新幹線が変形するロボット「シンカリオン」を運転できる少年少女たちの活躍を描いてきた、人気テレビアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』
6月22日(土)に放送された第75話のラストでは、地底人キトラルザスのキリンが操るブラックシンカリオンオーガに対して、北海道から九州まで全国から集結したシンカリオンが一斉攻撃。最強の敵に対して渾身の一撃を放った。

6月29日(土)に放送される第76話は、ついにテレビシリーズの最終回。
新幹線が大好きな少年、速杉ハヤトを中心とした物語も一つの区切りを迎える。

テレビシリーズのフィナーレを記念して、エキレビ!では、第1話から作品を支えてきた池添隆博総監督三間雅文音響監督による初めての対談を企画!
前編では、今週末に放送されるテレビシリーズ最終回への思いや、制作が発表された劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン』について語ってもらった。

最初は1年という話だったが、好評で1年以上続けられた
──29日(土)放送の第76話で、ついにテレビシリーズが最終回を迎えます。通算6クールという長期シリーズとなりましたが、今の率直な気持ちを教えてください。

池添 実はこの1年半くらい、毎週毎週、緊張感のようなものが取れなくて。1年以上続く作品の監督をするのは初めてだったこともあり、身体的にかなりしんどい状態だったんです。(スケジュールの兼ね合いで)1月から監督を板井(寛樹)さんに引き継いでもらって、自分は総監督という一歩引いた立ち位置になる前は、かなりギリギリのところまで来ていました。だから、最終回を迎える淋しさももちろんありますが、やり切った気持ちの方が正直、強いかもしれません。

三間 皆さんには「打ち切りでは無いんですよ」って言いたいですね(笑)。

池添 ははは、そうですね(笑)。

三間 最初は(2018年12月までの)1年という話だったんです。それが好評で延長され、1年以上続けることができて、僕らは喜んでいました。ただ、ここで終わることに関して、特に子供たちには突然の感じもあると思うんですよ。

──4月から新たな敵キリンも登場し新展開が始まったところだったので、意外だった人も多いと思います。

三間 それでも、大人だったら「延長されたんだな」と分かってもらえると思うのですが、子供の場合はそうはいかない。でも、せっかく好きになってくれた作品が打ち切りだと誤解されてしまうのは寂しいよね、という話はスタッフたちの間でもしていました。だから、最後の13本を作っている時は、「『シンカリオン』は惜しまれながらも終わっていくんだ」という感覚を強く持ちながら作っていて。最後まで勢いを持った作品になるように、スタジオでは本(脚本)の中身についても、突っ込ませてもらったりしていました。

池添 最後の13本に関しては、僕が直接関わることができたのは本読み(シナリオ打ち合わせ)の最初の方までだったんです。アフレコもすべてに参加することはできず、三間さんたちにおまかせした部分が大きかったので、申し訳ない気持ちもありました。

──テレビシリーズは最終回を迎えますが、劇場版が2019年の冬に公開されることが発表されました。

池添 劇場版については、テレビシリーズが始まった頃には、全然予定にありませんでした。(作品に)これだけ大きな反応があったからこそ、実現したことなので驚いたし、嬉しかったですね。劇場版に携わることは、以前からの目標でもあったので、決まった時には身体もちょっと元気になりました(笑)。

三間 (前番組の)『ドライブヘッド(トミカハイパーレスキュードライブヘッド 機動救急警察)』は映画になっていたので、『シンカリオン』がならなかったら、どうしようと思っていました(笑)。でも、これで同じ土俵に並ぶことができる。映画でも、また勝負ができるなという感覚ですね。

三間さんの仕事を見て、「アニメ制作って、やばいな」と思った
──お二人は、2015年の『SHOW BY ROCK!!』と、2016年の『SHOW BY ROCK!!#』でも監督と音響監督という立場で一緒に作品を作っています。お互いに当時の印象や、その後の変化について教えてください。

池添 三間さんは業界の大先輩。僕は、30代はずっと(アニメ制作会社の)ボンズさんでお世話になっていて。スタジオで、演出として三間さんの背中を見たり、音響効果の倉橋(静男)さんとのコンビのお仕事を見たりして、「アニメ制作って、やばいな」と思っていたんです(笑)。

──具体的に、どこが「やばい」と思ったのですか?

池添 作品作りに対しての本気度がすごかったんです。演出としての振る舞いや、(声優への)ディレクションの仕方などもそうで、ずっと勉強させていただきました。だから、自分がボンズで監督をやれることになった『SHOW BY ROCK!!』で、三間さんが音響監督をやってくださることになった時には相当ドキドキしましたね。アニメをどう作るか以上に、監督として三間さんの前でどう振る舞えば良いんだろうって、すごく緊張した覚えがあります。

三間 そんなに怖がられてるから、仕事が減ってるのかな(笑)。

池添 いえいえ(笑)。

──それくらい緊張していたのですね。でも、ベテランの三間さんが音響面を支えてくれることへの安心感はあったのでは?

三間 安心感とかではなく、たぶん、「ちゃんと身構えて行かないと殺されるぞ」って感じに思っていたんじゃないかな(笑)。

池添 しっかりと覚悟を持って、現場に臨まないとダメだなと思っていましたね。

──三間さんは、池添監督について、どのような印象がありましたか?

三間 『SHOW BY ROCK!!』の時の池添さんは、言葉は少ないけれど、作りたいものや、やりたいことはすごくしっかりとあって。「こうはできないですかね?」「じゃあ、こうはできないですかね?」って、どんどん要求をしてくるんですよ。そう言われたら「できません」とは言えないじゃないですか、一応ベテランって呼ばれている限りは。

──同じクリエイターとして、負けた感じがしそうですね。

三間 池添さんは、そこを上手く突いてくるから「やってみます」としか言えない。それができたなら、作品にとっても良いことですからね。だから、池添さんのことは「面倒くさい監督だなあ」と思っていました(笑)。

──三間さんの「面倒くさい」は、褒め言葉に聞こえます。

三間 そうそう、褒め言葉。役者さんもそうですが、面倒くさい人って素敵ですよ。だって、それだけ(仕事に)こだわっているわけですから。『SHOW BY ROCK!!』の時、池添さんからはかなり刺激を受けたので、『シンカリオン』でまたタッグを組めるのは、すごく楽しみでした。でも、『シンカリオン』では、いろいろな現場の状況などもあったみたいで、そういう意味では本来の"池添イズム"が出し切れていなかったと思うんですよ。

池添 う〜ん、さすが……全部バレてますね(笑)。

三間 ただ、そんな中でも、これだけ人気のある作品になったのは、やっぱり池添さんの力があったからこそだと思います。

池添 ありがとうございます。

子供たちに作品が伝わるのって、こんなにも嬉しいものなんだ
──前回、池添監督にお話を伺った際、「アフレコとダビングを三間さんが担当してくださっていることは、『シンカリオン』という作品自体にとっても、かなり大きいことだと思います」と仰っていました。もう少し具体的に、どのような点で大きいことだったのかを教えてください。

池添 僕には、監督や演出家として、いわゆる師匠みたいな存在がいないんです。だから、先ほどの話とも重なりますが、「演出とはなんぞや」とか「アニメを作るとはなんぞや」といったことは、三間さんの背中や一つ一つのディレクションを見て、学んでいったつもりでした。僕にとってそういう存在であり、本物の演出家である三間さんと一緒にやれて、作品の芯を作ってもらえたということが、この作品では一番大きなことだったという意味だったんです。僕自身も、また大きな経験をさせていただきました

──三間さんは音響監督として、『シンカリオン』で特に強く意識したことや、この作品ならではの苦労などはありましたか?

三間 音響監督としての取り組み方自体は、他の作品と何ら変わらないことをやっています。ただ、現場の雰囲気作りということで言えば、(主人公の)ハヤトを演じている佐倉(綾音)さんを上手く焚きつけることができたら、周りのみんなも彼女に付いていくだろうし、逆に万が一、佐倉さんが凹むようなことがあったら、この作品は終わってしまうとは思っていました。佐倉さんはとても真面目な性格なので、いろいろなことを深く考えるんです。

池添 たしかに、とても真面目ですね。

三間 そして、真面目でよく考えるということは、一つ一つのことをしっかり疑うということでもあるから、疑問に思ったことは、きちんと答えを求めてくる。そこで、こちら側がちゃんとした答えを返すことができないと、不安にも繋がっていくと思ったので、そこの対応はいつも以上に丁寧にしたつもりです。

──新幹線を扱うことであるとか、ロボット物であるとか、メインターゲットが児童の作品であるといった理由での特別な作業などはなかったのでしょうか?

三間 僕個人の話になりますが、これまで、おもちゃ優先の作品をやったことがなかったんです。だから、「このおもちゃの音や音楽を必ず使う」といった縛りについて考えながら音を付けていくのは、苦労したところでもありますが、面白かったですね。

──『シンカリオン』を通して、新しい引き出しが増えたような感覚ですか?

三間 まさにそうです。自分にとってはすごく新しい経験でした。あとは、近所の子供が『シンカリオン』の大ファンになってくれていて。『シンカリオン』のプラレールを持っている姿を見た時には、「子供たちに作品が伝わるのって、こんなにも嬉しいものなんだ」と思いました。
(丸本大輔)

(6月29日公開の後編に続く)

第75話の次回予告終了後、劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン』制作決定が発表。作品に関する情報は、まだ何も明かされていないが、公式サイトや公式Twitterで随時公開予定