(姫田 小夏:ジャーナリスト)

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 中国・上海では生活ゴミの分別の話題で持ち切りだ。単なる“茶飲み話”ではない。住民たちはちょっとしたパニック状態に陥っていると言っても過言ではない。

 7月から施行される「上海市生活ゴミ管理条例」によれば、生活ゴミは今後以下のとおり4種類の分別が必須となる。これに従わない住民は50元以上200元以下の罰金が課されるという。

(1)紙類、瓶、衣類、金属、プラスチックなどの「リサイクル可能なゴミ」 
(2)電池、蛍光灯、薬品、ペンキとその容器、殺虫剤などの「有害ゴミ」
(3)残飯、期限切れの食品、青果物の種や皮などの「濡れたゴミ(湿垃圾)」
(4)上記以外の「乾いたゴミ(干垃圾)」

わけが分からない分別の基準

 この春頃から上海の友人たちは、しきりにこの新しいゴミ分別を気にしていた。筆者は「分別回収に対する住民の意識が高まるのだからいいんじゃない?」と軽く受け流していたが、どうやらことはそう簡単ではないようだ。「濡れたゴミ」とは単なる「生ゴミ」だと思っていたが、実はそうではないらしい。

 テレビでは「使用済みのティッシュやトイレットペーパーはどう分類するのか」といった話や、SNSでは「マンゴーの種は『濡れたゴミ』だけど、ドリアンの皮は『乾いたゴミ』らしい」など困惑の声が飛び交っている。

 行政側が作成した事例集を見てみたところ、確かにその分類法には首を傾げてしまう。

 例えば、落花生の皮は「乾いたゴミ」に分類されるが、ビスケットは「濡れたゴミ」に分類されている。鶏、鴨、鵞鳥の骨は「濡れたゴミ」だが、牛や豚の骨は「乾いたゴミ」。また、濡れたゴミ袋、ウェットティシュー、粽の竹の皮、貝殻などは「乾いたゴミ」に分類されるようだ。

 どうしてこうなるのかさっぱり分からないが、「濡れたゴミ」とは「台所から出る水気のある食品ゴミ」ではなく、「腐りやすいものかどうか」が基準となるようだ。

 そんなある日、上海の友人が「これ見て!」とSNSに書き込まれたある中国人のコメントを送ってきた。それは分別のコツとして「豚の気持ちで考えよう」というものだった。つまり、豚が食べられるものは「濡れたゴミ」、豚も食べないゴミは「乾いたゴミ」、豚が食べて命を落とすゴミは「有害ゴミ」というように分けるのだという。上海住民の間では「なるほど~!」「上手いこという!」と多くの共感を集めていた。振り返れば上海でも生ゴミを豚の飼料にするために回収していた時期があった。

ゴミ袋にQRコード?

 上海市における今回の新たなゴミ分別の導入には、分別に慣れているはずの日本人も当惑している。

 浦東新区に在住する日本人女性は、「すでに居民委員会(共産党による町内会のような組織)からボランティアの指導員が派遣されてきて、分類方法を説明し、ゴミ捨て指導を行っています」という。浦東新区に限らず「どこの家庭ゴミの集積場でも厳しい管理が行われるようになった」(静安区に在勤する上海人男性)ようだ。

 また、前出の女性が住むマンションでは、「ゴミ袋にQRコードを貼ることになるかもしれない」という。QRコードは、上手に分別ができればポイント加算になったり、各家庭のゴミ出し情報を記録することに使われ、地域によってはすでに積極的な活用が進んでいる。

 上海市生活ゴミ管理条例によると、これから、ゴミの分別回収にクラウドコンピューティングやビッグデータなどを積極的に活用する「ゴミのインターネットプラス構想」を進める考えだという。

守られなかったこれまでのゴミ分別

 上海におけるゴミの分別は、今回初めて導入されるわけではない。2400万人が生活する上海では毎日約2万トンを超えるゴミが排出される。そんな上海では2000年からゴミの分別回収が始まっている。

 しかし、これまでは形だけのものにとどまり、大多数の住民は分別に無関心だった。上海などの大都市には、ゴミの分別を生業にする人々が存在しており、彼らが“中国流のリサイクル”を担っていたためでもある。こうした独特なリサイクルシステムによって、住民の間に分別回収の習慣が根付かなかったというわけだ。今回の条例のように、厳しい監視と罰金に加え、テクノロジーによる仕組みを構築しなければ住民はゴミを分別しようとしない。中国人の国民性の現れと言えるかもしれない。

 上海市生活ゴミ管理条例が厳しい要求を突きつけるのは、家庭ゴミだけにとどまらない。党や政府機関には「使い捨ての容器の使用を減らす」よう求め、飲食業、ホテル業に対しても「使い捨ての箸や食器を積極的に提供してはならない」と指導している。

 2000年代以降、上海では(日本でも)「一次性」(使い捨て)がもてはやされたが、果たして縁が切れる日が到来するだろうか。

「分別は本当に効果があるのか?」

 さて、この上海市生活ゴミ管理条例だが、住民からはきわめて評判が悪い。わかりにくさに加えて、ほかにも理由があった。

「これだけ頑張って分別しても、どこまで実効性があるのか、正直言ってわかりません」。祖父の代から上海に居住しているという宋さん(仮名)は分別の効果に疑問を呈する。

 また、条例が導入された経緯にも異議を唱える。宋さんはこう続ける。

「ここ数年、上海市政府の上層部は外地出身者が多くを占めるようになりました。上海人は彼らを『中央から派遣された“落下傘兵”』だと皮肉っています。今回のゴミの分別も中央の指示で強制的に導入された。そのやり方は荒っぽく、上海の住民を動揺させています」

 上海を混乱に陥れている今回のゴミ分別騒動は、今後どのように収束するのだろうか。上海は、ビッグデータ分析を駆使する世界に冠たる“ゴミ捨て模範都市”に生まれ変わるのか。それとも、結局うやむやになって、これまでと変わらないのか。数年後の変化を楽しみに待ちたい。

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