連載「Sports From USA」―“米国高校アスリートの髪形問題”に迫る

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回のテーマは「米国高校アスリートの髪形問題」。日本ではまもなく夏の甲子園を目指した高校野球の地方大会が本格的に始まるが、選手は坊主であることが一般的だ。果たして、米国では選手に対する髪形の規則はあるのか。日本のように入部に際して坊主が義務付けた場合、どうなるのか――。

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 日本では、生まれつき茶色い頭髪の生徒に髪を黒く染めるように求める学校があるという。スポーツ界では夏になると、高校球児のヘアスタイルについても議論される。日本高校野球連盟は、頭髪についての規則を設けていないが、多くの野球部の規則として丸刈りにするように求められるようだ。

「米国にはそのような規則は全くありません、キッパリ!」と言いたいところだが、数年前に、米メディアで報道された事例をご紹介したい。インディアナ州のグリーンズバーグ中学校では男子バスケットボール部員に対して、長髪を禁止していた。髪が耳にかからない、眉毛にかからない、襟にかからないようにするというもの。このバスケットボール部に入部希望の男子生徒は、髪が長いという理由で、練習に参加させてもらえなかった。男子生徒の保護者は、学校を相手に裁判へ。裁判所は、髪の毛を理由に練習させなかったのは、法律違反だと判決を下した。

 どのような法律に違反したと見なされたか。その判決の内容は、私にとって非常に興味深いものだった。

 この学校のバスケットボール部で長髪を禁じられているのは男子生徒だけだった。女子のバスケットボール部員に対しては長髪を禁止する内部規則はなく、長髪でも部の活動に参加できた。男子生徒であるために髪の毛が長いという理由で練習に参加させてもらえなかった。これが、性別によって公教育での活動の機会を差別してはいけないとする「タイトルIX(ナイン)法」に違反していると見なされたのだ。性別による機会の差別であると。

人種差別につながる例も…レスリング選手の髪を巡って大混乱

 髪形の問題は性別による機会の制限だけでなく、人種差別にもつながる。

 昨年12月には、米ニュージャージー州の高校レスリング選手の髪を巡って、大混乱が起こった。

 高校レスリングは競技規則で髪の長さが定められている。規則よりも髪の長い選手は決められた仕様のキャップを被らなければいけない。出場した一人の高校生選手はドレッドヘアの長髪だった。審判は、この選手の持っていたキャップも規則に準じたものではないとして、試合直前に髪を切るか、試合を放棄するかを迫った。審判は白人、高校生選手は黒人。選手は髪を切り落として試合をしたのだが、はさみを入れる様子の動画がSNSで拡散されると、人種差別、人権問題だとして批判の声が巻き起こった。人種によって髪質は違うから、適したヘアスタイルも違う。ドレッドヘアは黒人のアイデンティティにかかわるものでもある。規則違反だとした審判の判断は競技規則に則ったものなのか、それとも人種差別だったのかを巡って混乱した。

 人種差別ではないかという批判を受け、今年4月に、米国の高校レスリング規則は一部が改正された。ビーズやピンなどを使って髪をまとめることの禁止を追加し、髪をトリミングすることなどの言葉を削除した。規則を読む限りでは、ドレッドヘアでも良い、ただし、長髪の場合はキャップを被ることと解釈できる。

 私はミシガン州中学生の陸上大会で、ターバンをつけて走っている男子生徒を見かけたし、近所の高校の陸上部の練習にはヒシャブをまとっている女子選手の姿もあった。人種、民族、宗教によって髪形は変わる。競技規則ならば、それに従わなければ試合には出られないが、特定の価値観に基づいたヘアスタイルを求めることは、人権問題につながる。

 ただし、厳密にいえば、どのようなヘアスタイルでも良いというわけではないだろう。各学校には校則としてドレスコードがあり、私の子どもが通う学校のドレスコードには、髪は清潔にすること、などと書かれている。埃や皮脂まみれであると違反とみなされ、警告されるかもしれない。(私の子ども小学校や、デイケアと呼ばれる保育園に通っていたときには、クラスでシラミが発生したことがあった。感染の恐れがあるので各家庭に注意を促すように連絡があった。髪を清潔にするというのは、見た目の問題だけでなく、健康や公衆衛生の問題がある)

米国で丸刈りでなければ野球部に入れないとなったら…どうなる?

 では、米国では、どんな髪形でも咎められることがないのか。例外は米軍だろう。髪形のスタンダードが定められている。米軍のホームページには、男性は耳や襟のラインにかからない、前頭部や頭頂部の長さまで細かく定められている。女性についても標準の髪形が定められている。しかし、軍で働く黒人の女性らが、ストレートで下に向かって伸びてくる髪の毛を想定した規則だと反論。これを受けて条件付きで編み込むスタイルブレイズなども認められることになった。

 安全にスポーツするために、長髪はまとめなければいけないこともあるし、金具やピンのついたものを髪につけてはいけないなどの規則はある。米軍は仕事を遂行するにふさわしい髪形という理由で詳細なスタンダードを決めているが、黒人の女性たちから批判されて、規則を変えた。

 もしも、米国で丸刈りでなければ公立校の野球部に入れないということであれば、髪形によって活動の機会を制限されたという人権や差別問題とみなされる。各野球部の監督が丸刈りを「おススメ」することは許容範囲だと思う。それでも、もしも、髪を短く刈っていないと入部できないというルールならば、髪形を理由に野球をする機会を奪われるから、私は、反対だ。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

谷口 輝世子
 デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランススポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ子どもスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

日本のように入部に際して坊主が義務付けた場合米国ではどうなるか(写真はイメージ)【写真:Getty Images】