2016年のリリース以来大きな人気を集め、今年の8月にはNintendo Switch版も発売される、CAPCOMのスマフォ用ゲーム『囚われのパルマ』。孤島の収容所で、記憶喪失の青年の相談員を務める内に様々な恋愛イベントが起こり、さらに彼の記憶をめぐる謎も解き明かされるという、恋愛要素と謎解き要素をミックスした体感恋愛アドベンチャーだ。このゲームの舞台版が、6月22日に大阪で初日を迎え、27~30日には東京でも上演。ゲネプロに先立って行われた会見と、ゲネプロの様子をレポートする。

■会見:「疑問に思ったことを全員でセッションする、非常に濃い現場」

ゲネプロ前の会見には、主演の太田基裕を始め、前島亜美悠未ひろ村上幸平、間慎太郎、石橋徹郎が出席。ちなみに太田が演じるハルト、悠未が演じる狩谷、石橋が演じる政木以外は舞台のオリジナルキャラクターとなる。それぞれの役と舞台の意気込みについて、全員が以下のように語った。

iOS/Android 『囚われのパルマハルトプロモーション映像

太田:如月ハルトを演じさせていただきます太田基裕です。ゲームではハルトという人物が(収容所に)囚われている状態からスタートするわけなんですけども、今回はそれ以前のお話ということで「ビハインドストーリー」という形で舞台化することになりました。ハルトという人物が(記憶を失う前に)どのような環境で、どのような人生を歩んできたのか、そういう所にスポットを当てながら話は進んでいきます。ゲームをやったことのない方が、この作品を観て「ぜひゲームやってみたい」と思っていただけるよう、頑張っていきたいなと思っております。

前島:篠木文乃役の前島亜美です。私はとある目的のために、ハルトがいる研究所に派遣された研究員という役柄です。私はもともと『パルマ』のゲームをしていて、周りでもとてもファンの多かった作品だったので、今回舞台化に携わらせていただけて、すごく嬉しいなあと思います。『パルマ』は世界観がしっかりしていて、とてもキレイで美しい作品なので、「一体舞台化ってどうやるんだろう?」と思われるファンの方も多いと思うんですけれども、原作ファンの方にも初めての方にも、楽しんでいただける舞台になったんじゃないかと思います。

悠未:狩谷稔役をさせていただきます悠未ひろです。狩谷は原作のゲームにもあるキャラで、いつもハルトの横に付いてる看守の人なんですけども、今回はその前のストーリーということで、(原作中の)謎がいろいろ「こうだったのか!」とわかると思います。ゲームという平面のものから、生身の人間が演じて立体化させていく作業が、難しくもあり楽しくもありというお稽古でした。これが舞台に上がり、人間が魂を拭き込んだ時にどうなるかを、楽しんでいただけたらと思います。

(左から)太田基裕、悠未ひろ、石橋徹郎。 (C)CAPCOM CO.,LTD.2019 ALL RIGHTS RESERVED.

(左から)太田基裕、悠未ひろ、石橋徹郎。 (C)CAPCOM CO.,LTD.2019 ALL RIGHTS RESERVED.

村上久保田佑役の村上幸平です。久保田ハルトと同じ「シーハイブ(製薬研究所)」の研究員で、チームのまとめ役というポジションです。ゲームには出てこないキャラクターですけども、原作ファンの方にも愛してもらえるように、原作の空気感を壊さず、かつ何かスパイスになれたらいいなと思っております。

石橋:政木役を務めます石橋徹郎と申します。今回はビハインドストーリーということで、ハルトの周りにいる人間の物語もいっぱい絡んできますので、それによってハルトというキャラクターが、より人間味を増していくんじゃないかと。この世界に僕らが実在感を持たせることによって、ゲームを楽しんでくれた方に、より愛着を感じてもらえる舞台になればいいなと思います。

:八木沼剛志役をやらせていただきます間慎太郎です。八木沼はものすごく出世欲の強い、傲慢な政治家の役なんですけど、本当にお客様から「こいつ、なんちゅうバイタリティやねん」と思ってもらえるように。僕の本当の性格は(八木沼と)逆なんですけども、そう思ってもらえるように一生懸命稽古したので、ぜひその辺も観てください。

また今回の物語や役の作り方について、脚色・演出のカニリカやキャストだけでなく、ゲーム版のディレクター・白鳥有葵を始めとするCAPCOMサイドも一緒に、入念に話し合いながら進めてきたことも明かしてくれた。

(左から)間慎太郎、村上幸平、前島亜美。 (C)CAPCOM CO.,LTD.2019 ALL RIGHTS RESERVED.

(左から)間慎太郎、村上幸平前島亜美(C)CAPCOM CO.,LTD.2019 ALL RIGHTS RESERVED.

太田スタッフキャストの皆さんで、疑問に思ったことをセッションするという、非常に濃い稽古だったと思います。これがどのようにお客さんに感じてもらえるかは、期待半分不安半分です。やっぱりお客様が入って変わることも、たくさんあると思うので。

前島:原作はとても繊細で細やかな魅力があると、個人的にも感じていたんです。今回のお芝居も製薬会社の話なので、実験や研究の動きの一つひとつをとても細かく確認したり、考えながら作ってきました。ぜひ細かな手の動きなども、注目していただきたいと思います。

悠未:白鳥さんの世界観はすごく細かく考えられていて、台本上だけではそこまで読み込めない部分がたくさんあるので、そういう時にキャストと話し合ったり、芝居をぶつけ合ったりという。本当にみんなで助け合い、先輩に助けていただきながら稽古してきた現場でした。

村上:今回は実験や仕事をしている姿を、なるべくリアルに見せようということで、そこをすごく時間をかけて稽古しました。(中心で)しゃべってる人の後ろでも、細かい動きをしているんで、そういう所にも注目していただけたらなと思います。

石橋CAPCOMさんからいただいた(ゲームの)裏設定はすごく細かかったんですが、まだそれは文字情報だけで。その文字だったものを、生身の人間が言葉にしてしゃべると、当然熱や何かが伝わってくるわけです、このボディに。その時に初めて生まれる感情というものがあるし「なるほど、政木はこういう気持ちだったんだ。政木はここに間違いなく実在するはずだ」と感じる、感動的な瞬間があるんですよね。それを本番の舞台でどれだけ、いいイメージで実現できるか? というのが、一つの勝負になってくると思います。

:八木沼はカニリカさんに「とにかく悪く、とにかく強く、とにかく出世欲が強い。そういう面を出してください」ということで。そこを追求してきましたので、ぜひそこを観てください。

また会見の最後は、太田が以下のような言葉で締めくくった。

太田:舞台はお客様が来ていただいて成立するものだと、本当に思ってまして。毎公演来てくださるお客様に感謝しながら、板の上で一生懸命、誠意を持って頑張っていきたいなと思っております。千秋楽までスタッフキャスト一同頑張っていきますので、ぜひとも最後まで応援よろしくお願いします!

舞台『囚われのパルマ―失われた記憶―』会見に出席したキャスト。(左から)間慎太郎、村上幸平、前島亜美、太田基裕、悠未ひろ、石橋徹郎。 (C)CAPCOM CO.,LTD.2019 ALL RIGHTS RESERVED.

舞台『囚われのパルマ―失われた記憶―』会見に出席したキャスト。(左から)間慎太郎、村上幸平前島亜美、太田基裕、悠未ひろ、石橋徹郎。 (C)CAPCOM CO.,LTD.2019 ALL RIGHTS RESERVED.

ゲネプロ:誠意や愛が人間を追い詰めていく、繊細かつシリアスな世界。

舞台上には、研究所とカフェ風のセットが並び、その後ろには重役室を思わせる重厚な部屋。さらにその上には、DNAを彷彿とさせる抽象的な美術が浮かんでいる。DNAはこの舞台が、製薬会社の研究所であることを強調するとともに、もしかすると今回の物語自体が、DNA→遺伝が一つのキーワードだということのメタファーなのかもしれない、とも思った。

ハルト(太田)と狩谷(悠未)が収容所内で会話を交わす、原作ゲームの一場面を思わせるプロローグから始まり、舞台は「シーハイブ製薬研究所」の研究室に移る。そこでは久保田(村上)を中心に、山辺(清水一希)、島本(瑛〈あきら〉)、郷田(山岸拓生)とハルトチームとなって、癌の治療薬の開発が進められている。彼らの何気ない、ほんの数分のやり取りから、ハルトはかなり優秀な研究者だが人付き合いが苦手なこと、山辺はハルトに対抗心を抱いてること、郷田は古株だけど立場が弱いことなど、様々な情報が伝わってくる。前島や村上が会見で「研究所での細かい動きをすごく大切にした」と語っていたことが、かなり生かされていることがわかる。

そこに、新たな研究員として篠木(前島)が入ってきたことで、物語は急速に動き始める。一見明るくて人なつこいが、研究内容をゴリ押しで知りたがったり、政治家の八木沼(間)と怪しげな連絡を取り合っていたりと、行動の一つひとつが意味ありげ。また同時に、看守となる前の狩谷(悠未)も、八木沼やハルトの周辺に出現。篠木とはまた別ルートで、八木沼が探っている内容について調査していることがうかがわれる。

そこからしばらくして、研究所所長の政木(石橋)から、今あるプロジェクトを中止して、「ベアトリーチェ」と呼ばれる薬品を早急に開発するようにとの指令が下り、そのプロジェクトリーダーハルトが任命される。政木はハルトの優秀さを高く評価していると同時に、今は亡きハルトの両親である義人(青地洋)と涼子(愛純もえり)……特に涼子に目をかけていたことが、しばしば回想や心の声として語られていく。

そうして新薬開発に乗り出したハルトだが、先輩の村上を抑えてリーダーになったことから生まれる人間関係のギクシャクや、「ベアトリーチェ」に異常な執着を見せる政木の態度に悩まされることに。それでも研究を進めていくうちに、ハルトは「ベアトリーチェ」の危険性に気づいて開発中止を決意するが、それが彼の悲劇の引き金となる……。

ゲームの世界の舞台化……今風に言うと「2.5次元」化は、これまでも多くの前例がある。しかしプレイするゲームの世界そのものを立体化する例が多いのに対して、『パルマ』はゲーム場面は極力最小限に抑え、ゲームの謎解き部分となるハルトの正体と、彼が記憶を失うに至った真相の舞台化に徹した。いわばゲームでは言葉でしか語られない所を、実際に再現してみせたという形だ。これはゲーム愛好者にとっては、想像で補うしかなかった場面がビジュアル化されたことに、新鮮さと嬉しさを感じるだろう。またゲームをしたことがない筆者のような人間も、金銭や名誉などの我欲ではなく、誠意や愛という優しい感情も人間を追い詰め、時に破滅させる一因になり得るという内容に、いろいろ考えさせられる。

歌や踊りは一切なく、丁寧な会話と演技でストレートに見せていく。しかも悠未が会見で「ほっこりする場面がたくさんあるわけじゃない」と語ったように、全体的にはかなりシリアスな空気だ。研究所近くのカフェの店員・小林(頼朝明子)と研究員たちのやり取りが、唯一と言っていいほど息が抜ける場面かもしれない。しかし他の「2.5次元モノ」でよく見るような、観客サービス的な笑いなどを入れてしまっては、その一点だけでも原作の世界からは大きく遊離したものになってしまったのだろう。まさに原作のCAPCOMと、舞台チームが一丸となって『パルマ』の世界観を大切にして作ってきたことがうかがわれた。

また……何度も言うが筆者はプレイしたことがないので、いろんなファンブログから得た情報だけで語ることになるけど、このゲームプレイヤーの選択次第で、物語の展開や結末だけでなく、ハルトキャラクターも微妙に違ってくるという。いわば各プレイヤーごとに「私だけのハルト」が存在するというわけだ。そうするとゲームの世界そのものを舞台化した場合、ハルト像が必然的に、今回のキャストスタッフの考えるものに限定されてしまうので、各人の「私だけのハルト」との違いに違和感や失望を覚える危険が大きい。それを回避する意味でも、誰もがフラットな状態で観られる、プレイ前の世界(ビハインドストーリー)を舞台化したのは、このゲームにとって最良の選択だったのではないだろうか。

実際に大阪公演の感想をSNSで探ってみると「繊細さがとてもパルマらしい」「原作を知らなくても鳥肌が立った」など、ゲームをしたことがある人/していない人両方に満足ができる舞台となったようだ。大阪での観客の反応を得て、東京ではさらに深みが増すはずの『囚われのパルマ』。その繊細な世界を味わうと同時に、会見の最中に盛り上がった「悠未さんのスマフォの出し方やしまい方がカッコいい」という点も、ぜひ確認していただきたい。(確かに「おお、シュッとしてる!」と、ちょっとトキめいたので)

取材・文=吉永美和子 撮影=田浦ボン

舞台『囚われのパルマ―失われた記憶―』より。