせて検討され、概算建設費870億円、輸送人員同5.3万人で整備効果1.3、収支採算性26年となり、こちらのケースでは条件を満たすことが確認されました。

報告を受け、2019年4月の市長選挙で初当選を果たしたばかりの本村賢太郎相模原市長は、唐木田~相模原間の先行整備を軸に検討を進めたいと表明しました。これは事実上、相模原~上溝間の整備断念を意味していると言えるでしょう。

多摩線延伸構想が加速した背景には、2014(平成26)年、JR相模原駅の北側に位置する在日アメリカ軍の補給施設「相模総合補給廠」の一部が返還され、駅と線路の導入区間が確保されるとともに、跡地の再開発計画が具体化したことが挙げられます。

相模原市は跡地にMeeting(企業等の会議)、Incentive Travel(企業等の研修旅行)、Convention(国際機関・団体、学会等が行う国際会議)、Exhibition/Event(展示会・見本市、イベント)用途など「MICE」需要を見込んだコンベンション施設を整備し、あわせて市役所や市民会館、産業会館などの交流機能を全面移転する計画を検討しています。再開発計画は多摩線延伸を前提として進められており、多摩線延伸の需要予測も再開発計画の順調な進展が前提であることから、実現性を優先した形です。

リニア新駅開業の影響は

さらに相模原市には2027年開業予定のリニア中央新幹線という、もうひとつの「大型再開発案件」が控えています。橋本駅南口の神奈川県立相原高校を移転して確保した用地の地下にリニア新駅を設置し、京王線駅舎をJR横浜線リニア乗り換え動線上に移転する具体的な検討が進んでいます。

地上は「交流拠点」として再開発し、駅前広場・イベントスペースなど地域の情報発信拠点となる「広域交流ゾーン」、オフィスや商業店舗など事業活動の拠点となる「複合都市機能ゾーン」、人材・情報の交流拠点となる「ものづくり産業交流ゾーン」を設置する計画です。

相模原駅から橋本駅までは約3km。これだけ近いエリアで同時に大規模な再開発が行われるのは異例ですが、相模原市の計画では、相模原駅周辺地区はMICE機能と行政・防災機能が集積する中枢業務拠点として、橋本駅周辺地区は在住者・勤務者・来訪者が交流できるゲートとして位置付け、相互に魅力を高め合うことで一体的な広域交流拠点を形成するとしています

ただ、そのためには新たな道路整備やJR横浜線の立体交差化なども必要になる見込みで、事業の規模はさらに拡大していきます。二重投資になって効果が分散しないか、同時並行的に開発を進められるのか、相模原市プロジェクトのかじ取りが小田急多摩線延伸の可否を左右することになりそうです。

【地図】小田急多摩線、唐木田から先のルート

小田急多摩線の現在の終点・唐木田駅の先にある車両基地(2011年11月、草町義和撮影)。